■球面上の最近接距離分布(その6)

 今回のコラムでは(その5)で遣り残したシュレーフリ関数の計算と応用を取り上げることにする.

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【1】シュレーフリ関数の計算

 シュレーフリ関数は二面角が直角の場合(超立方体の場合)を基準としています.二面角が直角の1次元基本単体を外接円に射影すると,外接円は4等分(=2^2)されます.二面角が直角の2次元単体を外接球に射影すると,外接球は8等分(=2^3)されますから,

  2^(-n)n!snFn(π/4)=2^(-n)sn

したがって,

  Fn(π/4)=1/n!

 正単体の場合,θ=π/3で,超球面は(n+1)胞により分割されますから

  2^(-n)n!snFn(π/3)=sn/(n+1)

より,

  Fn(π/3)=2^n/(n+1)!

となります.

 また,相補性を考慮すると

  2^(-n)n!snFn(θ)+2^(-n)n!snFn(π−θ)=sn

すなわち

  Fn(θ)+Fn(π−θ)=2^n/n!

ですから,θ=π/2を代入して

  Fn(π/2)=2^(n-1)/n!

であることがわかります.

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  F3(1/2arccos(1/3))=arccos(1/3)/π−1/3

それに対して,F4(θ)を解析的に求めることは難しいのですが,F4(1/2arccos(1/4))の場合,公式

  Fn+1(1/2arccos(1/n))=0

を用いて,

  F5(1/2arccos(1/4))=0

 また,

  F5(θ)=F4(θ)-1/3F2(θ)+2/15

より,

  F4(1/2arccos(1/4))=1/3(arccos(1/4)/π-2/5)

と計算されます.

 F4では,特殊値

  F4(1/2arccos(1/3))=0

  F4(π-1/2arccos(1/3))=2/3

  F4(1/2arccos(1/4))=1/3(arccos(1/4)/π-2/5)

  F4(π-1/2arccos(1/4))=1/3(12/5-arccos(1/4)/π)

の他にも,

  F4(π/5)=1/900,F4(2π/5)=191/900,F4(3π/5)=409/900,F4(4π/5)=599/900

  F4(π/4)=1/24,F4(π/2)=1/3,F4(3π/4)=5/8

  F4(π/3)=2/15,F4(2π/3)=8/15

が知られています.

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【2】シュレーフリ関数の応用

[1]kissing numberとシュレーフリ関数

 n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τnは,接吻数(kissing number)あるいは接触数(contact number)と呼ばれていて,最密充填構造「同じ半径の球をできるだけ稠密詰めるにはどうしたらよいか」という空間の球による充填問題と深い関連があります.

  τ1=2,τ2=6,τ3=12

 また,4次元以上の高次元では,8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決です.

  τ8=240,τ24=196560

 n次元球のkissing numberの上界は,コクセターの方法によって粗雑ながら押さえられますが,それは1球面上に大きさの等しい球帽(球面上の円,球面半径φ)を埋め込むときの最密充填の問題に帰着されます(球面上の最密円配置).

 (その5)で解説したように,n次元正単体(二面角2θ)の頂点を超球の中心において,(n−1)次元球面上に射影します.球面上には(n−1)次元球面正三角形ができ,その面積は

  Σ=2^(-n)n!snFn(θ)

で与えられます.これは正単体の1辺の球面距離2φの関数になります.

 また,σを球面正三角形の頂角の和とすると,球面上にはn個の点が配置され,(n−2)次元球帽が(n−1)次元球面を覆うことになります.そして,1つの頂角は(n−1)次元正単体を(n−2)次元球面上に射影したものに等しくなりますから

  σ=n2^(-n+1)(n−1)!Fn-1(θ)

 すなわち,上界は

  (p,3,・・・,3),θ=π/p

なる三角形面正多面体(単体的正多面体:n−1次元面が単体)の頂点に(n−2)次元球を配置する問題となるのですが,ここで,球面上にN(φ)個の点を配置した場合,不等式

  N(φ)≦σsn/Σ

が成り立ちますから,最終的に

  N(φ)≦2Fn-1(θ)/Fn(θ)

  sec2θ=sec2φ+n−2

を得ることができます.

