■二分法の対立

 先月,京都大学数理解析研究所で行われた「タイル張り力学系とその周辺」の研究会で,

  space filling semi-regular polytopes and their Wythoff arithmetic

を講演.

 そこでは幾何学的な方法や多面体的組み合わせ論の方法を用いて,空間充填準正多胞体の諸量の計算結果について発表したところ,参席のムーディー先生からいろいろなサジェスチョンを賜った.コクセターが整理した群論的な方法を使って,計量を行うことができるのではというものであった.

 確かに,算術的方法は直観的でストレートであるが,いささか複雑であるのに対し,代数的方法はスマートであるように見えるかもしれない.しかし,「ワイソフ算術」を使えばf0,f1,fn-1の計量は容易に可能となることを申し添えておきたい.(算術的方法の勝ち?)

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【1】確率分布関数の統計的母数推定法

 連続な値をとる測定値(x1,x2,・・・,xn)について,データ分布の型,中心的傾向,ばらつきを調べるためにはヒストグラム(度数分布図)を作成します.ここでは1次元データのヒストグラムに対する分布関数の適合について説明します.

 モデルとして仮定した確率分布には未知のパラメータ(母数)が含まれています.パラメータとは確率分布を特徴づける定数のことで,パラメータの値によってはじめてその確率分布の型が決まります.たいていの場合,分布関数はパラメータに関して非線形関数であり,分布特性値に関する推定は非線形最小2乗問題と同類の最適化問題になるわけですが,最小2乗問題には見られない問題,<情報損失の問題>と<数値計算の収束安定性の問題>が発生します.

 目的は観測データから確率分布の未知パラメータの値を推定することですが,推定には

a)パーセント点による方法

b)最小χ^2法

c)積率推定法(モーメント法)

d)最尤推定法(最尤法)

などが考案されています.

 パーセント点による方法はかなりアバウトな推定法であり,統計的母数推定法の立場からは論外の手法です.度数分布表に対するχ^2検定はピアソンの適合度検定と呼ばれ,1900年,ピアソンによって示されたものです.最小χ2 法は一見合理的に思える母数推定法ですが,ヒストグラムは区間の幅の取り方によって見かけが大きく異なってくるため,母数も区間の作り方に依存して変動するという欠点があります.さらに,最小χ^2法ではデータが階級分割数までに縮約され,階級分割のトランケートの過程でデータのもっている情報の一部が失われる欠点もあります.

 そのため,この中でもっとも汎用されている母数推定法は積率法と最尤法ですが,積率法はコンピュータが手軽に利用できなかった頃の計算方法で,現在,そのままの形で利用するには少々古典的であり,最尤法の初期値を求めるのに利用されているにすぎません.

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【2】二分法の対立(モーメント法と最尤法の比較)

 一般に,モーメント法はより容易に推定量を求められるため自然の要求にあった推定法といえます.一方,最尤法はモーメント法ほどには直感に訴える意味を持ち合わせておらず,最尤法で母数を推定することは計算機の助けなしにはほとんど不可能です.すなわち,前者のほうが直感的で人の心にストレートに訴えるものがあるが往々にして失敗するのに対し,後者は論理を優先し面白味に欠けるが着実であるというわけです.

 ただし,望ましい推定量の基準として要求される条件には不偏性,一致性,有効性,最尤性などがあげられますが,モーメント法では高々数次までのモーメントの一致性が保証されるのみで高次のモーメントでは不偏性はおろか一致性すら成立しないため,その推定量は満足すべき特性をもっていません.そのため,モーメント法で求めたパラメータを初期値として最尤法を用いてなるべく精密な推定値を誤差も含めて求めておくことが要求されます.

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