■デルトイドの幾何学(その2)

 今回のコラムでは,前回書ききれなかった2n+1個の尖点をもつ星状領域の面積Snが掛谷定数:(5−2√2)π/24に収束すること,すなわち

  Sn→(5−2√2)π/24<π/11

となることをプログラムとともに紹介してみたいのであるが,その前にn尖点ハイポサイクロイドの面積について述べることにする.

===================================

【1】n尖点ハイポサイクロイドの面積

 n個の尖点をもつハイポサイクロイドは,パラメータθを用いて

  x=(n−1)rcosθ+rcos(n−1)θ

  y=(n−1)rsinθ−rsin(n−1)θ

と記述されます.θで微分すると

  x’=−(n−1)rsinθ−(n−1)rsin(n−1)θ

  y’=(n−1)rcosθ−(n−1)rcos(n−1)θ

 ここで注意しなければならないことは,θは極座標(r,θ)のパラメータではないことです.そのため,

  S=1/2∫r^2dθ   r^2=x^2+y^2

として計算すると

  S=(n^2−2n+2)・πr^2

となって正しい値が得られません.

 計算方法はいくつか考えられるのですが,

  S=∫ydx=∫yx’dθ

として計算するのが最も簡単なようです.その結果,ハイポサイクロイドの面積は

  S=(n−1)(n−2)・πr^2

で表されることが計算されます.定円の半径をR(=nr)とした場合は,

  S=(n−1)(n−2)/n^2・πR^2

となります.

 デルトイドの場合はn=3,R=3rですから

  S=2πr^2

となって回転円の面積の2倍に等しくなります.また,n→∞のとき

  S→πR^2

となって定円の面積に近づきます.

===================================

【2】星状領域の面積

 ベシコビッチの論文がでた1927年以降も,単連結となる最小の星状領域はデルトイド(面積:π/8)であると信じられていました.ところが,これらより面積が小さい図形が考えだされました.

 デルトイドが3個の尖点をもっていることに着目すると,5個の尖点,7個の尖点,・・・をもつ図形を考えることができるのです.たとえば,2n+1個の尖点と円弧をもち,図形全体が内接している円に直交している星状領域(面積:Sn)を考えます.

 θ=π/(2n+1)として,中心が(r,d)の半径dの円弧では

  d=r(1+cosθ)/sinθ

と計算され,そして,半径rの円の直径上に長さ1の線分がおけるものとすると,

  √(x^2+y^2)=1−r

ですから

  x=(1−r)cosθ

  y=(1−r)sinθ

 すると

  S1=1/2r^2tanθ−1/2r^2θ

  S2=1/2(r−x)(d−rtanθ)

  S3=1/2d^2arctan(r−x)/(d−y)−S1−S2

として星状領域の面積は

  Sn=πr^2−2(2n+1)S3

で求められます.

 ここで,rは2次方程式

  (4+4cosθ)r^2−(4+4cosθ)r+1=0

の大きな方の実根として求められます.

 nが大きくなるにつれてその面積はπ/11よりも小さくなります.そして,n→∞のとき

  r→(2+√2)/4(.853553)

  Sn→(5−2√2)π/24(.284258)<π/11(.285599)

を示すことができます.(この解析的な極限値は畏友・阪本ひろむ氏に検算してもらいました.)

 この形はフーコーの振り子を何万回もらせたときの形になりますが,尖点の個数nを増やしたとしても面積を際限なく減らすことは不可能で,その面積はπ/11より大きくはならないし,π/108以下にはできないこと,そして下限は(5−2√2)π/24以下であることがブルームとシェーンベルグにより発見されたというわけです(1963年).

  π/108≦K≦(5−2√2)π/24<π/11

===================================

【3】掛谷定数の計算結果

 ここでは解析的な結果でなく,数値計算の結果を示します.

n       r      Sn

1 .788675 .300904

2 .83437 .290756

3 .844221 .2876

4 .848014 .286284

5 .84988 .285616

6 .850937 .285233

7 .851595 .284994

8 .852032 .284814

9 .852338 .284709

10 .852559 .284627

20 .853294 .284336

30 .853436 .284321

40 .853487 .284193

50 .853511 .284723

60 .853524 .284483

70 .853531 .28351

80 .853537 .283473

90 .85354 .283648

100 .853543 .284463

 3尖点星状領域はデルトイドよりもやせた図形で,このときすでに掛谷定数に近い値が得られます.5個の尖点をもつ図形の場合,その面積はデルトイドの面積π/8(.392699)の約3/4(.290756)になります.nを大きくすると数値計算誤差のため,計算結果が揺らいでしまいます.

 以下の図ではデルトイドも同時に示しますが,デルトイドとは異なり,これらの星状図形の接線が曲線に挟まれる部分の長さは一定であるという性質は成立しません.点Pをこの曲線上の任意の点とすると,点Pが尖点上にあるとき接線の長さは最大になります.(接線の長さが一定という決定的な性質をもつ領域は存在するのでしょうか?)

[1]3尖点星状領域

[2]5尖点星状領域

[3]7尖点星状領域

===================================