■単純リー環を使った面数数え上げ(その183)

 今回のコラムでは,フックスが提起した問題「どのようなときに線形微分方程式のすべての解が代数的になるか?」を取り上げることにします.超幾何関数が代数関数になったり,初等関数になったり,特殊関数になったりを決定する条件はどのように表されるのでしょうか?

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【1】シュワルツの代数関数解

 代数関数解とは2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される関数のことをいいます.

 シュワルツは,微分方程式が導く保型関数から,

(1)円弧三角形を複素上半平面Hに写像する際の写像関数は,微分方程式の2つの解の比y1/y2で表されること.

(2)すべての解が代数関数←→写像関数が代数関数(α,β,γは有理数)

(3)円弧三角形の頂角λπ,μπ,νπは特性指数の差である.

(4)円弧三角形は,λ+μ+ν>1になること.

を利用して,解がすべて代数関数となる条件を示しました.

 それは15通りの場合からなっているのですが,リーマン指標(λ,μ,ν)を用いて,整数部分を除いて小数点以下の端数部分を記すと,以下のように表されます.ただし,λ,μ,νの順序を変えることによる重複は避けています.

  正2面体群:(1/2,1/2,ν)

  正4面体群:(1/2,1/3,1/3)

  正4面体群:(2/3,1/3,1/3)  (整数部分の和=偶数)

  正8面体群:(1/2,1/3,1/4)

  正8面体群:(2/3,1/4,1/4)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(1/2,1/3,1/5)

  正20面体群:(2/5,1/3,1/3)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(2/3,1/5,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(1/2,2/5,1/5)

  正20面体群:(3/5,1/3,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(2/5,2/5,2/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(2/3,1/3,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(4/5,1/5,1/5)  (整数部分の和=偶数)

  正20面体群:(1/2,2/5,1/3)

  正20面体群:(3/5,2/5,1/3)  (整数部分の和=偶数)

 このように,シュワルツの表では分母が2,3,4,5の有理数になります.1/2が含まれるものについては,整数部分の和=偶数という条件は不要となります.そしてλ+μ+ν≦1であるか,λ+μ+ν>1であってもシュワルツの表を満たさない場合は解が超越関数となるのです.

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 ところで,上の表に正2面体群,正4面体群,正8面体群,正20面体群という用語を挿入しました.1次分数変換は複素数球面上で考えると1つの回転に対応しますから,写像関数が1価となるためには,有限な回転群である場合を調べれはよいことになります.球面上の運動の有限群は5つの回転群(巡回群,正2面体群,正4面体群,正8面体群,正20面体群)=広義の正多面体群に限ることが知られていて,これがシュワルツの表に対応するのです.

 ここで,正多面体群について説明するために,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えます.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがります.

(問)Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?

(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,2aα=2π.ゆえに,

  α=π/a   ただし,aは2以上の自然数.

 まったく,同様に残り2つの内角に対しても

  β=π/b,γ=π/c

 また,α+β+γ=πより

  1/a+1/b+1/c=1

 この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると

  (3,3,3) → 正三角形

  (4,4,2) → 直角二等辺三角形

  (6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形

の3種類が得られる.

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 以上の解は平面を鏡映三角形で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが,リーマン面(楕円的),ロバチェフスキー面(双曲的)を問題にするならば,解は非常に異なるものになります.

  α+β+γ>π,=π,<π

 すなわち

  1/a+1/b+1/c>1,=1,<1

に応じて楕円幾何学,ユークリッド幾何学,双曲幾何学の三角形が得られます.

 1/a+1/b+1/c>1を満たす正の整数の組(a,b,c)は高々有限個で,(n,2,2)は正2面体群,(3,3,2)は正4面体群,(4,3,2)が正8(6)面体群,(5,3,2)は正20(12)面体群に対応しています.

 一方,1/a+1/b+1/c<1の場合は(n≧7,3,2),(n≧5,4,2),(n≧4,3,3),(n≧3,4,3)など無限個あり,双曲幾何学における市松模様三角形タイル張りの可能性は無限にあることになります.

 すなわち,楕円的平面(球面)では基本領域は有限個しかなく,有限個の基本領域をならべることによって全平面を埋めつくすことができます.一方,双曲的平面(擬球面)の場合には,無限に多くの種類の基本領域があり,全平面を隙間なく埋めるには無限個必要となります.ユークリッド平面はその中間で,基本領域は有限種類しかないが,全平面を埋めつくすには無限個必要であるというわけです.

  幾何学       S^n       E^n     H^n

  α+β+γ     >π       =π     <π

 (a,b,c)  (n,2,2)  (∞,2,2)  その他

          (3,3,2)  (3,3,3)

          (4,3,2)  (4,4,2)

          (5,3,2)  (6,3,2)

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 平面充填ならば分母は2,3,4,6になるのですが,球面充填ですから分母は2,3,4,5となります.このように,シュワルツの方法は幾何的であって,

  λ+μ+ν>1

すなわち,球面を重なり合うことなく埋めつくす充填問題と深く関係していることが理解されます.

 実際,シュワルツが求めた解は正多面体が球面上に等角な図形を形作ることになるのですが,シュワルツの解において分子が1の場合は球面を単葉に,その他は複葉に覆う場合です.また,2個の円弧三角形を合わせたものを保型関数の基本領域,円弧三角形を上半平面に写像する1価関数をシュワルツ関数といいます.

 3個の確定特異点(動かない特異点)をもつ2階フックス型微分方程式の解構造はガウスの微分方程式の解構造に帰着することが知られているため,この問題は「超幾何微分方程式の24個の解すべてが代数関数となる条件を求めよ」と言い換えることもできます.そこでシュワルツはフックスの問題をまず超幾何方程式に対して解決し,引き続いて,一般の2階線形微分方程式に対しても解決しました.

 とはいっても,シュワルツの解答(1872)には不備があり不完全なものであったので,ブリオスキ(1876),クライン(1877),ケイリー(1880)らがシュワルツの誤りを訂正しました.

 なお,その方法には,幾何的(シュワルツとクライン),不変式論的(フックスとゴルダン),群論的(ジョルダン)なものがあったのですが,これらのうちで,群論的な方法(モノドロミー群は解がすべて代数的であるときに限って有限群となる)が際立った成功をもたらしました.こうして,フックスの問題は1870年代から1880年代にかけて解決されたことになります.

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【2】福原・大橋の初等関数解

 福原・大橋は初等関数で表される場合を解決しました(1949,1955).初等関数で表せるとは,ベキ関数・有理式とそれらの積分記号,微分記号で解が表せることをいいます.詳細は

  [参]コラム「超幾何関数とフックスの問題」

をご覧下さい.

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