■ボロノイ細胞と平行多面体(その11)

 (その8)において,切頂八面体の1/24分割体である「中川宏の空間充填六面体」96個を用いる菱形十二面体の組み立てを紹介した.とはいっても頭の中でこのことを想像することはむずかしいし,実物を手にしてもいざ組立てようとすると迷ってしまう.中川の六面体にはパズルのような趣きがある.

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【1】菱形十二面体のジグソーパズル

 これが中川の六面体96ピースで組み立てた菱形十二面体である.実際に中川さん製作のこの模型を眺めてみると,またしても思いがけない面白い結果が見えてくる.

 最外層のピースをのピースを取り除くと,菱形十二面体の中央にすっぽりと切頂八面体が収まっていることが見て取れるだろう.驚いたことに,菱形十二面体と切頂八面体を同時に見ることができるのである.

 頭の中だけでこのことを想像するのはかなり難しい.百聞は一見にしかず,模型を作って眺めてみないことには無理であろう.

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【2】無限の入れ子のジグソーパズル

 この模型を見て,さらに菱形十二面体(96ピース体)のさらに外層に中川の六面体をn層つけ足してみたら切頂八面体ができるのではないかという考えが浮かんだ.そして,その外側にまた層を作ると再び菱形十二面体ができる.もし,このことが可能であれば菱形十二面体と切頂八面体が無限に続く入れ子構造を形成することになるからである.

 工藤の空間充填三角錐8個で相似な立体(相似比1:2)をなすこと,中川宏の空間充填六面体4個を併せると工藤の空間充填三角錐ができることは以前述べた如くである.したがって,中川の六面体32ピースで組み立てた工藤の三角錐が合同な中川の六面体4個に分割できれば無限の入れ子をなすことになる.このことは中川の六面体8個で相似な立体(相似比1:2)を作れるかどうかということと同義である.

 そこで中川さんにお願いして検討してもらうことになったのであるが,2倍の大きさの中川の六面体はできなかったようである.私も中川の六面体の展開図を見ながら考えてみたのだが,2倍の大きさの正方形面を作ることはできなかった.以下にその不可能性を示す模型を掲げる.

 私にとっては残念な結末であったが,中川さん曰く「肉眼ではただの塊にしか見えない結晶を顕微鏡で覗くと,最初に見えてきたのは菱形十二面体の結晶.倍率を上げると切頂八面体の結晶が見えてきました.さらに倍率を上げると工藤の三角錐が見え,もう少し上げると中川の六面体が見えてくるのです.」

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【3】雑感

 面心立方格子のボロノイ多面体は菱形十二面体,体心立方格子のボロノイ多面体は切頂八面体です.ここで(その10)の話になるのですが,球形の素材を型に詰め込んでおいて,それをぎゅとつぶすという過程を考えてみましょう.結晶化の過程では,実際,このようなことが起こっていると考えられるのですが,その場合,最密充填から最疎被覆への状態移行が問題になると思われます.

 平面では充填配置も被覆配置も正六角形配置になっていたのですが,3次元空間では,平面の場合とは異なって,最密充填から最疎被覆には球の中心点が面心立方格子から対心立方格子に移行しなければならなりません.このような移行はどのようにしたら可能になるのでしょうか? 連続的それとも飛躍的におこなわれるのでしょうか? 

 このような意味で最密充填配置と最疎被覆配置が異なるというのは驚くべきことなのですが,中川さんの木工模型「切頂八面体 in 菱形十二面体」はこの秘密を解き明かしてくれることが大いに期待されます.

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