今回のコラムでは,これまで取り上げたコラムの中からパズル的な要素を含む問題について数学的な注釈を添えて収録した.たとえば,魔方陣のパズルを2題掲げてあるが,魔方陣とはn^2個の整数を正方形に配列し,行和,列和,(対角線和)が等しくなるように並べたものである.
魔方陣の歴史は古く,中国では洛書と呼ばれ紀元前に知られていたようであるし,日本では江戸時代に関孝和をはじめ和算家が研究している.よく知られたパズルであるから誰しも試行錯誤したことがあるに違いない.
魔方陣は数学愛好家の興味をそそる単なるパズルだと思われがちだが,4次の魔方陣は有限射影平面と関係している.数論ではよくあるようにこの上なく単純な問題でもその奥には複雑な数学が広がっているのである.
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【Q1】球面上の2色問題
球面のちょうど50%を黒塗りする問題を考えます.赤道が与えられているならば北半球か南半球を黒く塗りつぶせばよいのですが,そのような塗り方ではなく,赤道の周りに幅2ωの帯を設けて,ここに表面積の50%が含まれるようなωを求めてみてください.すなわち
P{x<S2:−ω≦x≦ω}=P{x<S2:x^2≦ω^2}=0.5
ただし,赤道や両極,緯線は与えられているものとします.
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【A1】n=3の場合,S2は4π(表面積)ですが,y=f(x)>0のグラフをx軸を中心に回転させてできる曲面の面積は
S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx
で与えられますから,y=(1-x^2)^(1/2)とおくと
S[y]=2π∫(0,x)dx=2πx=0.5/2・4π
よりω=0.5と求められます.
sinθ=0.5
は緯度30°に相当しますから,表面積の50%となるためには北緯30°〜南緯30°の範囲を塗りつぶせばよいことがわかります.なお,S1は2π(円周)ですから,円周の50%となるためには
ω=sin(0.5/4・2π)=sin45°=1/√2
より北緯45°〜南緯45°の範囲を黒く塗りつぶします.
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この問題は高次元球面に一般化することができます.n>3は簡単には求められませんが,x=(x1,x2,・・・,xn)を単位球面Sn-1上で一様分布する点とすると,xn^2の分布はベータ分布Beta(1/2,(n-1)/2)となります.→[参]高次元のパラドックスとスターリングの公式(その3)
ベータ分布は不完全ベータ関数と密接に関係していて,その分布関数はガウスの超幾何関数2F1を使って以下のように表現されます.
F(x)=1/px^p2F1(p,1-q,p+1,x)/Β(p,q)
=1/px^p(1−x)^q2F1(p+q,1,p+1,x)/Β(p,q)
この式からわかるようにベータ分布は区間(0,1)で定義された分布で,(0,1)に制限されているため,ニュートン法などの反復解法を用いてパーセント点を求めるには不向きです.そこで,区間(0,∞)で定義されたF分布の上側確率との間には
Q(df1,df2,F)=Ix(df2/2,df1/2,x),x=df2/(df2+df1*F)
Ix(p,q)=∫(0,x)t^(p-1)(1-t)^(1-q)dt/B(p,q)
の関係のあることを使って,F分布に関する計算をしてからベータ分布関数に変換する方法でベータ分布のパーセント点を求めることにします.また,その方が初期値を求めるうえでもを便利です.
n ω
2 .707107
3 .5
4 .403973
5 .347296
6 .309073
7 .281128
8 .259573
9 .242303
10 .228067
20 .155824
30 .12583
40 .108378
50 .0966214
60 .0880126
70 .0813585
80 .0760163
90 .0716048
100 .0678818
この計算が示していることは,(直観に反して)大きいnに対してはSn-1のほとんどが赤道のかなり近くに位置しているというものです.nが大きいときωのオーダーはn^(-1/2)になります.
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【Q2】ミツウロコの問題(三角形はいくつある?)
口の字には四角形が1個ありますが,田の字には小さい四角形が4個と大きい四角形が1個で,合計5個の四角形があります.さらに,囲の字には小さい四角形が9個,中位の四角形が4個,大きい四角形が1個で,合計14個の四角形があります.
次数 1 2 3 4 5
□ □□ □□□ □□□□ □□□□□
□□ □□□ □□□□ □□□□□
□□□ □□□□ □□□□□
□□□□ □□□□□
□□□□□
さらに次数を増やすと,四角形の合計は
1→5→14→30→55→・・・
と増えていくのですが,この数列が
1^2+2^2+3^2+・・・+n^2=1/6n(n+1)(2n+1)
で表されることは容易に理解されるでしょう.
