半径1の半球を底面と平行な平面y=aで切って,体積を2等分するにはどこで切ればよいか−−−「まんじゅう等分問題」を解いてみよう.
y=f(x)>0のグラフをx軸を中心に回転させてできる回転体の体積は
V[y]=π∫y^2dx
で与えられる.y=(1-x^2)^(1/2)とおくと
V[y]=π∫(1-x^2)dx
したがって,
π∫(0,a)(1-x^2)dx=π(3a-a^3)/3
が球全体の1/4になればよい.
π∫(0,a)(1-x^2)dx=π(3a-a^3)/3=π/3
a^3-3a+1=0
a=0.3472963553=2cos10
ついでに,半球の表面積を2等分するにはどこで切ればよいかの解も求めておこう.y=f(x)>0のグラフをx軸を中心に回転させてできる曲面の面積は
S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx
で与えられるから,y=(1-x^2)^(1/2)とおくと
S[y]=2π∫(0,a)dx=2πa=0.5/2・4π
より
a=0.5=sin30
と求められる.
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【1】n次元単位超球の体積
ここでは,n次元単位超球の体積を2通りの方法で求めてみます.
[1]半径rのn次元超球の体積はVnr^n,一方,n次元超球の中心を通る超平面による切り口は(n−1)次元超球であり,その体積はVn-1r^(n-1)で表されます.
すなわち,n次元単位超球のxn=0での切り口の体積はvn-1,xn=tでの切り口の体積は
vn-1(1-t^2)^((n-1)/2)
となります.冒頭のまんじゅう等分問題に掲げたように,n=3ではそれぞれ,
v2=π,v[y]=π{(1-x^2)^(1/2)}^2
です.
これを-1≦t≦1で積分すればvnを求めることができます.
vn/vn-1=2∫(0,1)(1-t^2)^((n-1)/2)dt=B(1/2,(n+1)/2)
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[2]ガウス積分
I=∫(-∞,∞)exp(-x^2)dx=√π
をn次元に拡張し,
I=∫(-∞,∞)exp(-x1^2+x2^2+・・・+xn^2)dx1dx2・・・dxn
を考えると∫(-∞,∞)exp(-x^2)dx=π^(1/2)のn重積分より,直ちに
I=π^(n/2)
を得ることができます.
n次元ガウス積分を別の方法,すなわち,直交座標でなく極座標で求めてみましょう.ガウス積分の被積分関数を原点を中心とする半径rの球面上で積分し,次にr=0からr=∞まで積分すると,半径rの球面上で被積分関数は一定値exp(-r^2)をとり,表面積はnVnr^(n-1)ですから,
I=∫(0,∞)exp(-r^2)nVnr^(n-1)dr
=nVn∫(0,∞)r^(n-1)exp(-r^2)dr
z=r^2と変数変換するとdz=2rdrより
I=nVn/2∫(0,∞)z^(n/2-1)exp(-z)dz
=Vnn/2Γ(n/2) n/2Γ(n/2)=Γ(n/2+1)
=VnΓ(n/2+1)
したがって,
Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)
を得ることができます.
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【2】境界付近への測度集中
n次元単位超球の境界付近に幅δの球殻を設けて,ここに測度の80%が含まれるようなδを求めてみることにします.すなわち
P{x<Vn:1−δ≦r≦δ}=0.8
半径1と1−δの間の薄皮部分の体積は
vn(1-(1-δ)^n)
ですから,δは
vn(1-(1-δ)^n)=0.8vn
と解くと簡単に求めることができて
δ=1-0.2^(1/n)
n δ
2 .552786
3 .415196
4 .33126
5 .27522
6 .235275
7 .205403
8 .182235
9 .163749
10 .14866
20 .0773191
30 .0522342
40 .0394372
50 .0316762
60 .0264674
70 .0227296
80 .019917
90 .0177237
100 .0159655
この計算が示していることは,(直観に反して)nが大きいとき超球の体積Vnの大部分はその境界付近に集中するというものです.いわゆる薄皮まんじゅう状態なのですが,n=2,3などの場合から類推すると非常に奇妙に感じられます.
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【3】体積と表面積
球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をVnとすると,nが小さいとき,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)となることはご存知でしょう.n次元単位球はどんなに次元が高くても,長さが2より大きな線分を含むことはできません.
n次元単位超球の体積Vnとすると,半径rのn次元球の体積はVnr^n,表面積は球殻部分の極限値(δ→0)と考えられ
d/dr(vnr^n)=nVnr^(n-1)
となりますから,n次元単位超球の表面積を表面積Sn-1とすると,
Sn-1=nVn
n次元単位超球の体積Vnを求めてみると,
Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)
を得ることができます.また,Γ(m+1)=m!より,この結果は,形式的に
Vn=π^(n/2)/(n/2)!
と書くことができます.
Vn-1がわかれば,Vnは漸化式:
Vn/Vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)=B(1/2,(n+1)/2)
によって求めることができますが,この計算は面倒ですから,Vn-2との漸化式
Vn/Vn-2=2π/n
を用いると任意のnに対して
nが奇数であれば,Vn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!
nが偶数であれば,Vn=(2π)^(n/2)/n!!
とも書けることも理解されます.
係数はπ^mの有理数倍で,1次元から6次元までを具体的に書けば,
Vn=2,π,4π/3,π^2/2,8π^2/15,π^3/6
という具合に,πのべき乗は偶数次元になるたびに1つあがります.
そして,n→∞のとき,
Vn/Vn-2=2π/n→0
Sn-1/Sn-3=nVn/(n-2)Vn-2=2π/(n-2)→0
ですから,不思議なことに,単位球面の体積や表面積はn→∞のとき0に収束するのです.
しかもそれは直径を1辺とする超立方体と比べて無視できるほど小さくなります.n次元単位超立方体[-1,1]^n(体積2^n)において,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることも理解されます.高次元において,超立方体内に一様分布する標本を考えるとき,低次元の場合とは対照的に大部分のデータは超球外に位置することになります.
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nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,1次元から14次元までの具体的数字は次の通りです.
n Vn n Vn n Vn
1 2 6 5.168 11 1.884
2 3.142 7 4.725 12 1.335
3 4.189 8 4.059 13 0.911
4 4.934 9 3.299 14 0.599
5 5.264 10 2.550
このように,超球の体積はn=5のとき最大8π^2/15=5.2637・・・となり,以後は次元とともに急激に減少します.(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり,そのときの体積は5.277・・・である.)幾何学では5,6次元を境にして本質的に様子が変わっていることが少なくないのですが,このことはその原因の一端をほのめかしていると考えられます.
超球の体積はn=5のとき最大(8π^2/15)であり,それに対して表面積nvnが最大(16π^3/15)になるのはn=7のときです.どちらもnが大きくなると急激に0に近づきます.
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