■πの級数公式(その24)
arctan1=arctan(1/n)+arctan(1/m)
を満足させるn,mを求めてみると
1=(1/n+1/m)/(1−1/nm)
m=(n+1)/(n−1)
n=2,m=3を代入すると
arctan(1/1)=arctan(1/2)+arctan(1/3)
は傾き1/2と1/3の坂の角度が傾き1/1すなわちちょうど45°になることを示しています.
π/4=arctan1
=arctan(1/2)+arctan(1/3)
=(1/2−1/3・2^3+1/5・2^5−1/7・2^7+・・・) +(1/3−1/3・3^3+1/5・3^5−1/7・3^7+・・・)
この級数はグレゴリー・ライプニッツ級数ほどは悪くありませんが,それでもなお良い値がでるまでの計算回数は多くなります.
オイラーは
arctan(1/1)=2arctan(1/3)+arctan(1/7)
arctan(1/1)=5arctan(1/7)+2arctan(1/18)−2arctan(1/57)
なども発見しています.
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【1】マーチン級数
πを計算するための無限級数のうちでもっともポピュラーなものはニュートンと同時代のマーチンによって発見された次のような式です(1706年).
π/4=4arctan(1/5)−arctan(1/239)
=4(1/5−1/3・5^3+1/5・5^5−1/7・5^7+・・・) −(1/239−1/3・239^3+1/5・239^5−・・・)
第2項の級数は非常に収束が速く,第1項の級数も1/5^2=0.04ぐらいの比で次々に小さくなりますから,数値計算に十分使えます.マーチンの級数の計算誤差は4/(2n+3)・(1/5)^2n+3ぐらいで,マーチン自身はこの公式のよってπの値を100桁ほど求めました.計算機のない時代のことですから,当然手計算であって神業ともいうべき話です.
この種のarctan(x)の展開公式はかなり多く知られていて,分数を組み合わせて1をつくるパズルのようなものですが,項数が少なく分母が大きいものほど有効です.その計算量は本質的にはO(n^2)になります.
マーチンの級数はarctanを2つ使ってπを表現する公式の中で最良のものです.マーチンの級数は収束が極めて急速で,コンピュータの時代に移った後もたくさんの人に利用され,はじめてコンピュータを用いてπの値を計算したノイマンはマーチンの公式を使って70時間かかって2037桁まで正しい値を求めています(1949年).
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【2】πのarctan型公式
πのarctan型公式は数多く知られています(無数に存在する).
[1]2項公式(4通り)
π/4=arctan(1/2)+arctan(1/3) (Euler)
π/4=2arctan(1/2)-arctan(1/7) (Vega)
π/4=2arctan(1/3)+arctan(1/7) (Clausen)
π/4=4arctan(1/5)-arctan(1/239) (Machin)
[2]3項公式(105通り)
π/4=arctan(1/2)+arctan(1/5)+arctan(1/8) (Dahse)
π/4=3arctan(1/4)+arctan(1/20)+arctan(1/1985) (Gauss)
π/4=4arctan(1/5)-arctan(1/40)+arctan(1/99) (Rutherford)
π/4=4arctan(1/5)-2arctan(1/408)+arctan(1/1393) (Vega)
π/4=12arctan(1/18)+8arctan(1/57)-5arctan(1/239) (Gauss)
π/4=8arctan(1/10)-arctan(1/239)-4arctan(1/515) (klingenstierna)
π/4=6arctan(1/8)+2arctan(1/57)+arctan(1/239) (Shanks,Stφrmer)
[3]4項公式
ステルマー(Stφrmer)は3項公式を研究していますが,さらにarctanを4つ使ってπを表現する公式
π/4=44arctan(1/57)+7arctan(1/239)-12arctan(1/682)+24arctan(1/12943) (Stφrmer)
も発見しました(1896年).
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【3】ステルマーの定理
arctan(1/n)を2項まで使って,πを表現する方法はステルマーの定理より次の5つしかありません.
π=4arctan(1/1)
π=4arctan(1/2)+4arctan(1/3)
π=8arctan(1/2)−4arctan(1/7)
π=8arctan(1/3)+4arctan(1/7)
π=16arctan(1/5)−4arctan(1/239)
ここでは,任意のarctan(1/n)を2項に分解することを考えてみます.
arctan(1/n)=arctan(1/p)+arctan(1/q)
公式
arctana+arctanb=arctan((a+b)/(1−ab))
を使うと,
1/n=(1/p+1/q)/(1−1/pq)
n=(pq−1)/(p+q)
q=(np+1)/(p−n)
ここで,p=n+mとおくと
q=n+(n^2+1)/m
arctan(1/n)=arctan(1/(n+m))+arctan(m/(n^2+mn+1))
したがって,n^2+1=kmなるkが存在するならばqは整数になることがわかります.
n^2+1の最大素因数pが2n以上となる正整数nをステルマー数と呼びます.n=3のとき,3^2+1=10=2・5→p=5ですから,3はステルマー数ではありません.同様に,
n=7 7^2+1=50=2・5^2 → p=5
n=18 18^2+1=325=5^2・13→p=13
n=57 57^2+1=3250→p=2・5^3・13→p=13
n=239 239^2+1=2・13^4→p=13
もステルマー数ではありません.
一方,n=2のとき,2^2+1=5→p=5ですから,2はステルマー数です.最初の30個のステルマー数は,
n=1,2,4,5,6,9,10,11,12,14,15,16,19,20,22,23,24,25,26,27,28,29,33,34,35,36,37,39,40,42
n^2+1=kmのときだけ
arctan(1/n)=arctan(1/(n+m))+arctan(1/(n+k))が成り立つのですが,ステルマーはどんなarctan(x)もnがステルマー数になっているarctan(1/n)の和として一意に表されることを発見しました.
[補]m=n^2+1のとき,
arctan(1/n)=Σarctan1/{(n^2+1)k^2−(n−1)^2k−(n−1)}
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