■正三角形と六斜術(その2)
【1】六斜術
「六斜術」とは平面三角形ABCの6本の線分間の等式を意味する「和算用語」です.平面三角形ABCにおいて,BC=a,CA=b,AB=cとおき,平面上の点Pに対してPA=d,PB=e,PC=fとするとき
a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)
+b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)
+c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)
=a^2b^2c^2+a^2e^2f^2+d^2b^2f^2+d^2e^2c^2
が成立します.
一見複雑ですが,左辺は相対する線分の2乗の積に,他の線分の2乗の和から自分自身の2乗を引いた量をかけた和
a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)
+b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)
+c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)
であり,右辺は4個の三角形の周辺3本の2乗の積の和
a^2b^2c^2+a^2e^2f^2+d^2b^2f^2+d^2e^2c^2
です.
(証)∠BPC=α,∠CPA=∠β,∠APB=γとおく.このとき
cosγ=cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ
両辺を平方すると
cos^2α+cos^2β+cos^2γ=2cosαcosβcosγ+1
第2余弦定理より
cosα=(e^2+f^2−a^2)/2ef
cosβ=(f^2+d^2−b^2)/2fd
cosγ=(d^2+e^2−c^2)/2de
を代入して整理すると当該の形になる.
===================================
【2】オイラーの四面体公式(空間のヘロンの公式)
この節で取り上げるのは,四面体についてのオイラーの問題「6辺の長さがa,b,c,d,e,fで,与えられた4面体の体積を求めよ」です.
2つのベクトルa↑,b↑を基底とする平行体(平行四辺形)の面積は,外積は
a↑×b↑
3つのベクトルa↑,b↑,c↑を基底とする平行体(平行六面体)の体積は,スカラー三重積
(a↑×b↑)・c↑
すなわち,外積a↑×b↑とベクトルc↑の内積で与えられます.
|a↑|=a,|b↑|=bとすれば,平行四辺形の面積は,
S=absinθ
ですから,
S^2=a^2b^2(1−cos^2θ)
=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2
=|a↑・a↑ a↑・b↑|
|b↑・a↑ b↑・b↑|
同様に,平行六面体の体積は
V^2=|a↑・a↑ a↑・b↑ a↑・c↑|
|b↑・a↑ b↑・b↑ b↑・c↑|
|c↑・a↑ c↑・b↑ c↑・c↑|
で与えられます.
これらのように,内積の行列式で定義される行列式をグラムの行列式(グラミアン)といいます.平行体の面積・体積はグラミアンの平方根に等しくなるというわけです.
また,座標を使って表せば,n+1個の点の座標に(1,1,1,・・・,1)を加えて作られる(n+1)次の行列式の絶対値になります.
|S|=|1 x1 y1| |V|=|1 x1 y1 z1|
|1 x2 y2| |1 x2 y2 z2|
|1 x3 y3| |1 x3 y3 z3|
|1 x4 y4 z4|
原点が含まれるときは,
|S|=|x1 y1| |V|=|x1 y1 z1|
|x2 y2| |x2 y2 z2|
|x3 y3 z3|
のように展開されます.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これらはそれぞれn次元単体の体積のn!倍になりますから,三角形の面積,四面体の体積は,
S’=S/2
V’=V/6
また,4辺の長さがa,b,cで与えられた三角形,6辺の長さがa,b,c,d,e,fで与えられた四面体の場合は,
2^2(2!)^2S’^2=|0 a^2 b^2 1|
|a^2 0 c^2 1|
|b^2 c^2 0 1|
|1 1 1 0|
2^3(3!)^2V’^2=|0 a^2 b^2 c^2 1|
|a^2 0 d^2 e^2 1|
|b^2 d^2 0 f^2 1|
|c^2 e^2 f^2 0 1|
|1 1 1 1 0|
となります.
前者はおなじみの平面三角形のヘロンの公式にほかなりませんが,面積をS’=Δとして,
(4Δ)^2=2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4
=(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)
ここで,2s=a+b+cとおくと
Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)
となり,ヘロンの公式が得られます.
後者が空間のヘロンの公式であり,V’=Δとして
(12Δ)^2=a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)
+b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)
+c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)
−a^2b^2c^2−a^2e^2f^2−d^2b^2f^2−d^2e^2c^2
この空間のヘロンの公式は,オイラーの公式と呼ばれるものですが,
(12×体積)^2=六斜術の両辺の差
に等しいということを主張しています.点Pが平面三角形ABCの平面上になく,4点が四面体の頂点をなすときの四面体の体積公式ですから,六斜術は四面体が平面上に退化して体積が0になった極限と解釈することができます.
オイラーの公式は複雑であり,平面三角形のヘロンの公式のように因数分解できません.ただし,4面の面積が等しい等積四面体=4面が合同な鋭角三角形よりなる四面体(バンの定理)の場合,
72Δ^2=(−a^2+b^2+c^2)(a^2−b^2+c^2)(a^2+b^2−c^2)
と因数分解した形で表されます.
===================================