(その3)では問題の解決法を探るべく,1辺の長さが1の正五角形に内接する最大の正方形の1辺の長さがいくらになるか考えてみましたが,問題をかえって難しくさせてしまった感があります.
実はそれより以前に,まず正方形にルーローの五角形(定幅図形)を内接させ,そのあとで正方形の外接円に対して空間を反転して五角形の中に四角形を作ってみたら・・・などと発想の転換を図ったこともあったのですが,この方法でも問題はますます混沌としてしまいました.今回のコラムでは(恥じかきついでに)失敗に終わった「反転」について紹介したいと思います.
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【1】反転(円円対応と等角変換)
ユークリッド平面の反転ではまず定点Oを中心とする半径rの定円を考えます.点Pに対して直線OP上に
OP・OQ=r^2
となる点Qをとる写像を円Oに対する反転といいます.
平面の反転によって円の内部の点は外部に移り,周上の点はその点自身に,外部の点は内部に移ることは明らかですが,
(1)点Oを通らない円は,Oを通らない円に移る
(2)点Oを通る円は,Oを通らない直線に移る
(3)点Oを通る直線は,それ自身に移る
直線および円は直線または円になるというわけですが,直線も半径が無限大の円と考えることができますから,反転の特徴は「円は円に変換される」ということができます.
空間の反転では円,直線をそれぞれ球面,平面に読みかえればよいので
(1)点Oを通らない球は,Oを通らない球に移る
(2)点Oを通る球は,Oを通らない平面に移る
(3)点Oを通る平面は,それ自身に移る
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反転のもう一つの特徴は2曲線のなす角を変化させない「等角写像」であるということです.反転操作は最も簡単な等角変換ですが,多くの等角写像があり,たとえば,球面上の定点Oから球面上の任意の点PをOを一端とする直径に垂直な平面に移す極投影も等角変換のひとつとなっています.
1次分数変換(メビウス変換)
w=f(z)=(az+b)/(cz+d)
は複素数球面上で考えると1つの回転に対応していて,たとえば,数zを
(z−1)/(z+1)
に置き換えるには,北極と南極が赤道のところにくるように球を90°回転させればよいのですが,この写像は等角写像になります.
等角変換は円は円に移り,直線も円へ移るという性質を併せもつというわけです.
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【2】反転の応用
接する円の族に関する定理では何百という美しい定理があるが,シュタイナー円鎖について述べておきたい.小円を大円の内部におき,この2つの円の中間に次々に接する円列を作る.たいていのばあい,最後の円は重なってしまい,この円列は互いに接する円環をなさない.しかしときとして完全な円環をなす場合がある.これがシュタイナー円鎖である.
最も簡単なものとしては,たとえば,半径が3と1の同心円に対しては6個の単位円よりなるシュタイナー円鎖が存在し,円の中心の軌跡は半径2の円となる(円の最密充填).
シュタイナー円鎖をなす円の中心の軌跡は楕円となる.アルキメデスのアルベロス(靴屋のナイフ)円列はシュタイナーの円鎖の特別な場合になっていて,円の中心はすべて基線上に長径をもつ楕円の上にのっている.
ソディー(アイソトープの発見でノーベル賞を受賞した英国の化学者)の6球連鎖はシュタイナー円鎖の3次元版であるが,シュタイナー円鎖の場合とは異なって,球連鎖は常に繋がり必ず6個の球からなる.そして6個の球の中心,球同士の接点はすべて同一平面上にあるのである.
反転によって,接する2円は接する2円か,円とその接線か,平行な2直線のいずれかにに移る.また,平面上の交わらない2つの円を同心円に移す写像が存在する.シュタイナーやソディーの定理はこれらの事実に基づいて証明されるのである.
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【3】五角形の穴をあけるドリルの場合
正方形にルーローの五角形(定幅図形)を内接させ,そのあとで正方形の外接円に対して平面を反転させてみましょう.正方形の辺は互いに直角に交差しますが,反転させても交角の大きさは変化しませんから,正方形の各辺は辺の中点を中心とする半円に変換され,花びらのような図形になるものと思われます.(その4)では円弧の厚みが足りなかったのですが,これでは円弧が厚すぎます.
また,ルーローの五角形(少し丸みをつけた五角形)は半円を4個繋げてできる花びらに外接する円弧を連ねた梅の花型の図形になります.正方形の外接円に対する反転ですから,ルーローの五角形は中心位置によって反転後の形が変化します.
以下にそれを図示したものを掲げます.
(1)反転前
(2)反転後
結局,梅の花もどきの穴をあけるドリルのヒントにはなったものの,五角形の穴をあけるドリルに対するヒントは何一つ得られませんでした.
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