■オイラー・マクローリンの和公式とトッド作用素(その8)

 ベルヌーイ数の母関数の変数xを微分作用素(∂/∂ξ)に置き換えた微分作用素

  Td(∂/∂ξ)=1+1/2(∂/∂ξ)+1/12(∂/∂ξ)^2+・・・

をトッド作用素という.

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【1】ヒルツェブルフのL種数とポントリャーギン類

 突飛な連想に思われるかも知れませんが,ここで,基本対称式におけるニュートンの公式・ジラールの公式について簡単に述べておきたいと思います.ニュートンの恒等式は,基本対称式とベキ和を結びつけているのですが,特性類の説明を見通しよく行うためにも必要になってくるのです.

 一般のn次方程式:

  f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=a0Π(x−αi)=0

の根と係数の関係は,

  α1+・・・+αn=−a1/a0

  α1α2+・・・+αn-1αn=a2/a0

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  α1α2α3・・・αn=(−1)^nan/a0

(ジラール)ですが,対称式の基本定理より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができます.たとえば,2変数の場合,

  α1^2+α2^2=(α1+α2)^2−2α1α2

  α1^3+α2^3=(α1+α2)^3−3(α1+α2)α1α2

  α1^2α2+α1α2^2=(α1+α2)α1α2

など.

 そこで,n変数対称式:

  sj=α1^j+α2^j+・・・+αn^j

を基本対称式:

  σ1=α1+・・・+αn

  σ2=α1α2+・・・+αn-1αn

  σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  σn=α1α2α3・・・αn

を用いて表してみることにしましょう.

 余分な変数tを導入して,

 f(t)=Π(1+tαi)=1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n

とおくと,

 f'(t)/f(t)=d/dtlogf(t)=Σαi/(1+tαi)=ΣΣ(-1)^kαi^(k+1)t^k

=Σ(-1)^ks(k+1)t^k

 ゆえに,

  f'(t)=f(t)Σ(-1)^ks(k+1)t^k

となり,

  σ1+2σ2t+・・・+nσnt^(n-1)

=(1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n)(s1−s2t+s3t^2−・・・)

 両辺の係数を比較することによって,順次

  s1=σ1

  s2=σ1s1−2σ2=σ1^2−2σ2

  s3=σ1s2−σ2s1+3σ3=σ1^3−3σ1σ2+3σ3

  s4=・・・=σ1^4−4σ1^2σ2+2σ2^2+4σ1σ3−4σ4

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  s(k+1)=σ1sk−σ2s(k-1)+・・・+(-1)^(k-1)σks1+(-1)^k(k+1)σ(k+1)=f(σ1,・・・,σ(k+1))

が得られます(ニュートンの公式).

 また,t=1とおくことにより,

  (-1)^ksk/k=Σ(-1)^(i1+・・・+ik)(i1+・・・+ik-1)!/i1!・・・ik!σ^i1・・・σ^ik   i1+2i2・・・+kik=k

が証明されます(ジラールの公式).

 ニュートンの恒等式から

  『α1,α2,・・・,αnの基本対称式は,累乗和:α1^j+α2^j+・・・+αn^jの有理数を係数とする整式で表される』

という結果が導き出されます.不思議なことに,何次の累乗和であっても方程式の係数を使って表せるのです.

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 母関数を考えるときには,収束するかどうかは問題にせず,多項式を考えるのですが,それを形式的ベキ級数と呼びます.ここでは,形式的ベキ級数の等式としてニュートンの恒等式を導き出したのですが,同様の方法,すなわち,αiを交点行列の固有値として,チャーン多項式

  f(t)=Π(1+tαi)=Σckt^k  (ckはチャーン類,c0=1)

を考えれば,チャーン標数は

  ch=n+Σsk/k!   (skはベキ乗和)

    =ch0+ch1+ch2+ch3+・・・

ただし,

  ch0=n

  ch1=c1

  ch2=1/2(c1^2−2c2)

  ch3=1/6(c1^3−3c1c2+3c3)

  ch4=1/24(c1^4−4c1^2c2+2c2^2+4c1c3−4c4)

  chn=chn(c1,・・・,cn)

とチャーン類で書き下すことができ,これがチャーン標数の定義となります.

(リーマン・ロッホの定理の一般形は,チャーン類とトッド類と呼ばれるものを使って書かれるが,ここでは,トッド類まで解説する余裕がない.トッド種数もチャーン類の有理係数多項式であり,

  td1=1/2c1

  td2=1/12(c1^2+c2)

  td3=1/24c1c2)

  td4=1/720(−c1^4+4c1^2c2+3c2^2+c1c3−c4)

で表される.)

 ポントリャーギン類については,

  f(t)=Π(1+tiαi)=Σpkt^k  (pkはポントリャーギン類,p0=1)

で定義され,

  1−p1+p2−・・・±pn=(1−c1+c2−・・・±cn)(1+c1+c2+・・・+cn)

より,チャーン類とは

  pk=ck^2−2ck-1ck+1+・・・+2c1c2k-1−2c2k

で関係しています.

 また,ベキ級数

  g(x)=√(x)/tanh√(x)

      =1+1/3x−1/45x^2+・・・+(-1)^(k-1)2^(2k)/(2k!)・Bk・x^k+・・・

として,Πg(x)がヒルツェブルフのL種数の母関数となっていますから,したがって,ヒルツェブルフのL種数は,

  L=Πg(x)=1+Σ(-1)^ksk

   =ΣLn=L0+L1+L2+L3+L4+・・・

 ポントリャーギン類を用いて書くと

  L0=1

  L1=1/3p1

  L2=1/45(7p2−p1^2)

  L3=1/945(62p3−13p2p1+2p1^3)

  L4=1/14157(381p4−71p3p1−19p2^2+22p2p1^2−3p1^4)

  Ln=Ln(p1,・・・,pn)

によって定義されます.

 多様体の符号数はポントリャーギン数の1次結合として表されることが示されていて,任意の多様体のL種数は整数ですから,ポントリャーギン数p1[M^4]は3で割り切れるし,7p2[M^8]−p1^2[M^8]は45で割り切れます.これを用いると,ヒルツェブルフのL多項式:Ln(p1,・・・,pn)におけるpnの係数が

  2^(2k)(2^(2k-1)−1)/(2k!)・Bk

になることが証明されます.

 こういうわけで,ヒルツェブルフの符号数定理と彼による一般化されたリーマン・ロッホの定理(リーマン・ロッホ・ヒルツェブルフの定理)の出現以来,トポロジストにとってベルヌーイ数とその数論的性質を知ることは大変有益なものになっているのです.

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