■フォン・ノイマンが間違えた問題(その4)

 無限級数が現れる問題に「多重反射」の問題がある.

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【1】算術的方法

 薄いガラス板があって,それに光があたると一部は透過し一部は反射される.2枚のガラス板が平行に置かれている場合,第1のガラス板で一部は透過し一部は反射される.透過した光は,第2のガラス板で一部は透過し一部は反射される.反射された光は,第1のガラス板に戻って一部は透過し一部は反射される.そこで反射された光は再び第2のガラス板に戻ることになる.

 光の強度をI0,透過率をt,反射率をr(t+r)=1とすると,

[1]反射した光の強度は

  rI0+rt^2I0+r^3t^2I0+r^5t^2I0+r^7t^2I0+・・・

=rI0+rt^2I0{1+r^2+r^4+r^6+・・・}

=rI0+rt^2I0/(1−r^2)

=2rI0/(1+r)

[2]透過した光の強度は

  t^2I0+r^2t^2I0+r^4t^2I0+r^6t^2I0+r^8t^2I0+・・・

=t^2I0{1+r^2+r^4+r^6+・・・}

=t^2I0/(1−r^2)

=(1−r)I0/(1+r)

 結局,2枚のガラス板全体としての反射率,透過率はそれぞれ

  R=2r/(1+r)

  T=(1−r)/(1+r)

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【2】代数的方法

 それでは,n枚のガラス板全体としての反射率,透過率はどうなるだろうか?

 2枚のガラス板の場合,無限級数を使ったが,算術的な方法でなく,代数的な方法を用いてみよう.

 順方向の光の流れをI,逆方向のをJとすると,

  Ik=tIk-1+rJk

  Jk-1=rIk-1+tJk

 キルヒホッフの法則より

  Ik+Jk-1=Ik-1+Jk

  Ik−Jk=Ik-1−Jk-1=・・・=I0−J0=In=S

 前式に代入すると

  Ik=Ik-1−rS/t

  In=I0−nrS/t=S

  In=I0/(1+nr/t)

(答)

  R=nr/(nr+t)

  T=t/(nr+t)

  R+T=1

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 算術的方法は直観的でストレートであるが,いささか複雑であるのに対し,代数的方法はスマートであるように見えるかもしれない.

 先月,京都大学数理解析研究所で行われた「タイル張り力学系とその周辺」の研究会で,

  space filling semi-regular polytopes and their Wythoff arithmetic

を講演.

 そこでは幾何学的な方法や多面体的組み合わせ論の方法を用いて,空間充填準正多胞体の諸量の計算結果について発表したところ,参席のムーディー先生からいろいろなサジェスチョンを賜った.

 コクセターが整理した群論的な方法を使って,計量を行うことができるのではというものであったが,「ワイソフ算術」を使えばf0,f1,fn-1の計量は容易に可能となることを申し添えておきたい.(算術的方法の勝ち?)

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