n角形の穴をあけるドリルでは,1回公転する間に1/(n−1)回自転するという運動を実現させてやればよいことになる.そのためには2つの歯車が必要になる.
東北大学・金属材料研究所の臼井和也さんが歯車の図面を描いたり,ドリルの設計から加工(ワイヤー・カット法)まで協力してくれて,3・4・5・6角形の穴をあけるドリルの模型を製作することになった.今回のコラムでは四角い穴をあけるドリルの模型を掲載する.
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【1】四角の穴をあけるドリルの数学的条件
1回公転する間に1/3回自転するという運動を実現させてやることが,四角の穴をあけるドリルに課せられた数学的条件である.
ロータリーエンジンの機構は数学的に非常によく考えられていて感心させられるのだが,小生が設計したロータリーエンジン型
回転子(内歯車,歯数r)
固定子(外歯車,歯数s)
ではうまくいかなかった.ルーローの三角形の包絡線がスタジアム型になってしまうのである.
臼井和也さんがこの誤りを訂正する発案をしてくれて,ローターとステーターの関係を逆転させたところ,想定した動作を実現させることが可能となった.
固定子(内歯車,歯数r)
回転子(外歯車,歯数s)
大円に内接しながら小円が転がるから,「自転・公転問題」としてはこの方が自然な発想であろう.
すなわち,ルーローの三角形に外向きの歯をもつ歯車(歯数s),四角形にも内向きの歯をもつ歯車(歯数r)をつけるのである.その場合,歯数の間に
(r−s)/s=1/(n−1) → (n−1)r=ns
という関係が成り立つ.これは(その12)の自転・公転問題で解説した
m−1=r/s−1=(r−s)/s=1/(n−1)
である.
n=4を代入して3r=4s.r=24であればs=18ということになる.nが大きくなるにつれて,両者の歯数の差は小さくなることがわかるが,歯数を調節することによってn角の穴があけられるのである.
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【2】四角の穴をあけるドリルの工学的条件
以上が数学的な必要条件であるが,これは歯数の比を与えてくれるだけであって,歯数や歯車の直径に関する工学的な条件が欠落している.
臼井和也さんは歯車に課せられた工学条件を決定したが,その際,歯数に関しては2つの歯車が干渉しないような最小歯数とし,それをもとに歯車の直径を決定し,四角い穴をあけるドリルの模型を製作してくれた.2つの歯車の直径はルーローの三角形に取り付けられた歯車の中心が定められた軌道を通るようにするとともに,両者がうまく噛み合わさる大きさに決めてやることが工学的な必要条件となる.
金属板をワイヤー・カットで加工した模型を製作したが,ルーローの三角形の包絡線が四角形になることを動作確認した後,アクリル板をレーザー・カットして四角い穴をあけるドリルの模型を製作する予定である.
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