■多元環とリー群(その9)

 核物理学は中性子Nと陽子Pが結合して原子核をつくる機構を研究するものです.核の中では(重力を無視すれば)3つの力が働いていて,強い力はNまたはPを互いに結びつける,電磁相互作用はP相互間の反発力,弱い相互作用は不安定核のβ崩壊を引き起こす力となっています.

 強い相互作用をする素粒子はハドロンと呼ばれますが,強い相互作用をするすべての粒子はクォークからできていると仮定するとうまく説明できる実験事実があり,重粒子(バリオン)は3つのクォークから,中間子(メソン)は2つのクォークからなるものと考えられています.

 また,アイソスピン以外にも強い相互作用で保存し,弱い相互作用では保存しないような量が存在するのですが,その1つがハイパーチャージです.強い相互作用はアイソスピンとハイパーチャージの保存によって特徴づけられるのですが,横軸にアイソスピン,縦軸にハイパーチャージをとり,対応する粒子を平面上にプロットすると正六角形を描くとなるというのが八道説です.この六角形はA2型のルート系とまったく同じもので,SU(3)対称性を物語っています.

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【1】ディンキン図形

 ルート系はn次元ユークリッド空間のベクトルの集合なので,それを平面上に図示するためには特別な工夫が必要となります.

 1次独立な2つのルートα,βのなす角をθとすると,

  (α,β)=|α||β|cosθ

ただし,(α,β)>0,|α|≦|β|,0<θ≦π/2としても一般性を失いません.

 また,

  2(α,β)/(α,α)=〈α,β〉

と略記すると,

  〈β,α〉=2|β|/|α|cosθ

が成立しますから,

  〈α,β〉〈β,α〉=4cos^2θ

が得られます.

 ここで,ルート系の定義から,〈α,β〉は整数ですから,

  4cos^2θ=0,1,2,3

したがって,

  θ=π/2,π/3,π/4,π/6

に限られます.

 そのとき,n次元単体の基底となるn個のベクトルの集合を

  Φ={α1,α2,・・・,αn}

として,

  〈αi,αj〉=2(αi,αj)/(αj,αj)=Cij

で与えられる整数をカルタン数,n次正方行列C={Cij}をカルタン行列といいます.これはαjを長さ√2のベクトルとするとき,カルタン行列は内積(αi,αj)からなるグラミアンとして定義されることを意味しています.

  θ  |β|/|α| 〈α,β〉 〈β,α〉 〈α,β〉〈β,α〉

 π/2    −      0     0       0

 π/3    1      1     1       1

 π/4    2      1     2       2

 π/6    3      1     3       3

 カルタン行列ではこの4つの場合の値のみが許されます.カタラン数はそれほど多くの値をとるわけではないので,その状況を端的に表すグラフ(ディンキン図形)を考えることができます.そして,〈α,β〉〈β,α〉,すなわち,

  θ=π/2・・・・結ばない

  θ=π/3・・・・辺−で結ぶ(・−・)

  θ=π/4・・・・辺=で結ぶ(・=・)

  θ=π/6・・・・辺≡で結ぶ(・≡・)

と定めます.

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 ディンキン図形はカルタン行列に対応する平面グラフというわけですが,リー代数との関係をみてみましょう.

[1]SU(n)

 SU(n)代数は古典群と呼ばれる代数のうちの一組で,SU(n+1)代数はカルタンによりAnと呼ばれたものです(An=SU(n+1)).

 行列式が1のn×n複素ユニタリー行列の群SU(n)のリー代数は,エルミートでトレース0のn×n行列で生成され,それには線形独立なものがn^2−1個あります.

 それらの重みはn−1次元空間で正単体,すなわち,SU(2)に対し正三角形,SU(3)に対し正四面体をなします.したがって,SU(n)のディンキン図形は

  ・−・−・・・−・−・

になり,SU(2)に対するディンキン図形は・,SU(3)に対しては・−・と表されます.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

[2]SO(n)

 SO(n)はn×n直交行列の群,すなわちn次元実ベクトル空間における回転群です.nが偶数のとき(n=2m),m個の2次元部分空間に分解でき,そのディンキン図形は

            ・

           /

  ・−・−・・・−・

           \

            ・

となります.この代数so(2m)はカルタンがDnと呼んだものです.

 それに対して,n=2m+1のときのディンキン図形は

  ・−・−・・・=・

となり,この代数so(2m+1)はBnと呼ばれます.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

[3]Sp(2n)

  Aを任意の反対称n×n行列,Sを対称n×n行列,σをパウリ行列として

  E(×)A,σi(×)S

の形をした2×2およびn×nエルミート行列のテンソル積(×)の形で与えられる2n×2n行列のなす群は,Sp(2n)のリー代数をなします.

 Sp(2n)リー代数はカルタンがCnと呼んだもので,そのディンキン図形は

  ・−・−・・・=・

となります.

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 行列の場合,XとT^(-1)XTを同型といいますが,リー代数の同型とは交換子積の保存(交換子の行き先が行き先の交換子となっているもの)

  f([X,Y])=[f(X),f(Y)]なる条件を満たすとき,同型であることをいいます.

 たとえば,

  J1=1/2[0,i] J2=1/2[0,−1] J3=1/2[i, 0]

      [i,0]     [1, 0]     [0,−i]

とすると,J1,J2,J3はsu(2)の基底をなし,

  [J1,J2]=J3

  [J2,J3]=J1

  [J3,J1]=J2

という交換関係を満たします.

 一方,

  L1 =[0,0,0] L2 =[0,0,1] L3 =[0,−1,0]

     [0,0,−1]   [0,0,0]    [1,0,0]

     [0,1,0]    [−1,0,0]   [0,0,0]

はo(3)の基底で,

  [L1,L2]=L3

  [L2,L3]=L1

  [L3,L1]=L2

ですから同じ交換関係をみたします.

 このことからsu(2)とo(3)は同型であることがわかります.(SU(2)とO(3)は集合としては同型ではありません.念のため・・・)

 同型を考慮してまとめあげると,

  sl(n+1)・・・An型単純リー代数(n≧1)

  o(2n+1)・・・Bn型単純リー代数(n≧2)

  sp(2n)・・・・Cn型単純リー代数(n≧3)

  o(2n)・・・・・Dn型単純リー代数(n≧4)

となります.これらの代数が5つの特殊な代数E6,E7,E8,F4,G2を合わせてすべての単純リー群を構成しているのです.

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