周期的とは平行対称性をもつもの,準周期的とは平行対称性がないもののうち,鏡映対称性あるいは回転対称性をもつもの,非周期的とは鏡映対称性も回転対称性ももたないものを指す用語です.
1993年に1種類の凸多面体の非周期的な仕方だけで空間全体を完全に埋めつくすことができる立体「二重プリズム」が英国の数学者コンウェイによって発見されました.
[参]デブリン「数学:パターンの科学」日経サイエンス社
の解説によりますと,この立体は4枚の合同な三角形と4枚の合同な平行四辺形からなっていて,2個の傾斜した三角プリズムをねじって接合したものとみなせるため「二重プリズム」と呼ばれています.
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【1】二重プリズムの木工製作
私がもっている二重プリズムに関する情報はこれだけしかないのですが,中川宏さんがこの乏しい情報をもとに考察を重ね,接合面が菱形となる三角プリズムを製作して下さりました.以下に,中川宏さん製作の木工模型を掲げます.
この多面体を用いて空間充填するには層ごとに組み立てます.各層は周期性をもっているのですが,第1層の上に第2層を乗せるときに常に一定の角度(2πの無理数倍)だけ回転させると垂直方向の非周期性が出現することになります.
すなわち,周期的となるための条件は菱形の頂角(tanθ)が有理数であることであること=非周期性をもつためには菱形の頂角は2πの無理数倍である必要があります.逆にいうと,菱形の頂角が2πの無理数倍であるとき,コンウェイの二重プリズムを周期的に積み上げることはできないということになります.このことより周期性空間分割は無数に考えられますが,非周期空間分割は周期性空間分割より圧倒的に多数を占めることになります.
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【2】双側3角柱
コンウェイの二重プリズムは4枚の合同な三角形と4枚の合同な平行四辺形からなっていますが,空間充填可能という性質を保持しながら引き伸ばしたりひねったりする変形を考えることができます.
うまく伸縮させると4枚の正三角形面と4枚の正方形面からなる「双側3角柱」と呼ばれる立体ができあがります.接合面の頂角はπ/2(2πの有理数倍)ですから,双側3角柱は周期的にも非周期的にも積み上げることができます.
双側3角柱は1×1×√3の直方体のブロックを二面角
正三角形面・正方形面間 150°
正方形面・正方形面間 60°
で切稜することによって作ることができます.
双側3角柱は面は正則ですからすべての辺の長さは等しくなりますが,頂点は等価(すべての頂点の周りが一定)ではないので準正多面体には含まれません.この多面体は正多角面体(ザルガラー多面体)の1種です.
ついでにいうと,ザルガラー多面体(すべての面が正多角形である凸多面体)は正多面体(プラトン体),準正多面体(アルキメデス体),角柱,反角柱を除くと92種類存在します.デルタ多面体やミラーの多面体もザルガラー多面体に含まれるのですが,ザルガラー多面体はジョンソン多面体という別名でも呼ばれているようです.→[6−4]参照
[参]関口次郎「多面体の数理とグラフィックス」牧野書店
によると,双側3角柱はN26に分類されています.
また,「ポリドロン」には辺の長さの等しい正3角形,正4角形,正5角形,正6角形のユニットがあります.92種類あるザルガラー多面体の面は正3角形,正4角形,正5角形,正6角形,正8角形,正10角形のいずれかなので,ポリドロンで多くのザルガラー多面体を構成することができます.
ポリドロンによる双側3角柱の模型を掲げますが,その構成では
佐藤耕太郎(小学5年生),佐藤一麦(小学3年生),佐藤千種(2才)
の協力を得ました.「ポリドロン」は東京書籍がその取り扱い店となっています.→連絡先:tel:03-5390-7513,fax:03-5390-7409(大山茂樹)
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【3】黄金菱形多面体による非周期的空間充填
3次元空間の非周期的充填では5種類の黄金平行多面体によるものが知られています.
ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,対角線の比が白銀比になっている菱形を12個組み合わせてできる菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.
黄金菱形平行6面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.
