■奇数ゼータと杉岡の公式(その18)

 杉岡幹生氏のHPの記事

  http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page132.htm

に面白い記述をみつけました.正項級数S

  S=1+1/√2+1/√3+1/√4+・・・=ζ(1/2)

は発散しますが,交代級数

  T=1−1/√2+1/√3−1/√4+・・・

を考えて

  T=S−2(1/√2+1/√4+・・・)

   =S−2/√2(1+1/√2+1/√3+1/√4+・・・)

   =(1−√2)S

 ここで交代級数Tは収束しますから,ζ(1/2)は

  ζ(1/2)=S=T/(1−√2)

として求めることができるというわけです.

  ζ(1/2)=-1.46035

は普通の意味では無限大になっているはずですが,奇妙なことに発散しません.この方法はRe(s)>0へのζ(s)の解析接続を与えるもう一つの方法ということになります.

  ζ(1/2)=-1.46035

はオイラー・マクローリンの和公式によっても求めることができます.(その17)ではオイラーシステムと杉岡幹生氏のテイラーシステムを紹介しましたので,今回のコラムではマクローリンシステムとでも呼ぶべき,オイラー・マクローリンの和公式を紹介します.

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【1】マクローリンシステム

 オイラー・マクローリンの和公式は,オイラー(1736)とマクローリン(1742)が独立にベキ和Σn^kや逆ベキ和Σ1/n^kの計算を微積分を使って計算する道具として開発したものです.

  Σf(i)=∫(0,n)f(x)dx+1/2{f(n)-f(0)}+1/12{f'(n)-f'(0)}-1/720{f^(3)(n)-f^(3)(0)}+1/30240{f^(5)(n)-f^(5)(0)}+・・・

 この公式を使えば,f(i),f'(i),f^(3)(i),・・・を計算することで,たとえn=10^6までの和であっても簡単によい近似値が得らます.

 ベルヌーイ数B2kを使えば,この公式は

  Σf(i)=∫(0,n)f(x)dx+1/2{f(n)-f(0)}+ΣB2k/(2k)!{f^(2k-1)(n)-f^(2k-1)(0)}

となります.また,この公式を有限個で打ち切って,剰余項を表示すると

  R=(-1)^(k-1)/(k)!∫Bk(x)f^(k)(x)dx

 ここで,Bk(x)はベルヌーイ多項式(0≦x≦1)で

  B1(x)=x-1/2,|B1(x)|≦1/2

  B2(x)=x^2-x+1/6,|B2(x)|≦1/6

  B3(x)=x^3-3/2・x^2+1/2・x,|B3(x)|≦√3/36

  B4(x)=x^4-2x^3+x^3-1/30,|B4(x)|≦1/30

  ・・・・・・

を周期1で拡張したものです.B1(x)のグラフは周期1の鋸歯曲線,B2(x),B3(x),・・・と進むにつれてなだらかな波形曲線となります.

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 あるいは,同じことですが,

  P(x)=x−[x]−1/2

  P1(x)=P(x),B1(x)=P

  Pn+1(x)=∫(0,x)Pn(t)dt

で定義される関数で,積分定数を

  Pn+1(1)=∫(0,1)Pn(t)dt=0

を満たすように選択します.

  P2(x)=1/2・x^2-1/2・x+1/12,

  P3(x)=1/6・x^3-1/4・x^2+1/6・x,

  ・・・

 関数Pを使えば,オイラー・マクローリンの和公式は

  Σf(i)=∫(1,n)f(x)dx+1/2{f(n)+f(1)}+∫(1,n)P(x)f'(x)dx

  Σf(i)=∫(1,n)f(x)dx+1/2{f(n)+f(1)}+1/12{f'(n)-f'(1)}-∫(1,n)P2(x)f''(x)dx

  Σf(i)=∫(1,n)f(x)dx+1/2{f(n)+f(1)}+ΣB2k/(2k)!{f^(2k-1)(n)-f^(2k-1)(1)}+R

  R=∫(1,n)P2k+1(x)f^(2k+1)(x)dx

 なお,この関数Pは

  P(x)=x-1/2=-1/πΣsin(2πnx)/n

とフーリエ展開されます.この式は1次のベルヌーイ多項式のフーリエ展開と本質的に等しいものになっているというわけです.

  P(x)=-Σ2sin(2πnx)/2πn

  P2k(x)=(-1)^(k-1)Σ2cos(2πnx)/(2πn)^2k

  P2k+1(x)=(-1)^(k-1)Σ2sin(2πnx)/(2πn)^2k+1

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【2】マクローリンシステムの応用

 オイラー・マクローリンの公式は,調和級数や対数の和(ベキ乗)の計算にも応用することができます.

 f(x)=1/xとおくと,

  ζn(1)=Σ1/k=log(n)+1/2+1/2n-∫(1,n)P(x)/x^2dx

  Σ1/i=γ+logn+1/2n-1/12n^2+1/120n^4-1/252n^6+1/240n^8+R

より,オイラー定数が得られます.

 f(x)=log(x)とおくと,

  Σf(i)=log(n!)

