(その7)ではライプニッツ級数
Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)=π/4
などπが出現する無限級数を紹介しましたが,無限級数には黄金比
φ=(1+√5)/2
もユビキタスに現れます.
2項係数nCkを(n,k)と書くことにすると,中央2項係数(2n,n)については,
(2n,n)=Σ(n,k)^2,3^(n-1)<(2n,n)<4^n,(2n,n)→4^n/√πn
が成り立つことはよく知られていますが,黄金比の現れるものとして
Σ(-1)^(n-1)/(2n,n)=√5/25logφ+1/20
Σ(-1)^(n-1)/n(2n,n)=2√5/5logφ
Σ(-1)^(n-1)/n^2(2n,n)=2(logφ)^2
それに対して,
Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)
Σ1/n^4(2n,n)
は簡単な初等関数・特殊関数では表せないのですが,そこで必要となるのがポリログ関数を用いた積分表示です.たとえば,ジログ関数の特殊値が円周率π,黄金比φと結びつけられるという事実が知られています.
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【1】ジログ関数
ジログ関数
L2(x)=Σx^n/n^2
はアーベル・ロジャース・スペンス関数とも呼ばれ,
L2(1)=ζ(2)=π^2/6
となります.
ジログ関数は積分で表示することができ
-log(1-x)=x+x^2/2+・・・=Σx^n/n
より
L2(x)=-∫(0,x)log(1-t)/tdt=Σx^n/n^2
となることは既におわかりでしょう.
ジログ関数の特殊値をまとめておくと
L2(1)=ζ(2)=π^2/6
L2(1/φ)=π^2/10−(log(1/φ))^2
L2(-1/φ)=-π^2/15+1/2(log(1/φ))^2
L2(1-1/φ)=π^2/15−(log(1/φ))^2
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【2】ポリログ関数
ポリログ関数は
ジログ関数:L2(x)=Σx^n/n^2=-∫(0,x)log(1-t)/tdt
Ln+1(x)=∫(0,x)Ln(t)/tdt
で定義される関数ですが,
トリログ関数:L3(x)=Σx^3/n^3,
テトラログ関数:L4(x)=Σx^4/n^4,
ペンタログ関数:L5(x)=Σx^5/n^5,
などを総称してポリログ関数と呼びます.
特に
Ln(1)=(-1)^(n-1)/(n-1)!∫(0,1){log(t)}^(n-1)/(1-t)dt
=ζ(n)
より,Ln(1)はゼータ関数の特殊値となります.
ポリログ関数の公式を用いると,オイラーの等式
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
に相同な等式
L3(1)=ζ(3)=5/4L3(φ^(-2))+2π^2/15logφ-2/3(logφ)^3
を得ることができます.
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【3】オイラー積分・オイラー級数
まず最初に,有名なオイラー積分
I=∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2
を求めてみることにしましょう.
sin(π-x)=sinxより,∫(0,π)log(sinx)dx=2I
cos(π/2-x)=sinxより,∫(0,π/2)log(cosx)dx
xを2xに置き換えると
2I=∫(0,π)log(sinx)dx=2∫(0,π/2)log(sin2x)dx
I=∫(0,π/2)log(sin2x)dx
=∫(0,π/2)log2dx+∫(0,π/2)log(sinx)dx+∫(0,π/2)log(cosx)dx
=π/2log2+2I
これより
I=∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2=-1.088793045・・・
また,オイラーは1744年,史上初めて代数関数
π(1/2-x)=Σsin(2πnx)/n
を三角関数で表しています.ここでx=1/4とおけばライプニッツ級数
Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)=π/4
がπ/4を表すという事実の別証明が得られます.
この式は,実は1次のベルヌーイ多項式のフーリエ展開と本質的に等しいものになっているのですが,この等式を複素数の場合に一般化すると
f(x)=Σexp(2πinx)/n=-log(2sinπx)+iπ(1/2-x)
このことから
log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
の証明が与えられます.