これらはコクセターにより,A6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられていて,それぞれ3次元から6次元までの立方体の投影の外殻になっています.すなわち,黄金平行多面体は5種類あり,黄金菱形をある方向に平行移動させたものがA6,O6であり,それをさらに平行移動させるとB12が,続いてF20が,最後にK30が生まれます.
したがって,A6とO6は3次元の,B12は4次元の,F20は5次元の,K30は6次元の立方体とそれぞれ同等になります.また,B12の中には2つずつのA6とO6が,F20の中にはひとつのB12と3つずつのA6とO6が(いいかえればF20の中には5つずつのA6とO6が),K30の中にはひとつのF20と5つずつのA6とO6が(いいかえればK30の中には10個ずつのA6とO6が)それぞれ入っていることになります.
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【4】非周期的な平面充填
平行移動の周期がない非周期的平面充填についても多くの研究がなされています.最初に発見された非周期的タイルの集合は20426個の原型から構成されているものでした(1966年).
その後,より少ない原型からなるものが発見され,現在のところ,1974年にイギリスの数理物理学者ペンローズの発見した2種類の菱形を組み合わせて平面を非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものです.ペンローズタイルと呼ばれるこの敷きつめかたは,正五角形のような5重の対称性がありますが,隙間を生じません.
2種類の黄金平行多面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができることは前述したとおりですが,この黄金平行多面体による充填図形の平面への投影はペンローズ・パターンと呼ばれる準周期性平面充填となります.すなわち,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.
一般にn次元平行多胞体は1種類(あるいは何種類か)でn次元空間を周期的に充填するのですが,それを3次元空間内や2次元平面上に平行投影して適当に隠線処理すると平行多面体や平行多角形による非周期的な充填図形が得られることになります.その際,正10角形を構成する2種類の菱形で構成される準周期性平面充填をペンローズ・パターンというのですが,それに対して,正8角形を構成する2種類の菱形(正方形を含む)で構成される準周期性平面充填はアンマン・パターンと呼ばれるタイル貼りになっています.
平面全体を一種類だけで非周期的に埋めつくすことのできる図形はまだ知られていません.したがって,非周期的なタイル張りに関しては3次元の場合(コンウェイの二重プリズム)のほうが2次元の場合(ペンローズ・タイル)を超えているといえるのです.
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【5】正多面体の拡張
5種類の正多面体を惑星に例えていうならば,小惑星か彗星の一群にあたる多面体があります.
[1]アルキメデス立体とその双対多面体
純正多面体はケプラーが発見した13種類あります.準正多面体の定義は人によっていろいろなのですが,アルキメデスの立体に,アルキメデスの正角柱(Archimedean prism:上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの),アルキメデスの反角柱(Archimedean antiprism:アルキメデスの正角柱を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたもの)を加えることもあります.しかし,各々無限個存在しますから,アルキメデスの立体からは通常除外されます.
元の立体の頂点の数と面の数を互いに入れ替えた立体を双対多面体といいます.正多面体の双対は正多面体ですが,アルキメデスの立体の双対はアルキメデス双対で,準正多面体とは異なる一群の立体となります.たとえば,菱形十二面体は,立方八面体の各面の中心をつないで余分なところを切り落とすと現れる双対多面体です.また,正角柱の双対は重角錐(dipyramid),反角柱の双対はねじれ重角錐(trapezo-hedron)となります.
[2]星形正多面体
5種類の正多面体のうちで,正12面体と正20面体にのみ星形正多面体にあたるものを構成することができます.そして,ケプラー(星形小12面体,星形大12面体)と約200年後のポアンソ(大12面体,大20面体)によって正多面体の星形化が4種類発見されています.またコーシーはそれらの4種類しかないことを証明しています.
オイラーの多面体定理より,凸多面体に対しては示性数:g=1−(f−e+v)/2は0となります.ところが,4種類の星形正多面体のうち,2種類はg=0ですが,残りの2種類はg=4になります.g=4はトポロジカルにいえば穴が4つあるドーナツと同一ですから,g=0のみを星形正多面体と呼ぶべきだとの主張もあります.
