4次元正5胞体を2次元平面上に直投影するとその外形は正三角形,正方形,正五角形など様々に変化する.とくに正五角形に中にすべての対角線を入れた図はペンタグラムそのものとなる.4次元正5胞体を3次元空間内に直投影した立体図形でもさまざまに変化する外殻の中に1種類だけの正多面体が集まる3次元立体が得られる.
乙部住職の立体ペンタグラムは,3次元空間に5点を配置して見る角度によって正三角形,正方形,正五角形に見えるものを作るという問題と捉えることもできる.
ところで円通寺のある南千住といえばかつてお化け煙突があった近くである.お化け煙突は見る角度によって2本にも3本にも4本にも見えるという不思議な煙突であった.乙部住職の「立体ペンタグラム」は3次元空間の「お化け煙突」という面白い話題であるが,(その1)ではいい製作方法が思いつかなかった.しかも,正5胞体を等辺等角のまま変形させて3次元に退化させようとしたところ,3次元を通り越して一気に2次元まで退化してしまったのだ.
そこで,今回のコラムでは80余才にしてなおエネルギッシュな乙部住職から立体ペンタグラムの製作法をご教授いただき,それを解説することにした.
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【1】正5胞体の1点透視図
乙部住職から頂いた手紙には説明が微に入り細にわたって整然と書き込まれていて,それを読んですぐに疑問が氷解した.私が正5胞体の直投影と思っていたのは,実は平行投影ではなく1点透視図であるとあったからである.
[☆]私の考えた方法は2次元平面上に直投影するとその外形が正五角形になることより,3次元空間に投影された5点を
P0(1,0,0)
P1(cos(2π/5),sin(2π/5),z1)
P2(cos(4π/5),sin(4π/5),z2)
P3(cos(6π/5),sin(6π/5),z3)
P4(cos(8π/5),sin(8π/5),z4)
とするものであったが,その際,z2=z3=0,z1=z4とおいたことがつまずきの原因であった.乙部住職の方法をこの方法に従って表記すると
z3=−z2,z4=−z1
となる.
[△]ここで,3点(P0,P2,P3)が正三角形をなすとするとP0P2=P2P3であるから
(cos(4π/5)-1)^2+(sin(4π/5))^2+z2^2=(2sin(4π/5))^2+(2z2^2)^2
z2^2=−(sin(4π/5))^2+(cos(4π/5)-1)^2/3
→ z2=0.863338
[□]また,直投影するとその外形が正方形になることよりP2P3=P1P4,したがって,
(2sin(4π/5))^2+(2z2^2)^2=(2sin(2π/5))^2+(2z1^2)^2
→ z1=−0.431669
以上より
P0(1,0,0)
P1(0.309018,0.951059,-0.43166)
P2(-0.808016,0.587787,0.863338)
P3(-0.809019,-0.587783,-0.863338)
P4(0.309013,-0.951058,0.431661)
が得られる.
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【2】雑感
ここで説明した方法は投影図が☆△□に見えるということから発想したいわば「お化け煙突」的解法である.乙部住職のオリジナルの方法は「正5胞体の投影図」からきているので,□のところの計算は必ずしも乙部住職の意に沿うものではないと思われるが,結果的にはほとんど同じ答えが得られているはずである.
正5胞体の直投影では,ある辺が正三角形の重心(中線の2:1内分点)を直角に通るのだが,乙部住職の1点透視図法では,正五角形との関係からこの辺が1:φ内分点を通るように移動させている.しかし,なかには直投影されている点もあり「特殊な直投影」と考えることもできるだろう.
ともあれ,乙部住職の1点透視図法を証明するのは難しくはないが,そのアイディアを発見するのは易しくはなかったであろうと推察される.4次元立体を投影するという困難にあえて立ち向かった氏に素直に敬意を表したい.
なお,この「立体ペンタグラム」は約10年くらい前に名古屋で開かれた展覧会のミュージアムショップで売られる品物として出品されたことがあるそうである.また,この模型は既に東京大学数理研究所に学術資料としてその他の4D多胞体模型とともに寄贈済みとのことである.4D多胞体の写真は
石井源久・山口哲「高次元図形サイエンス」,京都大学学術出版会
の30−31ページでみることができる.
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