まずはおさらいから.(その16)では,任意の整数nに対して
2^2n(2^2n−1)・Bn/2n
は整数であることがテーマになっていたのですが,もっと一般に
k^2n(k^2n−1)・Bn/2n
は整数であることが証明されています(リプシッツ・シルベスター).
また,すべてのベルヌーイ数B2nは有理数ですが,1840年,クラウゼンとフォン・シュタウトは「B2n+Σ1/(d+1)は整数である」というベルヌーイ数B2nの分母を与える定理を発表しました.d|2n,d+1は素数,すなわち,B2nの分母はp≦2nかつp−1が2nを割り切るという2条件を満たす素数p全体の積に一致します.
いくつか実例をあげると,
B2(1/6)+1/2+1/3=1 (分母:2・3=6)
B4(-1/30)+1/2+1/3+1/5=1 (分母:2・3・5=30)
B14(7/6)+1/2+1/3=2 (分母:2・3=6)
B16(-3617/510)+1/2+1/3+1/5+1/17=−6 (分母:2・3・5・17=510)
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ここからが本題.杉岡幹生氏はいろいろな工夫をして「杉岡の公式」を生み出してきました.これまでにわかっていることをもう一度整理しておきます.
(1)奇数ゼータと偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される
(2)奇数L,偶数L1,奇数L2は偶数ゼータの有限和で表される
(3)正の奇数ゼータのみならず,負の奇数ゼータも偶数ゼータの無限和として表現できる,等々.
その後,杉岡氏はテイラーシステムと呼んでいる方法を用いてこれらの結果を拡張しています.今回のコラムではそれについて検証してみることにします.
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【1】オイラーシステム
ここでは,有名なオイラー積分
I=∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2
を求めてみることにしましょう.
sin(π-x)=sinxより,∫(0,π)log(sinx)dx=2I
cos(π/2-x)=sinxより,∫(0,π/2)log(cosx)dx
xを2xに置き換えると
2I=∫(0,π)log(sinx)dx=2∫(0,π/2)log(sin2x)dx
I=∫(0,π/2)log(sin2x)dx
=∫(0,π/2)log2dx+∫(0,π/2)log(sinx)dx+∫(0,π/2)log(cosx)dx
=π/2log2+2I
これより
I=∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2=-1.088793045・・・
また,オイラーは1744年,史上初めて代数関数
π(1/2-x)=Σsin(2πnx)/n
を三角関数で表しています.ここでx=1/4とおけばライプニッツ級数
Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)=π/4
がπ/4を表すという事実の別証明が得られます.
この式は実は1次のベルヌーイ多項式のフーリエ展開と本質的に等しいものになっているのですが,この等式を複素数の場合に一般化すると
f(x)=Σexp(2πinx)/n=-log(2sinπx)+iπ(1/2-x)
このことから
log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
の証明が与えられます.
このようにして,オイラーは
log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
であることをつきとめ,これを代入して計算すれば
1/1^3+1/3^3+1/5^3+・・・=π^2/4log2+2∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
が得られます(1772年).
このとき,
1+1/3^3+1/5^3+1/7^3+・・・
の値が必要になりますが,この値はζ(3)=Σ1/n^3 から次のようにして求まります.
1+1/2^3+1/3^3+1/4^3+・・・
=(1+1/2^3+1/4^3+・・・)(1+1/3^3+1/5^3+・・・)
=1/(1−1/8)・(1+1/3^3+1/5^3+・・・)
より,分母を奇数のベキ乗だけにすると一般式は
{1-2^(ーs)}ζ(s)
さらに,
1/1^s−1/2^s+1/3^s−1/4^s+・・・
=2(1/1^s+1/3^s+1/5^s+1/7^s+・・・)−(1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)
より,+,−が交互に出現すると一般式
{1-2^(1ーs)}ζ(s)
を得ることができます.
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【2】テイラーシステム
オイラーシステムでは
Σcos(2nx)/n
が本質的な役割をしているのですが,杉岡氏のシステムでは
f(x)=Σcos(2nx)/n^s (n=1~)
とします.
f(π)=ζ(s)
f(π/2)=-{1-2^(1ーs)}ζ(s)
f(π/4)=-2^(-s){1-2^(1ーs)}ζ(s)
はその特殊値です.
次にcosをテイラー展開します.とりあえず0の周りで展開してみますが,
cos(x)=Σ(-1)^k・x^2k/(2k)! (k=0~)
cos(2nx)=Σ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!
f(x)=ΣΣ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!/n^s
ここで,2重級数の順番:Σ(n=1)とΣ(k=0)を交換すると
f(x)=ΣΣ(-1)^k・(2nx)^2k/(2k)!/n^s
=ζ(s)-ζ(s-2)/2!・(2x)^2+ζ(s-4)/4!・(4x)^4-ζ(s-6)/6!・(6x)^6+・・・
x=πを代入すると,f(π)=ζ(s)より
ζ(s-2)/2!・(2π)^2=ζ(s-4)/4!・(4π)^4-ζ(s-6)/6!・(6π)^6+・・・
ζ(s)=ζ(s-2)・2!/4!・(4π)^4/(2π)^2-ζ(s-4)・2!/6!・(6π)^6/(2π)^2+・・・
ζ(s)=Σ2!/(2(i+1)!)・(2(i+1)π)^(2(i+1))/(2π)^2ζ(s-2i) (i=1~)
=Σwiζ(s-2i) (i=1~)
ここで,右辺のゼータ関数は降順になっていますが,関数等式
ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)
を用いれば
ζ(s-2i)=π^(s-2i-1/2)Γ((1-s+2i)/2)/Γ(s/2+i)ζ(1-s+2i)
より昇順にすることができます.
