■マクドナルド恒等式入門(その3)

【1】オイラーの分割数

 「分割数」とは与えられた整数にどれだけ多くの分割があるのか(4=1+1+1+1,4=3+1)という整数の分割理論のことです.整数の分割では,3=2+1と3=1+2のように足し算の順序が違うものは同じと見なすことにします.

 たとえば,4を分割するには非増加数列で構成した5通りの方法,4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1がありますから,p(4)=5.同様にして,5=4+1=3+2=3+1+1=2+2+1=2+1+1+1=1+1+1+1+1よりp(5)=7となります.(分割を図形的に表す方法にヤング図形がある.ヤング図形は非増加な非負整数列を表現する印象的な方法である.)

 分割数は以下の公式によって代数的に定義することができることがわかります.

  f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)

    =(1+x+x^2+・・・)(1+x^2+x^4+・・・)(1+x^3+x^6+・・・)(1+x^4+x^8+・・・)・・・

    =Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・

すなわち,f(x)は分割関数p(n)の母関数で,p(n)はx^nの係数になっています.

 ここで,

  φ(x)=Π(1-x^n)=1-x-x^2+x^5+x^7-x^12-x^15+・・・

と定義します.xのベキに5角数が表れます.

 実はオイラーの5角数定理を用いると,分割関数に対する再帰関係式

  Σp(n-j(3j±1)/2)(-1)^j=0

  p(n)=p(n-1)+p(n-2)-p(n-5)-p(n-7)+p(n-12)+・・・

が得られます.これより

  p(0)=1,p(1)=1,p(2)=2,p(3)=3,p(4)=5,p(5)=7,p(6)=11,

  p(7)=15,p(8)=22,p(9)=30,p(10)=41,p(11)=56,p(12)=77,・・・

を効率的に計算することができます.

 ラマヌジャンはp(n)が満たす合同式について

  p(5n+4)=0  mod5

  p(7n+5)=0  mod7

  p(11n+6)=0  mod11

  p(599)=0  mod5^3

  p(721)=0  mod11^2

を予想し,それらを証明しています.

(証)φ(q)=Π(1-q^k)とおく.

  Σp(5n+4)q^n=5{φ(q^5)}^5/{φ(q)}^6

の右辺の展開を考えると合同式が証明される.

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【2】ヤコビの3重積公式

  (a;q)n=(1-a)(1-aq)・・・(1-aq^(n-1))=Π(1-aq^k)

なる記号を導入すると

  (q;q)n=(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^n)=Π(1-q^k)

になるが,ヤコビの3重積公式

  Σz^nq^(n(n+1)/2)=Π(1-q^n)(1+zq^n)(1+z^(-1)q^(n-1))

  (x;q)∞(q/x;q)∞(q;q)∞=Σ(-1)^m・q^(m(m-1)/2)・x^m x=-z

と表現される.ヤコビの3重積公式はテータ関数そのものを表している.

[1]ヤコビの3重積公式において,qをすべてq^3に置き換え,x=qとすれば,左辺はΠ(1-q^3n)(1-q^3n-1)(1-q^3n-2)=Π(1-q^n)=(q;q)∞となり,

  Π(1-q^n)=Σ(-1)^m・q^(m(3m+1)/2)   (オイラーの5角数定理)

と表される.

 オイラーは

(1)nが五角数でない限り,正の整数nを偶数個の異なる正の整数の和で表す方法の総数と奇数個の異なる正の整数の和で表す方法の総数が等しいこと,

(2)nが五角数ならば,正の整数nを偶数個の異なる正の整数の和で表す方法の総数−奇数個の異なる正の整数の和で表す方法の総数=(−1)^k,n=k(3k+1)/2

を示したことになる.

[2]また,qをすべてq^2に置き換え,x=qとすれば,左辺は

  Π(1-q^2n)(1-q^2n-1)^2

ここで,異なる数への分割と奇数への分割が同数あるという結果に対応する

  Π(1-q^2n-1)=Π1/(1+q^n)

より,

  Π(1-q^n)/(1+q^n)=Σ(-1)^m・q^(m^2)  (ガウスの4角数定理)

[3]今度はx=−qとすれば,(-1;q)∞=2Π(1+q^n)より,左辺は

  2Π(1-q^2n)(1+q^n-1)=2Π(1-q^2n)/(1-q^2n-1)

右辺はΣ(-∞~∞)q^(m(m+1)/2)であるが,m(m+1)/2はm=-1/2について対称であるから和を取る範囲をm:-∞~∞からm:0~∞に狭めることができて

  Σ(-∞~∞)q^(m(m+1)/2)=2Σ(0~∞)q^(m(m+1)/2)

これより

  Π(1-q^2n)/(1-q^2n-1)=Σq^(m(m+1)/2)  m:0~∞   (ガウスの3角数定理)

[4]x=δとすれば,

  (x;q)∞(q/x;q)∞(q;q)∞=(1-δ)(δq;q)∞(q/δ;q)∞(q;q)∞

  Σ(-1)^m・q^(m(m-1)/2)・x^m=Σ(1~∞)(-1)^m・q^(m(m-1)/2)・(δ^m-δ^-m+1)=Σ(0~∞)(-1)^m+1・q^(m(m+1)/2)・δ^-m(δ^2m+1-1)

両辺を(1-δ)で割り,δ→1とすれば,

  左辺→Π(1-q^n)^3

  右辺→Σ(0~∞)(-1)^m-1・(2m+1)q^(m(m+1)/2)

より,

  Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2)   (ヤコビの3角数定理)