コーシーは星形正多面体を定める証明に変換群を用いています(1811年).
3次元空間の回転群の有限部分群は,コーシーが示したように
(1)巡回群Cn
(2)正二面体群D2n
(3)正多面体群,すなわち
a)正四面体群(4次交代群:A4)
b)正八面体群(4次対称群:S4)
c)正二十面体群(5次交代群:A5)
に限られます.すなわち,3種類の回転対称性:
正4面体群=A4(4個の要素からなる偶置換全体=交代群)
立方体(正8面体)群=S4(4個の要素からなる置換全体)
正12面体(正20面体)群=A5(5個の要素からなる偶置換全体)
の他に,正n角錐のもつ巡回群Cnと正n角柱のもつ二面体群Dnがあります.
星形正多面体はn=3のとき4種あり,3次元の9種の正多面体(凸型5種+星形4種)を,
(1)三角四角型(S4,A4):3種
(2)五角型(A5):6種
と分類することもできるでしょう.
なお,星形正多面体はn=4のとき10種ありますが,n≧5では存在しません.星形正多胞体は4次元で多彩となり,そこで突然終わりになる・・・5次元以上では3種類の標準正多胞体がすべてということになります.したがって,分類を高次元で行うと,
3次元空間 4次元空間 n次元空間(n≧5)
三角四角型 3種 4種 3種
五角型 6種 12種 0種
[3]一様多面体
準正多面体の拡張(星形化)として,一様多面体という概念があります.面が正則(正多角形・星形正多角形),頂点が等価(すべての頂点の周りが一定)である多面体ですが,凸という条件を除くと多くの図形を得ることができます.1954年,コクセターらはプラトン立体5種類,アルキメデス立体13種類,ケプラー・ポアンソの星形多面体4種類,それ以外の53種類を併せて75種類あると発表しました.20年あまり後に,スキリングがコンピュータを使うことによってその証明を与えました.
[4]ザルガラー多面体(正多角面体)
また,一様多面体とは別の方向の拡張になるのですが,1966年,ロシアの数学者ザルガラーは正多角面体(すべての面が正多角形である凸多面体)は正多面体,準正多面体を除くと92種類存在することを証明しました.これもコンピュータの手を借りることで解決されました.アメリカのジョンソンも独立にこの分類を完成させています.
92種類もあるザルガラー多面体を整理するには,分解可能性という考え方を取り入れると便利です.たとえば,正多面体のうちで分解不可能なものは正4面体,正6面体,正12面体の3種類です.正8面体は2つの正4面体の合成であり,正20面体は2つの正5角錐と正5角反柱の合成です.
[5]デルタ多面体(正三角面体)
すべての面が正三角形で構成されている立体を正三角面体といいます.正4面体,正8面体,正20面体も含めて,全部で8種類あります.面数の少ない順に並べると,4,6,8,10,12,14,16,20面体で,奇妙なことにデルタ18面体は存在しません.これらは,1942年にフロイデンタールによって決定されました.
[6]菱形多面体
ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.
なお,菱形平行6面体(菱面体)には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比1:1.618[=(√5+1)/2]の黄金六面体です.細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体,5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.
2種類の菱面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるのですが,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.
[7]平行多面体
平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,3次元格子から決まる本質的なボロノイ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体(平行6面体を含む),6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体),切頂8面体−−しかありません.
6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致しています.これら5種類の図形は5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないのですが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられます.
[8]複合正多面体
同じ正多面体を中心が重なるように合わせたもので,正4面体を2つ,屋根瓦状にあわせたケプラーの「星形8面体」は最も簡単なものです.このとき,頂点は立方体の頂点をなします.残りの4つは,以下のものになります.
正4面体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)
正4面体を10個あわせたもの(頂点は正12面体)
立方体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)
正8面体を5つあわせたもの(頂点は正20面体)
同じ大きさの正4面体2個による相貫体<ケプラーの8角星>はダビデの星の3次元版ですが,星形正多面体には加えません.
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