n角形の穴をあけるドリルについて,これまでのまとめをしておきたい.
(1)nが偶数のとき
円弧の中心はn−1角形の頂点
n=4 → ルーローの三角形
(2)nが奇数のとき
円弧の中心はn−1角形の辺の中点
n=3 → 藤原・掛谷の二角形(例外)
(3)中心の軌跡は楕円の弧の組合せ
円もどき (n=3を除く)
n>3であれば中心の軌跡はほとんど円軌道を描いているといっていいくらいなので,1回公転する間に1/(n-1)回自転するという運動を実現させてやればよいことになる.そのためには2つの歯車が必要になる.
n=3の場合,藤原・掛谷の2角形の中心は三角おむすび形の軌道をとるため,ハイポトロコイドで近似させることになると思われるが,はたして近似度は十分だろうか?
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【1】ハイポトロコイド
1つの円(転円:半径b)が他の固定した円(定円:半径a)に内接しながら滑ることなく転がるとき(b<a),転円に固定した点で転円の内部または外部にある点の描く軌跡をハイポトロコイドという.
転円の中心から固定点までの距離をcとおくと,この方程式は
x=(a−b)cosθ+ccos{(a−b)θ/b}
y=(a−b)sinθ−csin{(a−b)θ/b}
と求められる.c=0(中心上)のとき円,c=b(周上)のときハイポサイクロイドになる.アステロイドはc=b=a/4のハイポサイクロイドである.
ちなみに転円が定円に外接するとき,転円に固定した点で転円の内部または外部にある点の描く軌跡をエピトロコイドという.
x=(a+b)cosθ−ccos{(a+b)θ/b}
y=(a+b)sinθ−csin{(a+b)θ/b}
c=0(中心上)のとき円,c=b(周上)のときエピサイクロイドになる.カージオイドはc=b=aのエピサイクロイドである.
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【2】中心の軌跡のハイポトロコイド近似
藤原・掛谷の2角形の中心の軌跡を求めると,B=A√3/2として
x=(2A/√3−B)sinθ
y=A−Bcosθ
で与えられます.
ルーローの三角形では円もどき,デルトイドでは真円軌道を描くのですが,藤原・掛谷の2角形の中心の軌跡を描くと三角おむすび形の軌道になります.これをa=3bのハイポトロコイド
x=2bcosθ+ccos2θ
y=2bsinθ−csin2θ
で近似すると
c/b=0.178633
のとき,最もよく近似されることが計算されます.
ルーローの三角形の場合(c/b=0)とは違って,藤原・掛谷の2角形では回転の中心を転円の中心から少しずらしてやる必要があります(c/b=0.178633).藤原・掛谷の2角形が実際に三角の穴をあけるドリルに応用されているかどうかは知りません.
n>3の場合も計算すると,a=nbのハイポトロコイド
x=(n−1)bcosθ+ccos(n−1)θ
y=(n−1)bsinθ−csin(n−1)θ
に対して
n c/b
3 0.178633
4 0.0796261
5 0.0165976
6 0.0628495
7 0.0247228
8 0.0503071
9 0.0281634
10 0.0416572
となって,n=5のとき最も真円に近いことがわかります.
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【3】出力例
藤原・掛谷の2角形の中心の真の軌道(緑)と近似軌道(白)をオーバーラップさせて示します.両者はほぼ完璧に重なっていて近似度は十分と考えられます.
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