ところで,息子・耕太郎(当時,小学1年生)の宿題に,ミツウロコ文様
△
△▽△
が描かれていて,すべての三角形(下向きの三角形も含む)を数えると何個あるかという問題をみつけました.息子はミツウロコのことをトライフォースと呼んでおりました.4つの三角形という意味だと思われますが,多分,アニメ(漫画?)ではそう呼ばれていたのでしょう.ちなみに,息子の答えは,大きな三角形を数えもらしていたため,4個となっておりましたが,5個が正解です.
(問)△,▽を三角形状に積み上げて次数nのミツウロコ文様を作る.三角形はいくつ?
次数 1 2 3 4 5
△ △ △ △ △
△▽△ △▽△ △▽△ △▽△
△▽△▽△ △▽△▽△ △▽△▽△
△▽△▽△▽△ △▽△▽△▽△
△▽△▽△▽△▽△
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【A2】基本三角形の個数は
1+3+5+7+・・・+(2n−1)=n^2
ですが,基本三角形を積み重ねてできる大三角形のなかにあるすべての正三角形の総数はという問題ですから,求める数は
1→5→13→27→48→78→118→・・・
と増えていきます.
一般項はどのように表されるのでしょうか? この問題には難しいことは何一つ出てきませんが,口,田,囲の場合と同じように考えようとするとなかなか一筋縄ではいかない問題であることがわかります.
数え落としや重複など数え間違いのないように整理してから,階差をとるとその理由が見えてくるのですが,
1→5→13→27→48→78→118→・・・
第1階差 4→8 →14→21→30→40→・・・
第2階差 4 →6 →7 →9 →10→・・・
第3階差 2 →1 →2 →1 →・・・
第3階差では2と1が交互に繰り返しているので,この数列は1つの多項式で表せず,その答えも交互に2つの式で表されることになります.
この規則性を用いて,n=8の正三角形の総数を予想すると170と求められます.
1→5→13→27→48→78→118→170→・・・
第1階差 4→8 →14→21→30→40→52→・・・
第2階差 4 →6 →7 →9 →10→12→・・・
第3階差 2 →1 →2 →1 →2 →・・・
(答)
nが偶数のとき,1/8n(n+2)(2n+1)
nが奇数のとき,1/8{n(n+2)(2n+1)−1}
まとめると
1/8[n(n+2)(2n+1)+{(−1)^n−1}/2]
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【Q3】デューラーの魔方陣
デューラーは1471年に生まれ,1528年に没しています.透視図法の発展を促し,有名な版画作品「メランコリアI」は彼の透視図法に対する関心の高さを示しています.メランコリー(黒胆汁質)は初めはよくない気質と考えられていたのですが,ルネサンス時代には芸術家的な気質,創造力に繋がるものとされていたようです.
この版画には幾何学や建築に関係のあるいろいろな品物が描かれています.切頂菱面体(デューラーの八面体)はこの版画の中にある品物のひとつですが,その他に,4次の魔方陣
[16,03,02,13]
[05,11,10,08]
[09,06,07,12]
[04,15,14,01]
も描かれています.まさにメランコリーの寓意がこれらの品物に託されているというわけです.
ところで,この魔方陣の下の行の真ん中の2つは15と14になっていて,これが製作年の1514年を表していることはよく知られています.4次の魔方陣は一意ではなく,たとえば,
[12,13,01,08]
[06,03,15,10]
[07,02,14,11]
[09,16,04,05]
なども考えられます.
(問)1次の魔方陣はただひとつの升目に数字1を含む.2次の魔方陣は不可能である.3次の魔方陣はいくつかの並べ方が可能であるが,
[8,3,4]
[1,5,9]
[6,7,2]
のように本質的には中央の升目に5,4隅に偶数が配置されたものただひとつしかない.さて,4次の魔方陣を作るためのアルゴリズムを定めよ.
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【A3】n次の魔方陣,すなわち,1からn^2までの数を配置した魔方陣の定和は
n(n^2+1)/2
である.定和を手がかりにして,たとえば1から25までの数を5×5個の升目に書き込み,縦の列も横の列も対角線も足した数がすべて同じになるようにするだけなら,誰でも試行錯誤すれば解くことができる.しかし,升目の数が多くなると試行錯誤では時間がかかりすぎる.
数学者に限らず数学愛好家ならば,升目の数がどんなに増えてもこうすればすべての升目を埋めることができるという一般的方法とその根拠となる法則を見いだそうとするに違いない.