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 kissing number(τn)に関しては,φ=π/6の場合を考えればよいので,  τn≦2Fn-1(1/2arcsecn)/Fn(1/2arcsecn)

となり,

  n=2 → 2F1(π/6)/F2(π/6)=6

  n=3 → 2F2(1/2arcsecn3)/F3(1/2arcsecn3)=6/(3-π/arcsec3)=13.39・・・(13)

  n=4 → 2F3(1/2arcsecn4)/F4(1/2arcsecn4)=5(1+1/(2-2π/arcsec4))=26.44・・・(26)

 5次元以上では,数値積分によらなければなりませんが,

  fn(x)=Fn(1/2arcsecx)

と書くことにすると,

  f2(x)=arcsecx/x

  fn(x)=1/π∫(n-1,x)fn-2(x-2)/x√(x^2-1)dx

     =fn(n)+1/π∫(n,x)fn-2(x-2)/x√(x^2-1)dx

  fn(x)=fn-1(x)-1/3fn-3(x)+2/15fn-5(x)-17/315fn-7(x)+62/2835fn-9(x)-・・・(n:odd)

  fn(x)=1/3fn-2(x)-2/15fn-4(x)+17/315fn-6(x)-62/2835fn-8(x)+・・・(n:even)

 リーチは台形則を用いて数値積分し,

  2fn-1(n)/fn(n)

を求めました.その結果,上界は

  2f3(4)/f4(4)=26.44・・・(26)

  2f4(5)/f5(5)=48.70・・・(48)

  2f5(6)/f6(6)=85.81・・・(85)

  2f6(7)/f7(7)=146.57・・・(146)

  2f7(8)/f8(8)=244.62・・・(244)

以下,(9)401,(10)648,(11)1035,(12)1637,・・・と続きます.

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[2]ニュートンの13球問題

 1つの10円玉を机の上において,それと触れ合うようにかつお互いに重ならないようにして,6個の10円玉を置くことができます.1次元の球は区間であり,接触数は1次元のとき2個,2次元のとき6個であることは自明であって,幼稚園児でも解くことができそうです.

 平面上で与えられるたいていの問題は,3次元あるいは高次元の空間で考察することができます.一般に,n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τn は接吻数(kissing number)あるいは接触数(contact number)と呼ばれていて,最密充填構造と深い関連があります.

 10円玉の例からわかるようにτ2=6ですが,n≧3のとき,τn はどうなるでしょうか? まず,3次元の場合,単位球のまわりに面心立方格子状に単位球を置いた場合の接触点

1/√2(±1,±1,0)

1/√2(±1,0,±1)

1/√2(0,±1,±1)

を考えてみると,これら12個の相異なる2点に対応するベクトルの内積は,−1,±1/2,0のいずれかであり,したがって,その間の角度(球面距離)は60度以上となりますから,これらの点で接するように12個の単位球を置くことができます.したがって,τ3≧12は直ちにわかります.

 実際,正20面体の12個の頂点に対して,そこで接するように12個の単位球を置くことができます.この場合,頂点間の角度は約63゜26′になり,12個の球は互いに接触しておりません.(単位球に内接する正20面体の稜の長さは

  (4-(cossec36)^2)^(1/2)=(2-2/√5)^(1/2)=1.0514・・・>1

となりこの配列にはまだ遊隙がある.)

 少しだけなら自由に動かせるという状況ですから,その隙間を一つに集めたらもう一個球が入るのではないでしょうか? ところが,これができるかできないかはあまり自明ではありません.机の上に置かれた10円玉が6個の同じ10円玉に接触することができるのは1つの配列に限られるからであって,12個の球は菱形12面体配列でも菱形台形12面体配列でも,また正20面体の頂点においても12個のほかの球と接触することができるので,3次元になるととたんに問題が難しくなってしまうのです.

