■レムニスケート積分(その21)
1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いついたのみならず,nが素数の正n角形について,n=22^m+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見したのである.
ここで,ガウスが語っているのは具体的な円周等分法ではなく,幾何学的な等分可能性である.以下,具体的な正17角形の計算方法を掲げる.
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16次方程式
x^16+x^15+・・・・+x+1=0
の両辺をx^8でわり,
y=x+1/x=2cos(2π/17)
と変数変換をし,最後に2次方程式に帰着させると失敗する.
z=x^4+x+1/x+1/x^4
w=x^8+x^4+x^2+x+1/x+1/x^2+1/x^4+1/x^8
と変数変換する手がある.
ζ=cos(2π/17)+isin(2π/17)
y=ζ+ζ^-1=2cos(2π/17)
y’=ζ^4+ζ^-4
z=ζ+ζ^4+ζ^-1+ζ^-4
z’=ζ^2+ζ^8+ζ^-2+ζ^-8
w=ζ+ζ^2+ζ^4+ζ^8+ζ^-1+ζ^-2+ζ^-4+ζ^-8
w’=ζ^3+ζ^5+ζ^6+ζ^7+ζ^-3+ζ^-5+ζ^-6+ζ^-7
とおく.
x^16+x^15+・・・・+x+1=0
より,w+w’=−1,ww’=−4となるから,wはx^2+x−4=0の根. w=(√17−1)/2=1.56155
同様に,
z+z’=w,zz’=−1となるから,zはx^2−wx−1=0の根. z=(w+√(w^2+4))/2=(−1+√17+√(34−2√17))/4=2.04948
y+y’=z,yy’=ζ^3+ζ^5+ζ^-3+ζ^-5=z”,z”’=ζ^6+ζ^7+ζ^-6+ζ^-7とおくと,
z”+z”’=w’,z”z”’=−1
となるから,z”はx^2−w’x−1=0の根.
z”=(−1−√17+√(34+2√17))/4
yはx^2−yx+y”=0の根より,
y=2cos(2π/17)=1/8{−1+√17+√(34−2√17)+2√(17+3√17+√(170−26√17)−4√(34+2√17)}=1.86494
が得られる.
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この問いかけは結局ガウスの円分体の理論を「初等的に」説明せよということになるのかもしれません.一般的なn=2^m+1でなく,そのうちの特別な2^2^k+1に限る,さらにそのうちの素数のものに限るということは,
2^3+1=9=3・3,2^5+1=33=3・11
などが素数でないことから推察できます.だからもしも正33角形が作図できれば正11角形が作図できることになっておかしいという説明はできます.
枝葉の話ですが,t=x+1/xでうまくゆくのは結局cos(π/n),sin(π/n)が二重根号((10+2√5)^1/2など)で表されることに対応します.以下のようにいうとギリシャ数学史の専門家から叱られますが,ユークリッド原論第10巻は今日の我々の眼からみると二重根号量((a+√b)^1/2,(a−√b)^1/2)の扱いであり,それが(特に(10±2√5)^1/2が)第13巻で正十二面体,正二十面体の構成にうまく活用されています.
正17角形では3重根号数と4重根号数が必要になります.ある歴史家の話では,これは古代ギリシャの数学者の手に負えなかった話題(?)だろうということです.正5角形が(定規とコンパスで)作図できる,そしてその作図に黄金比と関連した二重根号で表される量が本質的に関わっているという事実の発見が古代ギリシャ数学のひとつの頂上であったように思います. (一松信)
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