■スターリングの公式の図形的証明?(その52)

 スターリングの公式

  n! 〜 √(2πn)(n/e)^n

は面白い公式で,たとえば,

  n!/n^n 〜 √(2πn)/e^n

  1/n・2/n・・・(n−1)/n・n/n 〜 √(2πn)/e^n

として,全体のn乗根をとればk/nの相乗平均が大まかに1/eに近いことがわかるだろう.あるいは

  1/n・2/n・・・(n−1)/n・n/n≦1/2^n-1

より,k/nの相乗平均が大まかに1/2に近いといったほうがいいかもしれない.

 空間充填2^n+2n面体は図形的証明が奏効した例であり,その意味で「良近似多面体」であったが,2(2^n−1)面体は面数は増えたものの,近似度は低下してしまった.その理由について考えてみる.

===================================

[1]空間充填2^n+2n面体

 空間充填2^n+2n胞体の体積は

  Vn=1/2・(4/n)^n

 一方,辺の長さ1のn次元正軸体の体積は

  2^n/n!

であるから,Vnの正軸体比は

  1/2・2^nn!/n^n

となって,有理数倍であることがわかる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 正軸体と切頂正軸体の体積比較によって,不等式

  k!/k^k=1/k・2/k・・・(k−1)/k・k/k≦2(1/2)^k

正軸体の内接球と切頂正軸体の体積比較によって,近似式

  k!/k^k=1/k・2/k・・・(k−1)/k・k/k〜2(π/8)^k

が得られた.

 さらに,πe=8,539・・・より,

  k!/k^k=1/k・2/k・・・(k−1)/k・k/k〜2exp(−k)

が示される.

 すなわち,正軸体と切頂正軸体の体積比較によって,不等式

  n!/n^n≦2(1/2)^n

正軸体の内接球と切頂正軸体の体積比較によって

  n!/n^n≒2(π/8)^n

Wallisの公式を使って

  n!/n^n≒√(2n/π)(π/8)^n

が得られた.

 さらに,πe=8,539・・・より,

  (π/8)^n≒(1/e)^n

が示される.スターリングの公式には図形的近似が奏効するというわけである.図形的な方法では限界があるとはいえ,面白い結果と思う.

===================================

[2]空間充填2(2^n−1)面体

 規格化前(正単体の辺の長さ1)の置換多面体の体積は

  Vn =(n+1)^(n-1/2}/2^n/2・{2/n(n+1)}^n

    =(n+1)^(-1/2}2^n/2/n^n

であるから,Vnの正単体比は

  2^nn!/n^n(n+1)

となって,有理数倍であることがわかる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 球体による多面体近似の難しさについてはいろいろ解説されている.幸い,ここで考えるn次元空間充填2(2^n−1)面体の面数は2(2^n−1)と指数関数的,頂点数は(n+1)!と階乗関数的なので,球体と較べてもいい線をいっているのではないかと思われた.

 面数2(2^n−1)の空間充填多面体(置換多面体,頂点数(n+1)!)を使えばよりよい上界・下界評価が可能になるだろうと予想されたというわけである(ただし,計算はかなり面倒になるだろう).

 しかし,実際に起こったのはまったく逆で,2(2^n−1)面体は面数は増えたものの,近似度は低下してしまった.ここで,n!/n^nは[1][2]の両方に入っているから,その理由は[1]には立方体の性質が遺伝し,[2]には正単体の性質が遺伝しているからだと考えることができるだろう.

===================================