19世紀の数学者リュカの考案したゲームに「ハノイの塔」があります.ハノイの塔とは3本の柱A,B,Cがあり,柱Aにある何枚かの円盤を1枚ずつ柱Bを中継点にして柱Cに移動させるものです.ただし,どの柱でも上の円盤の方が小さくなければなりません.
(問)64枚の円盤があるとき,移し替えが完了するには何回移動しなければならないのか?
円盤が3枚であるとします.Aにある3枚をBに移すにはCを中継点にしてBに移動させる.このためには上の2枚をCに移し,3枚目をBにもってきた後,Cの2枚をBに移動させる.次に円盤が4枚であるとします.上の三枚がくっついているとして,この3枚をBに移し,一番下の円盤をCにもってきて,Bの3枚をCに移せばよい.
このような再帰的な方法を用いれば円盤が何枚あってもAからCに移動させることができるのですが,n枚の円盤を移動させるのに必要な最小回数をanと書くことにすれば,漸化式
an=2an-1+1
で表せることがわかります.いま述べたn−1枚がくっついているとして・・・という考え方を小学5年生の息子に説明したところ,彼にも意味が理解できた様子でありました.
anの具体的な値は
an+1=2(an-1+1)
an-1+1=2(an-2+1)
・・・・・・・・・・・・・
a2+1=2(a1+1)
より,容易に
an=2^n−1
で与えられることがわかりますが,こうして円盤が3枚のとき→4枚のとき→n枚のときに一般化することができます.
(答)64枚の円盤があるとき,2^64−1回の移動をしなければならない.1秒に1回移動をさせるにしても完了までには5820億年かかることになる.
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形は似ていますが,柱が3本のとき→4本のとき→n本のときに一般化するのはもっと難しい問題になります.4本のときのハノイの塔について
一松信「整数と遊ぼう」日本評論社
の面白い記事がでていたので紹介します.
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【1】柱を4本にしたときの手間
あるとき,一松先生が熱心な中学生のグループから4本のときのハノイの塔について質問を受けたそうです.彼等が実験したところによると,その手間は
n 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
b 1 3 5 9 13 17 25 33 41 49
もちろん2^n−1に比べると桁違いに少ない回数です.
差分をとってみると
2 2 4 4 4 8 8 8 8・・・
となって,その先は
16 16 16 16 16 32 32 32 32 32 32・・・(2^nがn+1個続く)
このことから,4本のときのハノイの塔でもやはり枚数nの増加とともなって指数関数的に手間が増加することがわかります.ただしその増加が3本のときのハノイの塔(2^n−1)と比べ,桁違いに遅いというわけです.柱をいくら増やしても板の枚数の増加とともに指数関数的に増加します.
そして,記事の最後に一松先生は「ハノイの塔の柱を1本増やす」という発展問題を考えた中学生に改めて敬意を表していますが,確かにこうした発想をつまらないものとして芽を摘むのは最悪の教育でしょう.私も大学院生のとき,微量元素の分析に現れる曲線は何かと考えて,当時の教授から「つまらないことを考えるな」とどやしつけられたことがあり,そのことを思い出しました.その曲線とはいまにして思えばフォークト関数です.
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【2】リュカとフィボナッチ数列
初項1,第2項1から始まり,隣り合う2項の和が次の項となる数列
1,1,2,3,5,8,・・・
をフィボナッチ数列とよびます.その一般項Fn は
Fn=Fn-1+Fn-2
です.この数列にフィボナッチ(13世紀のイタリアの数学者でピサのレオナルドとしても知られる)の名を冠したのはフランスの数学者リュカで,ハノイの塔の名で知られる2進法のパズルも1883年にリュカによって考案されたものです.
初項2,第2項1のフィボナッチ数列
2,1,3,4,7,11,18,・・・
は彼にちなんでリュカ数列と呼ばれています(1877年).
Ln=Ln-1+Ln-2
リュカはフィボナッチ数列,リュカ数列を用いてメルセンヌ数(2^n−1)が素数であるかどうかを判定し,(2^127−1)が素数であることを示しています(1876年).この数は12番目のメルセンヌ素数で,1952年の13番目(2^521−1)からはコンピュータによる発見ですから,コンピュータを使わずに見つけられた最大のメルセンヌ素数になっていて,わかっている最大の素数として最長不倒記録を保ち続けました.
フィボナッチ数列やリュカ数列の一般項は,3項漸化式:
Fn=Fn-1+Fn-2
Ln=Ln-1+Ln-2
の特性方程式
x^2−x−1=0
の2つの解より,連続する2項の比は黄金比
φ=(1+√5)/2=1.618034・・・
に次第に近づくことになります.
