(その5)で奇数角形の穴をあけるドリルの問題は解決したが,奇数角形の穴をあけるドリルに対しては特定の問題解決法がなく,個別(n=5,7,9,・・・)に内接する偶数角形の辺の長さと円弧の厚さ(円弧の中心の位置)を調整する必要があることが示された.
このシリーズを振り返ってみると,これまでの試行錯誤の過程で一番の問題になっていたのは,偶数角形の辺の長さよりも円弧の厚さである.n=3の場合の藤原・掛谷の2角形の類推から,奇数角形に内接する少し膨らませた偶数角形のドリルを,奇数n角形の頂点から底辺に下ろした垂線を対角線とする偶数(n−1)角形に中心角が2π/n(n−1)の円弧で少し丸みをつけたものにしてみた.
いま改めて考えてみると,藤原・掛谷の2角形の類推からはもうひとつ,奇数角形の頂点を円弧の中心,頂点から底辺に下ろした垂線を半径とする円弧を描き,奇数角形の辺との交点同士を結んだ線分を1辺とする少し膨らませた偶数角形のドリルを検討してみるべきであった.今回のコラムでは(その2)でなすべきであったもうひとつの試みを,遅ればせながらではあるが検討することにした.
===================================
【1】奇数角形の穴をあけるドリル
正n角形(n:奇数)の頂点から底辺に下ろした垂線を対角線とする正(n−1)角形に,中心角が2π/n(n−1)の円弧で少し丸みをつけると,この頂点は正n角形の頂角2π/nにピッタリとはまり込むのですが,桜の花のような形の穴があいてしまいました(その2).しかもそのとき中心の軌跡が円でないため,スムーズな回転が期待できませんでした.
それに比べ前述の方法では,わずかにはみ出す部分はあるもののほぼ満足できる五角形の穴をあけるドリルを作ることができました.以下に実行例を掲げます.
[1]五角の穴をあけるドリル
しかし,この方法で大体うまくいくと思ったのも束の間,七角形,九角形の穴をあけるドリルでは大きくはみ出してしまい,検討するに値しませんでした.
[2]七角の穴をあけるドリル
[3]九角の穴をあけるドリル
===================================
【2】まとめ
(その2)の場合
(1)奇数角形の1辺の長さを1としたときの偶数角形の1辺
(2)偶数角形の1辺の長さを1としたときの弧の半径
(3)弧の中心角
はそれぞれ
n (1) (2) (3)
5 1.08813 3.19623 18
7 1.09532 6.69075 8.57148
9 1.08515 11.4628 5
でしたが,今回検討した方法では
n (1) (2) (3)
5 1.06134 1.4499 40.3454
7 1.11505 1.96464 29.4882
9 1.13729 2.49332 23.1366
となりました.
(その5)で調べた最適な場合
n (1) (2) (3)
5 1.0404 1.13716 52.1686
7 1.07215 1.81125 32.0495
9 1.07125 2.48403 23.2243
と比べて辺の長さが大きくなり,n=7,9では(その3)に掲げた正n角形内にはいる最大の正(n−1)角形の1辺の長さ
5 1.0674
7 1.08378
9 1.0794
をも上回りました.
また,最適な場合の円弧の中心は(精確には一致しないものの)偶数角形の辺の中点近くにあることがわかりましたから,n=5でほぼ満足できる穴が得られたのはまったく奇跡的といえるでしょう.
いずれにせよ,奇数角形の穴をあけるドリルに対しては特定の問題解決法がないことが再確認されたのですが,私にとっては少々不満の残る泥臭い結論となってしまいました.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「四角い穴をあけるドリル」,「三角の穴をあけるドリル」の問題を一般化すると
(1)2n角形の穴をルーローの2n−1角形のドリルであける
(2)2n+1角形の穴を少し膨らませた2n角形のドリルであける
の他に
(3)2n角形の穴をルーローの三角形のドリルであける
(4)2n+1角形の穴を少し膨らませた二角形のドリルであける
なども考えられるところですが,例えば,ルーローの三角形は正六角形からはみ出してしまうため,これも検討に値する問題ではないことがわかります.
===================================