となりますが,オイラー・マクローリンの公式より

  Σf(i)=log(n!)=∫(1,n)logxdx+1/2logn+∫(1,∞)P(x)/xdx

 ここで,

  ∫logxdx=xlogx-x,d/dx(logx)=1/x

  γ=1+∫(1,∞)P(x)/xdx=1/2log2π

なので,スターリングの公式

  log(n!)=(n+1/2)logn-n+1/2log2π-∫(1,∞)P(x)/xdx

  n!=√(2πn)n^nexp(-n)

が得られます.

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【3】ゼータ関数への応用

 ここで,リーマンのゼータ関数について,簡単に復習しておきましょう.

  ζ(s)=Σk^(-s)

をリーマンのゼータ関数と呼びます.

  ζn(s)=Σ1/k^s=1+1/2^s+1/3^s+・・・+1/n^s

と定義すると,n→∞のときζn(s)→ζ(s)になります.

 f(x)=x^(ーs)とおいてみると

  ζn(s)=Σ1/k^s=∫(1,n)1/x^sdx+1/2{1+1/n^s)-s∫(1,n)P(x)/x^(s+1)dx

これより,ゼータ関数に対するオイラー・マクローリンの和公式の応用例

  ζ(s)=1/(s-1)+1/2-s∫(1,∞)(x-[x]-1/2)/x^(s+1)dx

が得られます.

 この式の右辺の積分はRe(s)>0で絶対収束します.すなわち,この式はRe(s)>0へのζ(s)の解析接続を与えていることになります.また,s=1が極であることも見て取れます.このことから0<Re(s)<1のときのζ(s)の値もオイラー・マクローリンの和公式を使って意味をもたせることができます.

 オイラー・マクローリンの和公式は,ベルヌーイ数B2kを使えばさらに左側に進むことができます.

  ζ(s)=1/(s-1)+1/2+ΣB2ks(s+1)・・・(s+2k-2)/(2k)!-s(s+1)・・・(s+2m)∫(1,∞)(-1)^(m-1)Σ2sin2πnx/(2πn)^(2m+1)/x^(s+2m+1)dx

右辺の積分はRe(s)>-2mであれば存在し,s>-2m,s≠1なるすべてのsについて定義することができます.

 たとえば,半整数点での値

  ζ(1/2)=-1.46035

を求めるには,s=1/2とおくと

  1/(s-1)+1/2=-1.5

  1/(s-1)+1/2+B2/2!・1/2=-1.5+1/24=-1.45833

  1/(s-1)+1/2+B2/2!・1/2+B4/4!・15/8=-1.5+1/24-1/384=-1.46094

  1/(s-1)+1/2+B2/2!・1/2+B4/4!・15/8+B6/6!・105/16=-1.5+1/24-1/384+1/1536=-1.46029

 冒頭に掲げた

  ζ(1/2)=S=T/(1−√2)

は収束速度は遅いのですが,この計算ではわずか数項で概収束していますから,計算効率がよさそうです.なお,n→∞のとき,ζn(s)→ζ(s)は

  ζn(s)=ζ(s)+1/n^(s-1)-s∫(n,∞)[x]/x^(s+1)dx

からも同様の主張を導くことができます.

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【4】ポアソンの和公式

 オイラーは1744年,史上初めて代数関数

  π(1/2-x)=Σsin(2πnx)/n

を三角関数で表しています.ここでx=1/4とおけばライプニッツ級数

  Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)=π/4

がπ/4を表すという事実の別証明が得られます.

 また,この式はオイラー・マクローリンの公式の基礎となり,ポアソンの和公式も導き出されます.

  Σf(i)=∫(1,n)f(x)dx+1/2{f(n)+f(1)}+2Σ∫(1,n)f(x)cos2πmxdx

  Σf(i)=1/2{f(p)+f(q)}+Σ∫(p,q)f(x)exp(2πimx)dx

  ∫(p,q)f(x)exp(2πimx)dx={f(q)-f(p)}/2πim-{f'(q)-f'(p)}/(2πim)^2+∫(p,q)f''(x)exp(2πimx)dx/(2πim)^2

 ポアソンの和公式が応用される級数としてはテータ関数が上げられます.

  θ(y)=Σexp(-πn^2t)=1+2Σexp(-πn^2y) (y>0)

ζ(s)の重要な性質(の一部)は,テータ関数に関するヤコビの恒等式

  Σexp(−πm^2/t)=√tΣexp(−πm^2t)

すなわち,

  θ(t)=Σexp(−πm^2t)

とおくと,

  θ(1/t)=√tθ(t)

およびガンマ関数

  Γ(s)=∫(0,∞)t^(s-1)exp(−t)dt

から導出されます.

 これらを用いると

  ξ(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

      =∫(0,∞)1/2{θ(t)−1}t^(s/2-1)dt

      =π^(-(1-s)/2)Γ((1-s)/2)ζ(1−s)

より,関数等式

  ξ(s)=ξ(1−s)

が得られます.

 sを複素変数とするとき,関数等式

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

を用いればζ(s)をs=1(極)を除くすべての複素数に対して意味をもたせることができ,sを−1とすると値が−1/12,2とすると値が0になるというわけです.Γはガンマ関数です.

