年の瀬なので,何か大事なことを遣り残したことはないかと振り返ってみたところ,デルトイドの幾何学(その4)において釈然としない点を発見した.釈然としない点は,この星状図形では長さ1の線分を1回転させることはできないのではないかという素朴な疑問である.
===================================
【1】素朴な疑問
「デルトイドの幾何学」シリーズは「掛谷の問題」に焦点をあてて,2n+1個の尖点をもつ星状領域の面積Snが掛谷定数:(5−2√2)π/24に収束すること,すなわち
Sn→(5−2√2)π/24<π/11
となることを紹介したものである.その際,半径rの円の直径上に長さ1の線分がおけるものという条件を設けている.
2n+1個の尖点をもつ星状図形の接線が曲線に挟まれる部分の長さlは,点Pをこの曲線上の任意の点とすると,点Pが尖点上にあるとき接線の長さは最大になること,同じことであるが弧の中間点にあるとき最小になる.そして,点Pが弧の中間点にあるときの接線の長さは,nを大きくすれば次第に1に近づくことになり「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積」を与える近似図形になることが理解される.
すなわち,この星状図形では長さ1の線分を1回転させることはできないが,n→∞になると回転できるようになる.このことから,半径rの円の直径上に長さ1の線分がおけるという条件下でなく,接線の長さの最小値l0が1のときの星状領域の面積Snを求めて,デルトイドの場合と比較すべきではなかろうか?
最も狭隘な部分をミニマックス化するの際の相似比はl0:1であるから
r→r/l0,Sn→Sn/l0^2
と補正してみることにしよう.
===================================
【2】計算結果
[1]補正前(その2)
n r Sn
1 .788675 .300904
2 .83437 .290756
3 .844221 .2876
4 .848014 .286284
5 .84988 .285616
6 .850937 .285233
7 .851595 .284994
8 .852032 .284814
9 .852338 .284709
10 .852559 .284627
20 .853294 .284336
30 .853436 .284321
40 .853487 .284193
50 .853511 .284723
60 .853524 .284483
70 .853531 .28351
80 .853537 .283473
90 .85354 .283648
100 .853543 .284463
3尖点星状領域はデルトイドよりもやせた図形で,このときすでに掛谷定数に近い値が得られています.5個の尖点をもつ図形の場合,その面積はデルトイドの面積π/8(.392699)の約3/4(.290756)になります.nを大きくすると数値計算誤差のため,計算結果が揺らいでしまいます.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[2]補正条件(その4)
n l0 l0/r
1 .87084 1.10418
2 .958013 1.14819
3 .979092 1.15976
4 .98747 1.16445
5 .991642 1.1668
6 .994045 1.16818
7 .995519 1.169
8 .996509 1.16957
9 .997219 1.16998
10 .9977 1.17024
20 .999471 1.17131
30 .999491 1.17114
40 .999609 1.17121
50 1.00008 1.17172
60 .998292 1.16961
70 .999244 1.17072
80 .997806 1.16903
90 .99679 1.16783
100 1.00001 1.1716
このとき,r→(2+√2)/4であるから
l/r → 2(2−√2)=1.17157
なお,デルトイドの場合,r=3/4,l=1であるから
l/r=4/3=1.33333
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[3]補正後(ミニマックス化)
n r/l0 Sn/l0^2
1 .905649 .396782
2 .870938 .316801
3 .862249 .300015
4 .858774 .293596
5 .857043 .290451
6 .856035 .288661
7 .855429 .287566
8 .855017 .286813
9 .854714 .286299
10 .854524 .28594
20 .853746 .284637
30 .853871 .28461
40 .853821 .284415
50 .853445 .284678
60 .854984 .285457
70 .854177 .283939
80 .855413 .284721
90 .856289 .285478
100 .853534 .284457
補正後の3尖点星状領域(n=1)はデルトイドよりも大きいのですが,5個の尖点をもつ図形(n=2)の面積はデルトイドの面積π/8(.392699)よりも小さく約3/4(.316801)になります.nが大きいところではl0→1なので補正前の結果とほぼ同じ値です.
===================================