 3次元の球の最大接触数τ3については,1694年にニュートンとグレゴリーの間で議論され,ニュートンは12を,グレゴリーは13を主張したといわれています.結局,ニュートンは12個が最大であるという証明ができず,グレゴリーも13個並べたわけではないので,「ニュートンの13球問題」と呼ばれるこの論争は引き和けに終わりました.

 1874年,ホッペが12個が最大であることという証明を試みましたが,不備があり,ようやく完全な証明がなされたのは1953年,ファン・デル・ヴェルデンとシュッテによってです.つまり,3次元空間内で1つの球には同時に12個の球しか接することができません.3次元のときは12個という解が得られこの古い論争に決着がつくまで非常に長い年月がかかったことになります.

 4次元の場合はどうなるでしょうか? 24個の面心立方格子状配置の接触点

1/√2(±1,±1,0,0)

1/√2(±1,0,±1,0)

1/√2(±1,0,0,±1)

1/√2(0,±1,±1,0)

1/√2(0,±1,0,±1)

1/√2(0,0,±1,±1)

で重ならないように置けるので,τ4≧24は明らかです.また,τ4≦25は示されていますが,現在でもτ4が24であるか25であるかは未解決です.

 n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τnの正確な値を決定する問題は大変難しく,4次元以上の高次元については,高度に対称的な格子状配置になっている8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決であり,現在,正確な値が知られているのは,

  τ1=2,τ2=6,τ3=12,τ8=240,τ24=196560

の5つだけなのです.

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[3]単体的密度限界とシュレーフリ関数

 単体的密度限界とは,稜の長さが2rのn次元正則単体の頂点に半径rの球を描いたときの充填密度dn,外接球Rを描いたときの単体における球の被覆密度Dnのことです.単体的密度限界が最密球充填の上界,最疎球被覆の下界となります.

 辺の長さが2の正単体の体積は

  V=√(1+n)/n!・2^(n/2)

外接球の半径は

  R=(2n/(n+1))^(1/2)

で与えられます.一方,外接球の半径が1である正単体の1辺の長さは

  R={2(1+n)/n}^(1/2)

その体積は

  V=√(1+n)/n!・{2(1+n)/n}^(n/2)

となります.

 これらのことから,

  Dn=(2n/(n+1))^(n/2)dn

の関係が成り立つことは容易に納得できるでしょう.したがって,n+1個の単位超球が辺の長さ

  √(2(n+1)/n)

の正単体を被覆するという状況では,

  Dn =(n+1)2^(-n)n!vnFn(θ)/V

    =n^(n/2)(n!)^2/2^n(n+1)^((n-1)/2)・vnFn(1/2arcsec(n)θ)

  dn=(2n/(n+1))^(-n/2)Dn

    =(n+1)^(1/2)(n!)^2/2^(3n/2)・vnFn(1/2arcsec(n)θ)

となります.

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 平面の場合は正三角形による平面充填が可能ですから,d2,D2が簡単に求められ

  d2=π/√12=0.9068・・・

  D2=2π/√27=1.209・・・

と計算できます.

 3次元空間の場合は,ロジャースによって

  d3=√18(arccos(1/3)−π/3)=0.7797・・・

  D3=9√3/2(arccos(1/3)−π/3)=1.431・・・

と計算されています.

 1958年,ロジャースは,四面体配置から空間充填率の上限を77.97%とはじき出しました.四面体配置は,3次元で相互に接するように球を配置するときの最大数となる配置ですが,全空間を充たすことはできないので,空間充填率の上限と考えられるわけです.

 ここで,arccos(1/3)が出現するのは,n次元正単体の二面角が

  cosδ=1/n

となることに基づいています.

 二面角が重要なのはn+1次元正多胞体(p1,p2,・・・,pn)が存在するための必要条件が

  δpn<2π

で表されるからです.これは3次元正多面体の場合,1点のまわりの角錐の角の和が4直角未満という条件の一般化にあたるわけです.