[補]2次のベルヌーイ多項式のフーリエ展開は,
Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2−π^2/12
となるのですが,x=0を代入すると
Σ1/n^2=π/2^2−π^2/12=π^2/6
となることがわかります.また,
f(1/2)=Σ(-1)^n/n=log2
∫(0,1)log(sinπx/2)dx=-log2
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オイラーは
log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
であることをつきとめ,これを代入して計算すれば
1/1^3+1/3^3+1/5^3+・・・=π^2/4log2+2∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
が得られます(1772年).
このとき,
1+1/3^3+1/5^3+1/7^3+・・・
の値が必要になりますが,この値はζ(3)=Σ1/n^3 から次のようにして求まります.
1+1/2^3+1/3^3+1/4^3+・・・
=(1+1/2^3+1/4^3+・・・)(1+1/3^3+1/5^3+・・・)
=1/(1−1/8)・(1+1/3^3+1/5^3+・・・)
より,分母を奇数のベキ乗だけにすると一般式は
{1-2^(ーs)}ζ(s)
さらに,
1/1^s−1/2^s+1/3^s−1/4^s+・・・
=2(1/1^s+1/3^s+1/5^s+1/7^s+・・・)−(1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)
より,+,−が交互に出現すると一般式
{1-2^(1ーs)}ζ(s)
を得ることができます.
オイラーによる
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
という結果(log2の有理式×π^2)から,ζ(2n+1)は有理数と円周率から四則演算によって得られる数ではないだろうと予想されていますが,証明されてはいません.また,log2を含むであろうと推測されています.
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【4】ログサイン積分
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
の∫(0,π/2)xlog(sinx)dxはログサイン積分とも呼ぶべきものですが,一連のログサイン積分
∫(0,π/3){log(2sin(θ/2))}^2dθ=17π^3/108
∫(0,π/3)θ(log(2sin(θ/2)))^2dθ=17π^4/6480
より,
ζ(4)の積分表示は,ログサイン積分
ζ(4)=17/18∫(0,π/3)θ{log(2sin(θ/2))}^2dθ
であることが得られます.
それでは,ζ(3)の積分表示はどうなるのでしょうか?
2(arcsin(x))^2=Σ(2x)^2n/n^2(2n,n)
においてx→−iyとおくと
2(arcsinh(y))^2=Σ(-1)^(n-1)(2y)^2n/n^2(2n,n)
が得られます.
したがって,
Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=4∫(0,1/2)(arcsinh(y))^2/ydy
となるのですが,右辺に部分積分を施すことで,
Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=-2∫(0,logφ^2)xlog(2sinh(x/2))dx
このように,ログシンハー積分となるのですが,ここで,
L3(1)=ζ(3)=5/4L3(φ^(-2))+2π^2/15logφ-2/3(logφ)^3
の結果を利用すると,
ζ(3)=Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)
を導くことができます.
以上のことより,ζ(3)の積分表示は,ログシンハー積分
ζ(3)=10∫(0,1/2)(arcsinht)^2/tdt=10∫(0,logφ)t^2cothtdt
=-5∫(0,logφ^2)xlog(2sinh(x/2))dx
で与えられることが理解されます.
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[補]ζ(2),ζ(3),ζ(4),・・・がΣ1/n^k(2n,n)あるいはΣ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)の簡単な有理数倍になっている
ζ(k)=R*Σ1/n^k(2n,n),ζ(k)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)
と予想するのは当然の成りゆきであって,
ζ(5)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^5(2n,n)
と予想されます.
しかし,
ζ(5)=5/2*Σ(1/1^2+1/2^2+・・・+1/(n-1)^2-4/5n^2)(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)
となって,予想に反して,Rはたとえ有理数であったにしても簡単なものにはなりません.結局,ポリログ関数の理論ではζ(2),ζ(3),ζ(4)だけが
ζ(k)=R*Σ1/n^k(2n,n),ζ(k)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)
で表されることが確かめられています.
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