今年はここ数年のなかでも最も多産な1年であったと思う.多産というのは書き上げたコラムの数ばかりではない.新たなる展開を生み出せたという意味においても然りである.とくに「奇数角の穴をあけるドリル」や「中川宏の空間充填六面体」は本コラムのオリジナルな成果と呼べるものであろう.
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【1】n角の穴をあけるドリル
四角,六角,・・・,偶数角,・・・の穴をあけるドリルはドイツ人のルーローにより既に知られている.また,三角の穴をあけるドリルについては実物があるかどうかはわからないが原理的には知られていて,それは日本人の手によるものである(藤原・掛谷の二角形).しかるに,五角,七角,・・・,奇数角,・・・の穴をあけるドリルについては何も知られていなかった.
それで自ら考えてみることにしたのであるが,少し回り道をしたものの三角関数の知識のみを必要とするだけで,困難というほどのこともなく思ったより簡単にできあがった.GWに訪中する前だったので,帰国してこの発見を記事にすることが待ち遠しかったことが思い出される.
その後,この成果を秋山仁先生に報告し,NPO法人・科学協力学際センターの総会で発表した.とはいっても当初は実物を製作したわけではなく,コンピュータプログラム上での仮想的な存在であったが,NPOでの発表がご縁で実物を製作してみようということになった.東北大学金属材料研究所の臼井和也さんが協力してくれて,「数学の美しさ」を感じさせる出来映えとなった.
ここでは金属板をワイヤー・カット加工した模型を製作したが,いずれアクリル板をレーザー・カットしてn角の穴をあけるドリルの模型を製作するつもりである.これは廉価版を製作するためばかりではなく,軽量版にすることでスピログラフのような動作を実現させたいからである.
歯車が二重になっていて歯車の穴に鉛筆を差し込んでクルクル回転させると花びら模様が描かれるおもちゃがある.これをスピログラフというらしい.いま,娘達はスピログラフに夢中である.n角の穴をあけるドリルの場合は,歯車の穴に鉛筆を差し込んでクルクル回転させるとn角形が描かれるという代物が考えられる.
回転円が固定円に接して滑ることなく転がっていくとき,回転円の周上の点の軌跡を考えよう.回転円が固定円に外接するとき,その軌跡をエピサイクロイド,内接するとき,ハイポサイクロイドと呼ぶ.この装置がハイポサイクロイドの応用であることはすぐに理解される.固定円と回転円の半径比R/rが無理数なら曲線は決して閉じないから,有理数倍になっているのであろう.
一方,エピサイクロイドは地球から見たときの惑星の逆行運動の説明に用いられた曲線で,古代ギリシア人は,惑星の動きを表現するために周転円(円の周りをまわる円)を考えていたことが知られている.
また,関連する記事として
「デルトイドの幾何学」
があげられる.これは「掛谷の問題」に焦点をあてて,2n+1個の尖点をもつ星状領域の面積Snが掛谷定数:(5−2√2)π/24に収束すること,すなわち
Sn→(5−2√2)π/24<π/11
となることを紹介したものである.
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【2】中川宏の空間充填六面体
中川宏さんとは今年も引き続きアイディアを出し合っては各種木工多面体を製作することができた.
「α−14面体・β−14面体の木工製作」
「α−12面体・β−12面体の木工製作」
「コンウェイの二重プリズム」
「凧型24面体の木工製作」
「菱形30面体の木工製作」
などが木工多面体に関するものである.
準正多面体は外接球をもつが,頂点での接平面に囲まれた立体は双対準正多面体(カタランの立体)と呼ばれる.凧型24面体,菱形30面体,菱形12面体などはカタランの立体である.プラトンの立体,アルキメデスの立体を含め,これらの成果をまとめてNPO法人・科学協力学際センターから
「多面体木工」
を刊行できたことは特筆に値することであろう.「多面体木工」は幸い,好評理に迎えられ,空間充填多面体の内容を増補して増刷することになった.大澤英二先生の寄稿も収録される予定である.
その後,中川さんの多面体研究は,空間充填多面体を中心として続き
「ボロノイ細胞と平行多面体」
において私が勝手に「中川宏の空間充填六面体」と名付けた多面体24個で切頂八面体,96個で菱形12面体を構成できることを発見できた.
この模型では菱形12面体のなかに切頂八面体がすっぽり納まるのであるが,最密球充填から最疎球被覆までの相転移を説明するためのモデルとしてこのことのもつ物理的意義は極めて大きいように思える.
なお,
「ボロノイ細胞と平行多面体」
は3次元空間充填多面体の基本形が14面体であり,平行な辺の長さを0に退化させることによって,切頂八面体(f=14)→菱形12面体(f=12)→→→立方体(f=6)となることを解説したシリーズである.ついでにいうと2次元空間充填の基本形は6角形,4次元空間充填の基本形は30胞体となる.
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【3】高次元幾何学
「高次元のパラドックスとスターリングの公式」
「球面上の最近接距離分布」
「乙部融朗の立体ペンタグラム」
「4次元図形の基礎雑学」
などは高次元幾何学を扱った記事である.
本コラムでは以前にn次元空間にポアソン配置された点の最近接距離分布がワイブル分布になることの証明を与えていて,多くの分野でこのことが応用されているという話を聞く.「球面上の最近接距離分布」はその球面版であり,文字認識などの分野への応用が期待される.ただし,4次元以上の赤道周囲の低緯度地方はいいにしても,高緯度地方での計算に多少の問題が残っている.
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【4】その他
「因数分解の算法」
が秘かに回を重ね18回に及んでいる.これまでの最長シリーズ「奇数ゼータと杉岡の公式」の19回に迫るものとなったが,そろそろ打ち止めであろう.それに対して
「n角の穴をあけるドリル」
シリーズは現在13回であるが,来年はさらに回数を重ねることが確実である.
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