[5]三角数等式

 ヤコビの三重積公式

  Σz^nq^(n(n+1)/2)=Π(1-q^n)(1+zq^n)(1+z^(-1)q^(n-1))

において,z=1とすれば,

  Σq^(n(n+1)/2)=Π(1-q^2n)(1+q^(n-1))

が得られる.ここで,右辺が第0項から始まるようにパラメータをずらすと,

  Π(1+q^n)(1-q^2n+2)=Σq^(m(m+1)/2)  m:-∞~∞

[6]七角数等式

 qをすべてq^5に置き換え,z=−1/qとすれば,

  Σ(-1)^mq^(m(5m+3)/2)=Π(1-q^5n)(1-q^5n-1)(1-q^5n-4)

が得られる.ここで,右辺が第0項から始まるようにパラメータをずらすと,

  Π(1-q^5n+1)(1-q^5n+4)(1-q^5n+5)=Σ(-1)^mq^(m(5m+3)/2)  m:-∞~∞

[7]m角数等式

 qをすべてq^m-2に置き換え,z=−1/qとすれば,

  Σ(-1)^nq^(n((m-2)n+m-4)/2)=Π(1-q^(m-2)n)(1-q^(m-2)n-1)(1-q^(m-2)n+1)

が得られる.ここで,右辺が第0項から始まるようにパラメータをずらすと,

  Π(1-q^(m-2)(n+1))(1-q^(m-2)(n+1)-1)(1-q^(m-2)(n+1)+1)=Σ(-1)^nq^(n((m-2)n+m-4)/2)  m:-∞~∞

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【3】ラマヌジャンの関数

 ガウスやヤコビはオイラー関数の3乗を考察して,等式

  Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2)   (ヤコビの3角数定理)

を証明しました.

 クラインはオイラー関数の8乗を考察して,等式

  Π(1-q^n)^8=Σ(1/3+3/2(3klm-kl-lm-mk))q^(ー(kl+lm+mk)

  k+l+m=1

を証明しました.

 ラマヌジャンは,オイラー関数の24乗

  Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n

zは虚部が正の複素数で,q=exp(2πiz)

      η(z)はデデキントのイータ関数,η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n)

を考え,そのフーリエ係数τ(n)を計算しました.

  τ(1)=1,τ(2)=-24,τ(3)=252,τ(4)=-1472,τ(5)=4830,τ(6)=-6048,

  τ(7)=-16744,τ(8)=84480,τ(9)=-113643,τ(10)=-115920,

  τ(11)=534612,τ(12)=-370944,・・・

 無限積をベキ級数に展開した式(フーリエ展開)が登場しましたが,このΔ(z)は,重さ12の保型形式

  Δ(az+b/cz+d)=(cz+d)^12Δ(z)

と呼ばれるものになっていて,オイラーの五角数公式の拡張(24乗版)と考えられます.

 ラマヌジャン数は,オイラーの分割数のアナローグであり,

(1)mとnが素ならば,τ(m)τ(n)=τ(mn)

  τ(2)*τ(3)=-6048=τ(6),τ(2)*τ(5)=-115920=τ(10)

  τ(3)*τ(4)=-370944=τ(12),τ(2)*τ(9)=2727432=τ(18)

  τ(4)*τ(5)=-7109760=τ(20),τ(3)*τ(7)=-4219488=τ(21)

(2)τ(p^(n+1))-τ(p^n)τ(p)=-p^11τ(p^(n-1))   (漸化式)

(3)τ(n)=σ11(nの約数の11乗の総和)  (mod 691)

(4)τ(n)=n^2σ7  (mod 27)

(5)τ(n)=nσ3  (mod 7)

など,驚くような性質をもっています.

 1916年,ラマヌジャンはラマヌジャン数のゼータについて考え,ある予想をたてました.ラマヌジャン数のゼータ,すなわち,

  L(s)=Στ(n)n^(-s)

とおくと(オイラー積のアナローグ)

  L(s)=Π{1-τ(p)p^(-s)+p^(11-2s)}^(-1)

が成り立つことを予想したのです.

 歴史上最初のゼータであるオイラー積

  ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)

は積の中身がp^(-s)の1次式であり,本質的には1次のゼータでしたが,L関数では,p^(-1)の1次式から2次式に進化しているのです.ラマヌジャン数のゼータは,歴史上最初の2次のゼータといえるのですが,新種のゼータに関するこの予想は,翌年,モーデルによって証明されました(1917年).

 また,τ(p)はpが増加するとき,急激に増加するのですが,1974年,ドリーニュによって,ラマヌジャン予想,

  |τ(p)|<2p^(11/2)

が証明されています.この式はp^(-s)=xとおいた2次式

  1-τ(p)x+p^11x^2

の虚根条件(判別式:τ(p)^2-4p^11<0)となっていることに注意して下さい.

 このようにして,

  τ(p)=2p^(11/2)cosθp   (0≦θp≦π)

なるθpがただひとつとれます.そこで,任意に固定された0≦a≦b≦πに対して,偏角θpが[a,b]となる素数密度は

  2/π∫(a,b)sin^2θdθ

で与えられるだろうという佐藤幹夫予想がたてられています.すなわち,θp=π/2のあたりに多く分布していることを予想しているというわけです.この予想は2009年,テイラーにより証明されました.

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【4】マクドナルドの公式

 現在では,オイラー関数のn^2−1乗を考察したマクドナルドの公式が知られています.

  8=3^2−1

  24=5^2−1

  48=7^2−1

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