(その2)では2元2次形式のディオファントス方程式を取り上げました.
ax^2+bxy+cy^2=n (a,b,c,nは整数)
が整数解(x,y)をもつか否かを判定し,それを決定するためのアルゴリズムが存在し,それは判別式をd=b^2−4acとすると
「nが判別式dのある2元2次形式で表現されるための必要十分条件は
x^2=d (mod 4n)
が解をもつことである.」
1900年に提出されたヒルベルトの第10問題:整数係数の多項式
f(x1,x2,・・・,xn)=0
が整数解をもつかどうかを決定する普遍的アルゴリズムは,ロシア人のマチアセビッチにより,すべてのディオファントス方程式(不定方程式)の解の存否を判定するアルゴリズムが存在しないことが証明され,ヒルベルトの第10問題は否定的に解決されました.
一般に3変数以上,3次以上のディオファントス方程式を解く有力な方法はまったく見つかっておらず,たとえば,3元3次形式:x^3+y^3+z^3−3=0が(1,1,1),(4,4,−5)とその並び換え以外の整数解をもつかどうかすらわかっていません.しかし,2変数の多項式の場合,事情はまったく異なります.(その3)ではディオファントス方程式の有理数解,整数解についてまとめておきたいと思います.
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【1】2元1次形式
整数係数のax+by=cは無数の有理数解をもちますが,整数解に限っても整数係数のax+by=nは無数の整数解(x,y)をもちます.
(a,b)の最大公約数をd=gcd(a,b)とすると
(1)ax+by=dは整数解をもつ(表せる最小のnは最大公約数である)
(2)ax+by=nが整数解をもつ ←→ d|n (nはdの倍数:表せるnは最大公約数の倍数全体となる)
(3)(x0,y0)を特殊解とすると一般解は
x=x0−bt/d,y=y0+at/d (tはすべての整数をわたる.したがって,無数の解がある.)
3元1次形式ax+by+cz=nでもd=gcd(a,b,c)とすると,同様の結果
(1)ax+by+cz=dは整数解をもつ
(2)ax+by+cz=nが整数解をもつ ←→ d|n
が成り立ちます.
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【2】2元2次形式
二次曲線ax^2+by^2=cのグラフは円錐曲線ですが,この方程式が有理数解を1つもてば,実は無数のもつことを示すことができます.たとえば,方程式x^2+y^2=1には,無限に多くの有理数解,(3/5,4/5),(5/13,5/12),(12/37,35/37)など・・・が存在します.ところが,半径が√3の円,x^2+y^2=3になると有理点は全くなってしまいます.2次曲線は有理点を無限のもつか,1つももたないかのどちらかです.
次に整数解についてですが,判別式をd=b^2−4acとすると,nが判別式dのある2元2次形式
ax^2+bxy+cy^2=n (a,b,c,nは整数)
で表現されるための必要十分条件は
x^2=d (mod 4n)
が解をもつことです.
なお,一般的な1次合同式はax=b (mod n)で論ずることができますが,2次合同式
x^2=d (mod n)
を考えることにより,より一般的な2次合同式
ax^2+bx+c=0 (mod n)
を考えることになります.d=b^2−4ac,y=2x+cとおけば
y^2=d (mod 4an)
に変形されるからです.
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【3】ペル方程式(2元2次形式)
ペル方程式:x^2−dy^2=1について,フェルマーは少なくとも1つの自明でない整数解((x,y)=(±1,0)以外の解が存在するだろうと予想しましたが,この予想は1768年,ラグランジュにより証明されています.
この方程式は無限に多くの解をもち,基本解(最小の整数解)を(x,y)とおくと一般解は
±(x+y√d)^n n=0,±1,±2,・・・
により与えられます.
ペル方程式:x^2−dy^2=−1の場合,√dの周期mが偶数のときは解は存在しません.mが奇数のとき,基本解(最小の整数解)を(x,y)とおくと一般解は
±(x+y√d)^n n=±1,±3,±5,・・・
により与えられます.
