■2013・わが闘争
19世紀末,ミンコフスキーは平行移動するだけで空間を充填することのできる2(2^n−1)胞体を考案した.しかし,ファセット数は得られたもののk次元面数(k=0〜n−2)を求めることはできなかった.
平行移動だけで空間を充填する多面体は平行多面体と呼ばれる.フェドロフはそのような3次元凸多面体は5種類に限られることを証明した.その後,ドローネーが4次元平行多面体は52種類あることを証明(彼は51種類としたのであるが,後年,見逃がされたものがひとつ追加された.)
その後,研究の流れは5次元の平行多面体にはどれだけの種類があるかに移ってしまい,面数公式は数学者に忘れ去られた問題となってしまったのである.
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面数公式に前進がみられたのは,空間充填とは無関係の多面体的組み合わせ論の領域においてであった.それによれば,置換多面体=空間充填2(2^n−1)胞体の頂点数はf0=2^nn!,辺数はf0n/2となる.しかし,前進はそこまででk次元面数(k=2〜n−2)は依然として未解決のままであった.
2011年,私は先人達も苦心した空間充填2(2^n−1)胞体のk次元面数(k=0〜n−1)を(あっさり)完成させることができた.さらに,そのおまけとして3^n−1胞体のk次元面数も得ることができたのである.
さて,本年の話に移ろう
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あらゆる学問は分類に始まるといっても過言ではない.似通ったものを寄せ集め,ひとつのまとまりとして把握し,似ていないものから区別する.数学の分野では分類に加えて前提が重要である.簡単な前提から出発し,豊饒な世界の特徴を把握し分類する.それができれば次は前提を一般的なものに緩め世界を広げていく.数学はそのようにして進展していく.
空間充填2(2^n−1)胞体と3^n−1胞体のk次元面数を得ることができたあとは,一般の高次元準正多胞体の面数公式にとりかかるのは自然な流れであろう.fn-1公式については石井源久先生がすでに完成させていたが,彼の意見ではf0,f1,・・・は困難だろうというものであった.
ところで,無生物である多面体にもDNAに相当するものがある.それはワイソフ情報と呼ばれる0/1からなるn桁の数字の並びである.この情報を解読できれば多面体の面数公式が得られるに違いない・・・.
言うは易く,しかし,実際の作業となると困難を極めた.それでも数カ月後にはf0公式に引き続いてf1公式を得ることができた.k次元面数(k=2〜n−2)にはなにも進展は得られなかった.
それで,9月に京大・数理解析研で行われる研究会で,多面体のDNAとf0,f1,fn-1公式の関係を講演したあとは,スッパリ数学から足を洗おうと考えていたのである.
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ところが,9月の研究会でのたまたま私の講演を聴いていたムーディー先生(群論の大家)から君には数学の真の才能があると褒めて(おだてて)いただいた.k次元面数(k=2〜n−2)に進展がないことを告げると,後日,親切にも単純リー環を使った面数数え上げの方法に関する論文を送ってくれた.
その論文(単純リー環)は実はあまり役に立たなかったのであるが,面数数え上げのアルゴリズムが存在することを強く確信できたことが大きかったと思う.それから1カ月で未完成部分をすべて完成させることができたのである.
うまくいった原因を振り返って考えてみると,準正多胞体を切頂型と切頂切稜型に二分したこと,この分類がうまく作用したことがあげられる.ともあれ,完成したあとからながめてみると,小学生が解いたとしてもおかしくない初等的な方法を素朴に高次元に敷衍しただけになっていることが実におもしろい.真理とは案外そういうものなのかもしれない.
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わからない問題はまだいっぱいある.まだまだ奥の深い数学がそこにはある.学問に真摯に取り組み,オリジナリティを発揮したいと思う.
オイラーはまるで息をするかように数学をしたといわれている.私にはそこまでできないが,数学を考えながらいつのまにか眠り,目が覚めたときにはにはすでに数学の世界に入っているくらいの生活を送ることはできている.数学は自分の命を削ってやるようなものなのである.
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