すなわち
ζ(s)=Σwiζ(1-s+2i) (i=1~)
より,奇数ゼータは偶数ゼータの無限和として表されることがわかりますが,半整数ゼータは半整数ゼータの無限和,非整数ゼータは非整数ゼータの無限和として表されることも理解されます.
なお,偶数ゼータの無限和に関しては,
Σζ(2k)/4^(k-1)=2
なども知られています.
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また,
g(x)=Σsin(2nx)/n^s (n=1~)
とおくと
g(π/4)=L(s)
ですから,L関数に関する類似の結果(偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される)が得られます.
このようにして,杉岡幹生氏のホームページには類似の公式が多数掲げられています.また,確認したわけではありませんが,杉岡氏によるとこれらの式は収束速度の点でも計算効率がよいそうです.
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【3】テイラーシステムの応用
ところで,ゼータ関数を複素数へ拡張する場合,
ζ(s)=Σn^(-s)=Σexp(-slogn) (n=1~)
s=u+vi,u=Re(s),v=Im(s)として,オイラーの公式
exp(iθ)=cosθ+isinθ
を用いれば
ζ(s)=Σexp(-ulogn){cos(-vlogn)+isin(-vlogn)}
=Σn^(-u)cos(vlogn)-iΣn^(-u)sin(vlogn)
ζ(s)=f(u,v)+ig(u,v),Reζ(s)=f(u,v),Imζ(s)=g(u,v)
ここで本文同様,cos,sinをテイラー展開します.
cos(x)=Σ(-1)^k・x^2k/(2k)! (k=0~)
cos(vlogn)=Σ(-1)^k・(vlogn)^2k/(2k)!
Reζ(s)=ΣΣ(-1)^k・(vlogn)^2k/(2k)!/n^u
sin(x)=Σ(-1)^k・x^(2k+1)/(2k+1)! (k=0~)
sin(vlogn)=Σ(-1)^k・(vlogn)^(2k+1)/(2k+1)!
Imζ(s)=ΣΣ(-1)^k・(vlogn)^(2k+1)/(2k+1)!/n^u
Reζ(s)=ΣΣ(-1)^k/(2k)!・(vlogn)^2k/n^u
={1-1/2^u+1/3^u-1/4^u+・・・}
+{(log2)^2/2^u-(log3)^2/3^u+(log4)^2/4^u-・・・}・v^2/2!
-{(log2)^4/2^u-(log3)^4/3^u+(log4)^4/4^u-・・・}・v^4/4!
+{(log2)^6/2^u-(log3)^6/3^u+(log4)^6/4^u-・・・}・v^6/6!
-・・・・・
Imζ(s)=ΣΣ(-1)^k/(2k+1)!・(vlogn)^(2k+1)/n^u
={(log2)^1/2^u-(log3)^1/3^u+(log4)^1/4^u-・・・}・v^1/1!
-{(log2)^3/2^u-(log3)^3/3^u+(log4)^3/4^u-・・・}・v^3/3!
+{(log2)^5/2^u-(log3)^5/3^u+(log4)^5/4^u-・・・}・v^5/5!
-・・・・・
杉岡氏のテイラーシステムでは,交代級数になるように並び替えるというのがミソなのですが,ライプニッツの判定条件
「交代級数Σ(-1)^iaiは
ai>0,ai+1≦ai,limai=0
を満たすとき,収束する」により,u≧0のとき,これらの級数は収束します.
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ゼータ関数の複素零点は,
Reζ(s)=Imζ(s)=0
を同時に満たすものですが,s=1/2の軸に関する対称性に基づいて,ζ(s)の零点が自明な零点s=−2,−4,・・・,−2nと非自明な零点s=1/2+viの線上にあるというのが有名なリーマン予想(1859年)で,実際,ゼータ関数の複素零点は
ζ(1/2+i14.134725・・・)=0
ζ(1/2+i21.022040・・・)=0
ζ(1/2+i25.010856・・・)=0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と続きます.
そこで,u=1/2とおいて書いてみるとvに関する無限次元方程式が得られるのですが,杉岡氏はこれを数値的に解いて
v1=14.134725・・・
v2=21.022040・・・
v3=25.010856・・・
を求めています.
また,
Reζ(s)=Imζ(s)=0
をもっと完全に対称で美しい形に書くことができるのですが,それについては杉岡幹生氏のHPの記事
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page132.htm
をご覧ください.
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