ペル方程式x^2−my^2=d(多くは±1,±4)の解法については,コラム「無理数・代数的数・超越数(その2)」の連分数展開を参照されたい.
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【4】トゥエ方程式(2元n次形式)
1909年,ヒルベルトの第10問題を受けて,トゥエはトゥエ方程式
a0x^n+a1x^n-1y+・・・+xany^n=m (n≧3)
は有限個の整数解しかもたないという注目すべき結果を得ました(トゥエの定理).
この結果は,2元3次形式
x^3−dy^3=1
などに応用され,自明でない整数解は高々1つしかないという結果をもたらしました.また,
x^3−3xy^2−y^3=1
の整数解は(1,0),(0,−1),(−1,1),(1,−3),(−3,2),(2,1)だけであることが示されています.
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【5】モーデル方程式(2元3次形式)
楕円曲線:y^2=x^3+k (k:整数)の有理点に関して,たとえば,
k=−2:無限に多くの有理点をもつ
k=1 :(0,±1),(−1,0),(2,±3)以外に有理点をもたない
k=−5:決して有理点をもたない
整数点に関して,モーデルは2元3次形式の簡約理論とトゥエの定理から整数点は有限個しか存在しないことを証明しました.
k=−28:すべての整数解は(4,±6),(8,±22),(37,±255)
k=11 :整数解をもたない
k=−11:すべての整数解は(3,±4),(15,±58)
モーデルは,この結果を
y^2=ax^3+bx^2+cx+d
に拡張したのですが,右辺の3次式は異なる零点をもつことから,3次式よりは4次式の簡約に依拠する必要があったようです.
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ジーゲルは任意の整数係数多項式f(x,y)=0が,整数解を有限個しかもたないための簡単な条件を与えることに成功しました.ジーゲルはf(x,y)=0のよって表される曲線が種数1をもつならば,その条件は十分であることを証明したのですが,その定理はジーゲルの有限性定理(1929年)と呼ばれています.
この定理により,
「三次曲線ax^3+by^3=cや楕円曲線y^2=ax^3+bx^2+cx+dなど,3次以上の不定方程式には一般に整数解が有限個しかない.」
これですべての2変数多項式の可解性が決定したわけではありませんが,少なくとも2変数2次多項式の可解性条件はわかったことになります.
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【6】フェルマー方程式(2元n次形式)
フェルマー方程式:
x^n+y^n=z^n (n≧3)
が整数解をもたないことについては,フェルマー(n=4),オイラー(n=3,1770年),ルジャンドルとディリクレ(n=5,1825年),ラメ(n=7,1839年),クンマー(正則素数),ソフィー・ジェルマン(ソフィー・ジェルマン素数,1823年),ヴィーフェリッヒ(2^(p-1)=1 (mod p^2)を満たさない素数,1909年)などの証明があります.
モーデル・ファルティングスの定理(1983年)とは,「種数が2以上の代数曲線は有理点を有限個しかもたない.」というものです.これはn≧4に対し,フェルマー方程式x^n+y^n=z^nの整数解は有限個しか存在しないという定理を特別な場合として含んでいます.
2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線と呼んでいます.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.したがって,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.
また,リーマン・フルヴィッツの公式よりフェルマー曲線x^n+y^n=1は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.
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【7】カタラン方程式
1844年,カタランは方程式:
x^p−y^q=1
の整数解が(x,y,p,q)=(3,2,2,3)だけであると予想しました.
p=2,q=3(オイラー,1738年),q=2(ルベーグ,1850年),p=3,q=3(ナゲル,1921年),p=4(セルバーグ,1932年),p=2(チャオ・コウ,1967年)などの研究があり,たとえば,x^p−y^2=1は正の整数解をもたないというのがルベーグの定理です.
1975年,エルデスとセルフリッジは連続する整数の積は整数のベキでないこと,すなわち
y^q=x(x+1)・・・(x+p−1)
はすべてが>1である整数解(x,y,p,q)をもたないことを証明しています.
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