 正単体による空間充填形は,シュレーフリ記号を用いて,

  (p1,p2,・・・,pn)=(3,3,・・・,3,p)

   p=2π/δ=2π/arccos(1/n)

と書くことができるのですが,n=2以外のときにはδは4直角の整数分の1にはなりません.したがって,pも整数とはならないことが理解される(正三角形による平面充填形).3次元以上の正単体は空間充填形にはなり得ないのです.

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 一般のdn,Dn(n≧3)の計算にはシュレーフリ関数が必要となります.

  F3(1/2arccos(1/3))=arccos(1/3)/π−1/3

それに対して,

  F4(1/2arccos(1/4))

は難しいのですが,

  Fn+1(1/2arccos(1/n))=0

より,

  F5(1/2arccos(1/4))=0

また,

  F5(θ)=F4(θ)-1/3F2(θ)+2/15

より,

  F4(1/2arccos(1/4))=1/3(arccos(1/4)/π-2/5)

と計算されます.

 このように,シュレーフリ関数を用いると,

  d3=√18(arccos(1/3)−π/3)=0.7797・・・

  D3=9√3/2(arccos(1/3)−π/3)=1.431・・・

の計算が可能となりますし,4次元空間では,

  d4=3√5π(1/2arccos(1/4)−π/5)=0.647・・・

  D4=192/(5√5)π(1/2arccos(1/4)−π/5)=1.658・・・

となるのです.

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【3】漸近評価

[1]kissing numberの漸近評価

 kissing numberの漸近評価については

  1/b=sec2θ−n+1

とおくと,

  Fn(θ)〜√{(1+nb)/2}・1/(n!e^(1/b))・(2e/πnb)^(n/2)

したがって,

  N(φ)〜2^(1-n/2)√(πcos2φ)n^(3/2)/(e(sinφ)^(n-1))

 φ=π/6のとき

  τn 〜 2^((n-1)/2)n^(3/2)√π/e

となります.

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[2]単体的密度限界の漸近挙動

 2次元の最密格子状球充填,最疎格子状球被覆では,

  d2=Δ2π/√12,D2=Θ2=2π/√27

であるが,3次元では

  d3>Δ3=π/√18,D3<Θ3=5√5π/24

となっている.4次元でも

  d4>Δ4=π^2/16,D4<Θ4=2π^2/5√5

である.

 単体的密度限界が最密球充填の上界,最疎球被覆の下界となっているのだが,高次元での漸近挙動はどのようになるのだろうか?

 ミンコフスキーは,数の幾何学の理論を利用して,

  Δ≧ζ(n)/2^(n-1)

を得た.この下界は,

  Δ≧nζ(n)/{e(1−e^(-n))2^(n-1)}

で改善されるという.

 一方,上界は

  Δ≦dn≦1

により,単体的密度限界dnで押さえられるが,すべてのnに対して不等式

  dn<(n+2)/2・2^(-n/2)

が成り立つことが示されている.

 n→∞のときの漸近挙動としては,

  dn 〜(n+1)!e^(n/2-1)/√2Γ(1+n/2)(4n)^(n/2)

    〜n/e・2^(-n/2)

がある.この漸近公式によって,粗雑な(n+2)/2はn/eに改善されることになる.

 また,

  Dn={2n/(n+1)}^(n/2)dn

において,n→∞のとき,

  {2n/(n+1)}^(n/2)→e^(-1/2)2^(n/2)

より

  Dn 〜 n/e√e

となることわかる.

 なお,n次元の凸体(単体を含む)による最密空間充填に対しては,

  Σ(n,r)^2=(2n,n)

より,

  2/(2n,n)≦Δ≦2^n/(2n,n)

すなわち,

  2(n!)^2/(2n!)≦Δ≦2^n(n!)^2/(2n!)

となるが,その漸近挙動はスターリングの公式により,

  下界 〜 2√(πn)/4^n

  上界 〜 √(πn)/2^n

で与えられる.

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