■単純リー環を使った面数数え上げ(その6)

【1】既約ルート系の分類

 ルート系は,平面を鏡映三角形で埋めつくすというユークリッド幾何学の問題に帰着させることができます.

 1次独立な2つのルートα,βのなす角をθとすると,

  (α,β)=|α||β|cosθ

ただし,(α,β)>0,|α|≦|β|,0<θ≦π/2としても一般性を失いません.

 また,

  2(α,β)/(α,α)=〈α,β〉

と略記すると,

  〈β,α〉=2|β|/|α|cosθ

が成立しますから,

  〈α,β〉〈β,α〉=4cos^2θ

が得られます.

 ここで,ルート系の定義から,〈α,β〉は整数ですから,

  4cos^2θ=0,1,2,3

したがって,

  θ=π/2,π/3,π/4,π/6

に限られます.

 このようにして,平面を鏡映三角形で埋めつくす問題を2つのベクトルα,βの長さと角度によって特徴づけると,R^2のベクトルの集合

  Φ1={α,β,α+β}

  Φ2={α,β,α+β,2α+β}

  Φ3={α,β,α+β,2α+β,3α+β,3α+2β}

を考えることができます.

 2つのベクトルα,βをルート系の基底,また,このようにして得られたベクトルの集合Φ1,Φ2,Φ3を階数2のルート系と呼びます.そのワイル群はそれぞれ3次対称群S3,位数8の2面体群D8,位数12の2面体群D12となっています.

 また,平面を鏡映三角形で埋めつくす問題を一般の次元に拡張して,R^nの単体に置き換えて得られるベクトルの集合が一般の階数のルート系となります.そのとき,n次元単体の基底となるn個のベクトルの集合を

  Φ={α1,α2,・・・,αn}

として,

  〈αi,αj〉=2(αi,αj)/(αj,αj)=Cij

で与えられる整数をカルタン数,n次正方行列C={Cij}をカルタン行列といいます.これはαjを長さ√2のベクトルとするとき,カルタン行列は内積(αi,αj)からなるグラミアンとして定義されることを意味しています.

  θ  |β|/|α| 〈α,β〉 〈β,α〉 〈α,β〉〈β,α〉

 π/2    −      0     0       0

 π/3    1      1     1       1

 π/4    2      1     2       2

 π/6    3      1     3       3

 カルタン行列では,この4つの場合分けが可能となるのですが,カルタン数はそれほど多くの値をとるわけではないので,その状況を端的に表すグラフ(ディンキン図形)を考えることができます.そして,〈α,β〉〈β,α〉,すなわち,

  θ=π/2・・・・結ばない

  θ=π/3・・・・辺−で結ぶ

  θ=π/4・・・・辺=で結ぶ

  θ=π/6・・・・辺≡で結ぶ

と定めます.

 たとえば,A3型,D4型,E8型のディンキン図形は,

      3         1−2−3  (A3 )

     /                             

  1−2   (D4 )        4              

     \              |              

      4         1−2−3−5−6−7−8  (E8 )

と表されます.−で結ばれる辺がありますから,隣り合う2つのベクトルは角度60°で交わり,隣り合わないベクトルは直交すること(内積=0)を意味しています.また,

  1=2 (B2)  1≡2 (G2)  1−2=3−4 (F4)

では,それぞれ角度45°,30°,60°−45°−60°で交わると定めるのですが,このことを使うと既約ルート系の分類が可能になります.(注意:B2=C2,A3=D3)

 既約なルート系はディンキン図形を用いて分類することができるのですが,逆にディンキン図形が与えられるとカルタン行列が計算できて,それに基づいてルート系を再構成できます.対角成分はすべて2,非対角成分は0,1,2,3に限られます.(実際は正ルートをとるので,0,−1,−2,−3になるのだが,ここでは便宜上0,1,2,3とした.)

 A3型,D4型,E8型,F4型に対応するカルタン行列式は,それぞれ

  |2 1 0|   |2 1 0 0|

  |1 2 1|   |1 2 1 1|

  |0 1 2|   |0 1 2 0|

            |0 1 0 2|

  |2 1 0 0 0 0 0 0|   |2 1 0 0|

  |1 2 1 0 0 0 0 0|   |1 2 2 0|

  |0 1 2 1 1 0 0 0|   |0 1 2 1|

  |0 0 1 2 0 0 0 0|   |0 0 1 2|

  |0 0 1 0 2 1 0 0|

  |0 0 0 0 1 2 1 0|

  |0 0 0 0 0 1 2 1|

  |0 0 0 0 0 0 1 2|

 また,階数2のルート系のカルタン行列は,

   A1×A1    A2     B2      G2

  |2 0|  |2 1|  |2 2|  |2 3|

  |0 2|  |1 2|  |1 2|  |1 2|

となります.Ck型カルタン行列はBk型の転置行列です.

 ルート系の分類は,それ自体大変面白いものなのだそうですが,既約ルート系の同型類には,AからGまでのアルファベットに,添字として階数をつけた名前が付いていて,E8型ルート系などと呼ぶ習慣になっています.

 ルートは鏡映を与えるベクトルとして理解することができるのですが,8次元ユークリッド空間において,8次元単体(4面体の拡張)を鏡映したものからなるモザイク模様に対してベクトルの集合を考えることによって,E8型ルート系が得られるというわけです.

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