■レムニスケート積分(その27)

 ガウス平面で正5角形の頂点を表す4次方程式

  x^4+x^3+x^2+x+1=0

の両辺をx^8でわり,

  y=x+1/x=2cos(2π/5)

と変数変換すると2次方程式

  y^2+y−1=0

に帰着され,

  y=(√5−1)/2=2cos(2π/5)

  cos(2π/5)=(√5−1)/4

が得られる.

 しかし,ガウス平面で正17角形の頂点を表す16次方程式

  x^16+x^15+・・・・+x+1=0

の両辺をx^8でわり,

  y=x+1/x=2cos(2π/17)

と変数変換をし,最後に2次方程式に帰着させるというストーリーは数値解

  y=1.86494

しか得られず,失敗に終わった.

 阪本ひろむ氏から聞いたところによれば,遠山啓の「数学入門」に「労多くして益なし」に関した笑い話があるそうだ.

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 阪本:何角形だったか忘れたが,ある数学の先生ができの悪い学生に,おまえなんか正257角形の作図でもしていろ!としかった.その学生は姿を消し,数十年後に恩師のもとを訪れた.彼は正257角形の作図方法を書いた論文を師に渡し息絶えた・・・.ネタ本は岩波新書の「数学入門」(全三冊)だったと思う.最近,再刊されているらしいから,ネタの内容確認をお願いする.ひょっとしたら正65537角形だったかもしれない.その方が話としてはおもしろい.

 佐藤:なるほど.しかし,私は正17角形でもままならないかったというわけか・・・.

 私にとっては笑うに笑えない話だった.やはり「ガウスは天才だった」のだ.

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 辺数3,4,5,6,8,10,12,15,16の正多角形は作図できますが,辺数7,9,11,13,14の正多角形は作図できないことから,正17角形もそうであろうと推察されます.ところが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつき,のみならず,nが素数の正n角形について,n=2^2^m+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.

 正7角形も正9角形も作図できないのに,まさか正17角形が作図できるとはと思うのが普通なのでしょうが,このことを用いると,m=0のとき正3角形,m=1のとき正5角形,m=2のとき正17角形となり,作図可能であることがわかります.当然,ずっと面倒になるでしょうが,正257角形(m=3),正65537角形(m=4)も作図可能です.

 2^2^m+1の形の素数をフェルマー素数といいます.フェルマー素数はガウスによって1世紀にわたる眠りから覚まされ,数論と幾何学に新たな美しさを吹き込んだことになります.フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,m=5のときは素数ではなく,現在,m=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.6番目のフェルマー素数の探索がコンピュータを使ってなされていますが,はたして本当に存在するのでしょうか.

 アルキメデスは円柱とそれに内接する球の体積比が3:2であることを発見した記念に,自分の墓の上に円柱の形をした記念碑をおくように遺言したといわれています.アルキメデスと同じように,ガウスは正17角形を墓石に彫るよう遺言しています.このことはガウス自身がその発見をいかに重視したかを物語っています.数々の大発見をしたガウスですが,19才の青年がアルキメデスをもってしてもできなかった古代ギリシア以来2000年の謎を解いたのですから,まさに驚きとしかいいようがありません.この正17角形の作図は彼を本格的に数学の道に入らせるきっかけとなったといわれています.

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