■デルトイドの幾何学(その3)

 前回のコラムでは,2n+1個の尖点をもつ星状領域の面積Snが掛谷定数に収束すること

  Sn→(5−2√2)π/24(.284258)<π/11(.285599)

を示した.

 私はこの極限値を数値的に計算することはできても解析的に導くことには失敗したので,阪本ひろむ氏にMathematicaで検算してもらって

  Sn→(5−2√2)π/24(.284258)<π/11(.285599)

であることを確認している.

 その後,私も極限値を解析的に導き出せたのであるが,今回のコラムではまず失敗した極限操作について述べてみることにする.読者はこの誤りを指摘できるだろうか?

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【1】失敗した極限操作

 θ=π/(2n+1)として,

  d=r(1+cosθ)/sinθ

  x=(1−r)cosθ

  y=(1−r)sinθ

  S1=1/2r^2tanθ−1/2r^2θ

  S2=1/2(r−x)(d−rtanθ)

  S3=1/2d^2arctan(r−x)/(d−y)−S1−S2

とおくと星状領域の面積は

  Sn=πr^2−2(2n+1)S3

で求められます.

 ここで,rは2次方程式

  (4+4cosθ)r^2−(4+4cosθ)r+1=0

の大きな方の実根として求められますから,n→∞のとき

  r→(2+√2)/4,x→1−r,y→0

 また,n→∞のとき

  (2n+1)tanθ→π,(2n+1)sinθ→π

より,

  2(2n+1)S1→0

  2(2n+1)S2→(2r−1)(2n+1)d−(2r−1)rπ

  (r−x)/(d−y)→(2r−1)/d

  arctanx=x−x^3/3+x^5/5−・・・

より

  (2n+1)d^2arctan(r−x)/(d−y)

 →(2n+1)d^2{(2r−1)/d−1/3{(2r−1)/d}^3+1/5{(2r−1)/d}^5−・・・}

 =(2r−1)(2n+1)d−1/3(2r−1)^3(2n+1)/d+1/5(2r−1)^5(2n+1)/d^3−・・・}

 ここで,S2,S3で出てきた∞の項

  (2r−1)(2n+1)d

をお互いに相殺できて

  (2n+1)/d→π/2r,(2n+1)/d^3→0

より,

  Sn=πr^2−2(2n+1)S3

  →π{r^2−(2r−1)r+(2r−1)^3/6r}

  =π(r^2/3−r+1−1/6r)=(−1+4√2)π/24

というのが私の計算結果でした.

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【2】成功した極限操作

 S2,S3で出てきた∞の項をお互いに相殺する計算がうまくいっていないものと思われます.実は前節に掲げた極限の計算はあまりに乱暴すぎるのですが,ギャップの生じた原因はn→∞のときx→1−r,y→0より

  (r−x)/(d−y)→(2r−1)/d

としたことにありました.

  (r−x)/d(1−y/d)

 →(2r−1)/d・{1+y/d+(y/d)^2+・・・}

 =(2r−1)/d+(2r−1)y/d^2+(2r−1)y^2/d^3+・・・

 ここで,

  A=1+y/d+(y/d)^2+・・・

とすると

  (2n+1)d^2arctan(r−x)/(d−y)

 →(2n+1)d^2{(2r−1)/d・A−1/3{(2r−1)/d・A}^3+1/5{(2r−1)/d・A}^5−・・・}

 =(2r−1)(2n+1)d+(2r−1)(2n+1)y+(2r−1)(2n+1)y^2/d+・・・−1/3(2r−1)^3A^3(2n+1)/d+1/5(2r−1)^5A^5/d^3−・・・

となって,新たな項が生じます.

 n→∞のとき,

  (2r−1)(2n+1)y→(2r−1)(1−r)π

  (2r−1)(2n+1)y^2/d→0

ですから

  Sn=πr^2−2(2n+1)S3

  →π{r^2−(2r−1)r−(2r−1)(1−r)+(2r−1)^3/6r}

  =π(7r^2/3−4r+2−1/6r)=(5−2√2)π/24

となって,当該の結果を得ることができました.

 ∞の項をお互いに相殺する処理の誤り,乱暴な極限操作が失敗の原因だったというわけですが,失敗は次回の成功の元ですから大変よい勉強になりました.

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