■レムニスケート積分(その4)
ガウスは1796年に
u=F(x)=∫(0,x)1/(1-t^3)^(1/2)f(t)dt
の逆関数,その翌年には
u=F(x)=∫(0,x)1/(1-t^4)^(1/2)f(t)dt
の逆関数について考察しています.
ω=∫(0,1)1/(1-t^4)^(1/2)f(t)dt
がレムニスケートの第1象限内の弧長ですから,レムニスケート曲線の全長は4ωになります.
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レムニスケート(連珠形)には円に共通する性質があり,定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=22^m+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることはよく知られている.ガウスはレムニスケートの等分問題から楕円関数を発見している.言い替えれば,方程式論には楕円関数論という背景があったのである.
しかし,この方程式を解くことは言うは易しいが,実行するにはかなり忍耐がいる.私も1回だけやってみたが結果はMathematicaなしには(私には)到達できなかったのも事実である.
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【1】ベルヌーイのレムニスケートのn等分点
ベルヌーイのレムニスケートの方程式は
(x^2+y^2)^2=x^2−y^2
である.
第1象限にある部分だけを考えることにして,この弧は原点O(0,0)を始点,P(1,0)を終点としてパラメータz(0≦z≦1)を用いれば,
x^2=1/2(z^2+z^4),y^2=1/2(z^2−z^4)
と表せる.
この線素は
ds=(dx^2+dy^2)^1/2=dz/(1−z^4)^1/2
で与えられ,倍角公式
z→2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)
はdsを2dsに変える.
2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)=1
と置くことによって
z^2=√2−1
が得られる.
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【2】反転公式
写像
z→{(1−z^2)/(1+z^2)}^1/2
によりOとPは移り合い,弧OPは自分自身に移り弧長OPは保存される.
Qを弧OP上の点とするとき,弧OQは等しい長さの弧QPに移される.
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【3】オイラーの加法定理
1751年,オイラーは逆正弦関数の加法定理
G(x)+G(y)=G(x(1−y^2)^1/2+y(1−x^2)^1/2)
との類似に基づいて,レムニスケート積分に対する加法定理
G(x)+G(y)=G((x(1−y^4)^1/2+y(1−x^4)^1/2))/(1+x^2y^2))
を構成することに成功しています.
とくに,y=1の場合,反転公式
z→{(1−z^2)/(1+z^2)}^1/2
y=xの場合,倍角公式
z→2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)
を与えるというわけです.
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【4】ファニャーノの変数変換=ランデン変換
f(t)=1/(1-t^2)^(1/2)
2u=2∫(0,x)f(t)dt
において,t=2v/(1+v^2)と置換すると
(1-t^2)^(1/2)=(1-v^2)/(1+v^2)
dt=2(1-v^2)dv/(1+v^2)^2
より
dt/(1-t^2)^(1/2)=2・dv/(1+v^2)
レムニスケート
f(t)=1/(1-t^4)^(1/2)
2u=2∫(0,x)f(t)dt
においても類似の置換に導かれて,t^2=2v^2/(1+v^4)と置換すると
(1-t^4)^(1/2)=(1-v^4)/(1+v^4)
2tdt=4v(1-v^4)dv/(1+v^4)^2
より
dt/(1-t^4)^(1/2)=√2・dv/(1+v^4)^(1/2)
さらに,v^2=2w^2/(1−w^4)と置換すると
(1+v^4)^(1/2)=(1+w^4)/(1-w^4)
2vdv=4w(1+w^4)dv/(1-w^4)^2
より
dv/(1+v^4)^(1/2)=√2・dw/(1-w^4)^(1/2)
これらの置換を行った結果,ファニャーノは
dt/(1-t^4)^(1/2)=2・dw/(1-w^4)^(1/2)
t^2=4w^2(1-w^4)/(1+w^4)^2
であることを見いだします.これに対応する積分間での関係がファニャーノの倍角公式
2∫(0,x)f(t)dt=∫(0,2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4))f(t)dt
というわけです.これらの公式は2つの曲線:t^2=1−z^4,w^2=1+u^4の間の次数2のランデン変換です.
ファニャーノはレムニスケート弧長の2等分を与える
dt/(1-t^4)^(1/2)=2・dw/(1-w^4)^(1/2)
t^2=4w^2(1-w^4)/(1+w^4)^2
を見いだしましたが,同時に複素数による楕円積分の例
dt/(1-t^4)^(1/2)=(1+i)・dw/(1-w^4)^(1/2)
t^2=2iw^2/(1-w^4)
sl((1+i)u)=(1+i)sl(u)/(1-sl^4(u))^1/2
も得ています.ηを1の8乗根η=(1+i)/√2として,uをηuで置き換えると曲線t^2=1−z^4上の1±iの虚数乗法の公式が得られます.
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