■「紋様の科学」(その2)

 カゴメ格子は正三角形と正六角形が互いに隣接した周期的な格子で,竹細工の篭の結び目にみられることからその名前が由来しています.カゴメ格子は,日本人が最も愛好した文様のひとつですが,ちなみにカゴメは世界でも通用する呼び名とのことです.

===================================

【1】非周期的格子

 周期的な平面充填に対して,平行移動の周期がない非周期的平面充填についても多くの研究がなされています.現在のところ,1974年に,イギリスの数理物理学者ペンローズの発見した2種類の菱形を組み合わせて平面を隙間なく,かつ,非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものです.ペンローズタイルと呼ばれるこの敷きつめかたは,局所的には正五角形のような5重の対称性がありますが,全体としては対称性をもちません.

 ペンローズタイルの2種類の菱形とは,太った菱形(72°,108°)とやせた菱形(36°,144°)です.最小の内角は36°であり,他の角はすべてその整数倍で,太めの菱形と細めの菱形の面積比は黄金比φになっています.また,1辺の長さを1とすると太めの菱形の対角線の長さはφ,細めの菱形の対角線の長さは1/φ,さらに,太めの菱形と細めの菱形の個数の比もφとなり,5回対称性のなかには黄金比

  φ=(√5+1)/2

が潜んでいます.

===================================

【2】ペンローズ格子

 ペンローズ格子の平均配位数は4,充填率は

  π(2−φ)/(φ+1)√(3−φ)=.3899

ときわめて小さいが,これは対角線の長さが1辺の長さよりも短いためである.ただし,この数値は小生が数表を用いずに手計算で求めた値であるから,信頼率は95%以下と思われる.

 また,近年ではここで紹介した菱形の非周期的タイルをペンローズタイル(マッケイのタイルと呼ばれることもある)と呼ぶのが普通であるが,ガイドナーが「サイエンティフィック・アメリカン」で紹介したペンローズタイルとは,魚の尻尾みたいな凹四角形と凧形(凸四角形)の2つの構成要素からなるものを指す.この2つは星形五角形とその頂点を結んだ外側正五角形に含まれる72°と108°の角の菱形を2分したものであって,2つの構成要素の面積比はφである.敷き詰めに必要なタイル比もφで,凸四角形の方を多く要する.この比が無理数であることが非周期性の基礎である.もしも周期性ならその比は明らかに有理数でなければならないからである.

 ペンローズタイルと同様にして,2種類の菱面体(太った菱面体とやせた菱面体)でともに合同な菱形面をもつものを用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができます.

 これら2種類の菱面体は,各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比の黄金六面体です.黄金菱面体には2種類あり,細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体,5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.

 また,やせた菱面体の辺は(72°,108°),太った菱面体の辺は(36°,144°)の角度で交わります.菱面体はゆがんだ立方体であり,6次元空間における超立方体の3次元空間への投影であるという説明がなされています.さらに,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性を2次元的に模似したものになっています.

===================================