 また,

ξ(s)=1/2s(s-1)π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

あるいは

ξ(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

で定義すると

ξ(s)=ξ(1-s)

のように完全に左右対称な美しい形に書くことができます.ガンマ関数はゼータ関数の仲間と思ってほしい所以です.

 関数等式は

(1)sを複素変数として複素全平面への解析接続を与えることができること

(2)ζ(s)がRe(s)=1/2を対称軸とする美しい対称性をもっていること

を示しています.

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 ゼータ関数は,オイラーの積表示

  ζ(s)=Π(1−p^(-s))^(-1)

を通して素数分布=#{n|素数p≦x}の問題に関係してきます.オイラーはオイラー積表示の関係式を用いて,素数が無限個あること,しかも自然数の中で相当な割合で現れるという事実を証明をしたのですが,これはギリシャ数学の単なる別証ではなく,その後の数学の発展に繋がるものだったのです.

 そして,有名な素数定理(PT)は,漸近分布の形で

  π(x)〜x/logx

と表すことができます.素数は無限個存在し,そして等差数列{a+kn}にも素数は無限に含まれるのですが,素数pでa+knの形のものの分布問題がディリクレの算術級数定理です.

  π(x;a,n)〜C・x/logx   C=1/φ(n)

 算術級数定理は素数定理を精密化したもので,初項aの取り方にはよらないのですが,ここで,オイラーの関数φ(n)は1からn−1までの整数のうち,nと互いに素になるものの個数

  φ(n)=#(Z/nZ)

として定義されます.たとえば,n=7の場合,1,2,3,4,5,6なのでφ(7)=6,n=10の場合1,3,7,9がそうなのでφ(10)=4となります.

 1760年頃,オイラーは,数nが素因数p,q,r,・・・をもつときに,それらの重複度にかかわらず,

  φ(n)=n(1−1/p)(1−1/q)(1−1/r)・・・

であることを示しました.この原理は「エラトステネスのふるい」によっているのですが,たとえば,10=2・5,44=2^2・11,100=2^2・5^2より,

  φ(10)=10(1−1/2)(1−1/5)=4

  φ(44)=44(1−1/2)(1−1/11)=20

  φ(100)=100(1−1/2)(1−1/5)=40

また,任意の素数pに対して,

  φ(p^n)=p^n(1−1/p)

したがって,

  φ(p)=p(1−1/p)=p−1

となります.

 なお,算術級数定理の証明にはディリクレのL関数

  L(s,χ)=Π(1−χ(p)p^(-s))^(-1)

    χは乗法群(Z/nZ)の1次元表現

が用いられます.

 跡公式とは非可換版のポアソンの和公式と考えられますが,数論的にみれば,素数とゼータの零点を橋渡しする公式の総称で,具体的には,

  Σf(p)=Σf~(λ)

の形の等式として書くことができます.ここで,f~はfから決まり,逆にfもf~から定まるフーリエ変換みたいなものと考えて下さい.

 正規分布のフーリエ変換は再び正規分布になりますから,まったく無関係に思われるヤコビの恒等式

  θ(1/t)=√tθ(t)

も,オイラー積=アダマール積

  Π(1−p^(-s))^(-1)=−π^(-s/2)/s(1−s)Π(1−s/λ)

も同じ範疇に属する公式であるということになります.

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【5】雑感

 1749年にオイラーは発散級数を大胆に計算することによりこれらの結果をみいだしましたが,これらの式は現代数論では当然のことのように使われていて,リーマン・ゼータ関数の解析接続後にそれぞれ−1,−2,−3,−4での値として正当化されます.

 無限大になるところをうまく引き去って有限の値をだすことを物理学の用語で「繰り込み」といいますが,オイラーの計算の仕方を紹介すると

  φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

より

  φ(0)=-ζ(0),φ(-1)=-3ζ(-1),φ(-2)=-7ζ(-2),φ(-3)=-15ζ(-3)

また,

  f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)

  g(x)=xdf(x)/dx=x+2x^2+3x^3+4x^4+・・・=x/(1-x)^2

  h(x)=xdg(x)/dx=x+2^2x^2+3^2x^3+4^2x^4+・・・=x(1+x)/(1-x)^2

より

  f(-1)=φ(0)=1/2,g(-1)=-φ(-1)=-1/4,h(-1)=-φ(-2)=0

これから

ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-2)=0,・・・

となる.

 オイラーの計算は,交代級数

  φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

を用いるもので,杉岡氏の計算

  S=1+1/√2+1/√3+1/√4+・・・=ζ(1/2)

  T=1−1/√2+1/√3−1/√4+・・・

  T=S−2(1/√2+1/√4+・・・)

   =S−2/√2(1+1/√2+1/√3+1/√4+・・・)

   =(1−√2)S

  ζ(1/2)=S=T/(1−√2)

と本質的に同等です.杉岡氏は自らその方法に気づいたことになります.

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