黄金長方形から正方形を取り除くと一回り小さな黄金長方形が現れてきます.このことを繰り返し行えば対数らせんが現れますが,この曲線は自然界ではオーム貝などの形にみられ,自己相似的な成長過程を表す理想的な曲線とされています.サイクロイドの伸開線はそれと合同なサイクロイドですが,対数らせんの伸開線もそれと合同な対数らせんになります.
今度は逆に1辺の長さがフィボナッチ数列の正方形をらせん状に加えていきます.最初の2つの正方形は1辺の長さが1で,そこに1辺の長さが2の正方形,引き続いて1辺の長さが3,5,8,13,21,・・・.すると,優美な対数らせんが現れてきますが,このらせんはほぼ黄金比で外に広がることになります.
さらに,1つの項の和がその前の3つの項の和になっている
Tn=Tn-1+Tn-2+Tn-3
で定義される数列
1,1,1,3,5,9,17,・・・
は,フィボナッチ数列の拡張とみなせるので,フィボナッチ(Fibonacci)をもじってトリボナッチ(Tribonacci)数列と呼ばれます.
トリボナッチ数列でも連続する2項の比はある決まった値
1/3{3√(19+3√33)+3√(19−3√33)+1}=1.839・・・
に収束します.これは
x^3−x^2−x−1=0
の実根です.
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【3】リュカとペラン数列
フィボナッチ数列では正方形をらせん状に並べましたが,次に正三角形をらせん状に並べてみましょう.最初の3つの正三角形は1辺の長さを1,次の2つは1辺の長さが2で,そのあとは3,4,5,7,9,12,16,21,・・・.このようにしてもおおよそ対数らせんを描きます.
数列
1,1,1,2,2,3,4,5,7,9,12,16,21,・・・
は直前の1項を除いたその前の2項を加えたものです.パドヴァンの数列と呼ぶことにしますが,漸化式は
Pn=Pn-2+Pn-3 (P0=P1=P2=1)
で表されます.
その特性方程式
x^3−x−1=0
の唯一の実数解より,パドヴァン数列の連続する2項の比は
p=1/3{3√(27/2−3√69/2)+3√(1/2+√69/18)}=1.324718・・・
に次第に近づくことになります.pがφよりも小さいことより,パドヴァン数列はフィボナッチ数列に較べてゆっくりと増加することになります.
p^5−p^3−p^2=0
p^4−p^2−p^1=0
より
p^5−p^4−p^3−p^1=p^5−p^4−1
ですから,3次方程式p^3−p−1=0の解はこの5次方程式も満たすことがわかります.あるいは,因数分解
p^5−p^4−1=(p^3−p−1)(p^2−p+1)
でもよいのですが,このことから
Pn=Pn-1+Pn-5
の関係が成り立つこともわかります.
リュカはパドヴァン数列と同じ生成規則に従い,最初の項の値が異なるものを考案しました(1876年).
An=An-2+An-3 (A0=3,A1=0,A2=2)
3,0,2,3,2,5,5,7,10,12,17,22,29,・・・
この数列は現在ではペラン数列と呼ばれるものです.この数列の項比もpに近づきますが,さらに深遠な性質「nが素数のときAnはnで割り切れる」をもっています.しかし,逆命題「Anがnで割り切れるときnは素数である」は必ずしも成り立たないことが知られています.ただし,その最小の反例は数万の大きさなので,コンピュータでも使わなければ反証できません.
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【4】リュカの問題
1^2+2^2+3^2+・・・+24^2=24(24+1)(2・24+1)/6=70^2
級数の公式:Σk^2=n(n+1)(2n+1)/6をご存じの方も多いでしょうが,1からnまでの平方の和が平方数となるのはnが1か24の場合しかありません.
25平方の等式ともいうべきこの等式はリュカの問題(1873年)として知られています.y^2=x(x+1)(2x+1)/6の唯一自明でない整数解は(24,70)で,それ以外の自明な解がないことは楕円関数やペル方程式を使って証明されています.
この等式は辺の長さが相続く整数列1,2,・・・,24の正方形を1辺の長さ70の正方形の中に詰め込める可能性があることを示唆しています.それでは,実際に,70×70の正方形を辺が1から24の相続く正方形によって埋めつくすことができるでしょうか.この問題の答えは否定的(不可能)です.1辺の長さ7の正方形を除くすべての正方形は詰め込めるのですが・・・.
それならば,無駄な空間の割合を最小にして,辺の長さが1,2,・・・,nの正方形を全て詰め込むことができる最小の正方形の辺の長さはいくつでしょうか.また,相続く整数辺の正方形を使って長方形を充填できるでしょうか.
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