■算術幾何平均の一般化
【1】一般化
xn=f(xn-1,yn-1)
yn=g(xn-1,yn-1)
を繰り返すとき,数列xn,ynが同じ極限M(x,y)に収束し,極限関数M(x,y)が具体的に定められるのはどのような場合でしょうか?
[1]収束性
答えを先にいうと,f,gが比較可能な平均という性質をもつとき,同じ値に収束することが証明されます.
(1)平均の定義
x<yならば,x<f(x,y)<y
λ>0ならば,f(λx,λy)=λf(x,y)
(2)比較可能関数の定義
2つの関数の間に不等式f(x,y)≦g(x,y)が成り立つ.
この意味でH,G,A,Eは平均の条件を満たし,不等式H<G<A<Eが成り立ちます.
[2]極限関数
極限関数M(x,y)は初期値(x0,y0)の如何に関わらず,
M(x,y)=M(x0,y0)
したがって
M(x,y)=M(f(x,y),g(x,y))
を満たします(不変性).
(例1)f=2xy/(x+y)=H,f=(x+y)/2=A
とおくと,x0y0=x1y2=・・・という不変性を示す.この極限関数は
M(x,y)=(xy)^(1/2)=G
に急速に収束する.→算術調和平均
(例2)f=G,g=Aならば極限M(a,b)は楕円積分
M(a,b)=1/(2/π∫(0,π/2)dφ/√{(acosφ)^2+(bsinφ)^2})
により表すことができる(ガウス).→算術幾何平均
ラグランジュ,ガウス,ルジャンドルは18世紀に算術幾何平均を熟知していたようです.ガウス・ルジャンドルの算術幾何平均法では,反復のたびに有効数字は2倍になりますから,数値計算アルゴリズムの強力な武器となりえます.
楕円積分の二重周期は算術幾何平均法を使って計算されます.実際,東京大学の金田康正氏のグループは楕円積分の計算と関係した算術幾何平均法を用いて円周率πの計算の世界記録を樹立しました.その計算量はO(nlogn)となり,計算能率はarctan(x)の展開公式O(n^2)よりも格段に優れています.円周率πの計算や巨大な素数の発見はコンピュータシステムの信頼性や処理速度といった性能をテストするのに最適ということです.
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【2】バリエーション
(1)2数a0,b0をとり,a1=(a0+b0)/2,b1=√a1b0=√b0(a0+b0)/2を計算する.次に,a2=(a1+b1)/2,b2=√a2b1とする.bnを計算するときan-1でなく最新のanを使っていることに注意されたい.
すると,anとbnは急速に同じ極限M(a,b)に到達する.このとき,極限関数はM(a,b)=
(b^2−a^2)^(1/2)/arccos(a/b) (0≦a<bのとき)
a (a=bのとき)
(a^2−b^2)^(1/2)/arccosh(a/b) (b<aのとき)
で与えられる(パッフ).
(2)0≦a0<b0なる2数a0,b0をとり,a1={a0(a0+b0)/2}^(1/2),b1={b0(a0+b0)/2}^(1/2)を計算する.これを繰り返すとanとbnは急速に同じ極限M(a,b)に到達する(カールソン).
M(a,b)={(b^2−a^2)/2log(a/b)}^(1/2)
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【3】調和幾何平均
「2数a0,b0をとり,それらの調和平均a1=2a0b0/(a0+b0),幾何平均b1=√a0b0を計算する.次に,a1,b1の算術平均と幾何平均を計算し,a2=2a1b1/(a1+b1),b2=√a1b1とする.すると,anとbnは急速に同じ極限H(a,b)に到達する.」
算術幾何平均と調和幾何平均は
H(a,b)M(a,b)=ab
という簡明な関係で結ばれている.
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