[参]内田伏一「魔方陣にみる数のしくみ」日本評論社
にしたがって,奇数次魔方陣の一般的な作り方を示すと
(1)たとえば,中央升の真下に1を置く
(2)右斜め下の升に順に数を配置していく
(3)枠外に飛び出す場合は平行移動した升に数を配置する
(4)既に数が配置されている場合は,その升の左斜め下に次の数を配置する
[11,24, 7,20, 3]
[ 4,12,25, 8,16]
[17, 5,13,21, 9]
[10,18, 1,14,22]
[23, 6,19, 2,15]
はこのようにして作った5次の魔方陣である.奇数次の魔方陣についてはこの方法で必ず魔方陣を作ることができる.
どの升目に1をおくことによっても始めることができるが,これからできる魔方陣は行和と列和が等しくなるが,対角線和は等しくはならない.最上部の中央の升目に1をおいて,斜め右上に進むと対角線和も等しくなる.
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(答)4次の魔方陣の場合,作り方はまったく異なっていて
(1)1〜16までを順に並べる
(2)4隅と中央の4升を動かさず,他の数を中心に対して対称の位置にある升目に移動させる
[ 1, 2, 3, 4] [ 1,15,14, 4]
[ 5, 6, 7, 8] → [12, 6, 7, 9]
[ 9,10,11,12] [ 8,10,11, 5]
[13,14,15,16] [13, 3, 2,16]
あるいは(同じことであるが)
(1)まず,2本の対角線を引く
(2)対角線の通る升目を残して,左上隅から数を順番に書き入れていく
(3)右下隅から順番に対角線の通る升目に数を書き入れていく
[××, 2, 3,××] [16, 2, 3,13]
[ 5,××,××, 8] → [ 5,11,10, 8]
[ 9,××,××,12] [ 9, 7, 6,12]
[××,14,15,××] [ 4,14,15, 1]
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偶数次の魔方陣の作り方としては,4の倍数の場合(4k:複偶数)と4で割り切れない場合(4k+2:単偶数)に分けられるのだが,一般的な4k次の魔方陣の作り方は
(1)1から16k^2までの数を順に並べる
(2)4k×4kの表を縦横に4等分し,16個のk×kの表に分割する
(3)この16個の小方陣について,4次の魔方陣を作ったときと同じ操作を加える
[ 1, 2,62,61,60,59, 7, 8]
[ 9,10,54,53,52,51,15,16]
[48,47,19,20,21,22,42,41]
[40,39,27,28,29,30,34,33]
[32,31,35,36,37,38,26,25]
[24,23,43,44,45,46,18,17]
[49,50,14,13,12,11,55,56]
[57,58, 6, 5, 4, 3,63,64]
はこのようにして作った8次魔方陣の例である.
また,オイラーの考案した8次魔方陣は,左上隅の1から出発して桂馬飛びですべての数をたどることができるという奇抜なものである.
[ 1,48,31,50,33,16,63,18]
[30,51,46, 3,62,19,14,35]
[47, 2,49,32,15,34,17,64]
[52,29, 4,45,20,61,36,13]
[ 5,44,25,56, 9,40,21,60]
[28,53, 8,41,24,57,12,37]
[43, 6,55,26,39,10,59,22]
[54,27,42, 7,58,23,38,11]
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4k+2次の魔方陣は,4k次の魔方陣を作ってからその周りを作るのであるが,たとえば6次の魔方陣の場合,
(1)1から36までの数の中から中央にある11から26までを使って4次の魔方陣(すなわち,先に作った4次の魔方陣の各成分に10加えたもの)を作る
(2)その外周に,上辺,下辺,左辺,右辺の6数の和が111となり,4隅に関しては中心に関して点対称の位置にある2数の和が37,上下または左右に向き合った2数の和が37となるように数を配置する
[ 5,28,36,35, 3, 4]
[31,11,25,24,14, 6]
[ 7,22,16,17,19,30]
[ 8,18,20,21,15,29]
[27,23,13,12,26,10]
[33, 9, 1, 2,34,32]
これを一般化すると,n=4k+2の場合
(1)1〜n^2=(4k+2)^2までの数の中から中央にある2n−1=8k+3からn^2−2n+2=16k^2+8k+2までを使って4k次の魔方陣を作る
(2)その外周に,上辺,下辺,左辺,右辺の6数の和がn(n^2+1)/2となり,4隅に関しては中心に関して点対称の位置にある2数の和がn^2+1,上下または左右に向き合った2数の和がn^2+1となるように数を配置する
この作り方は1683年,和算家の関孝和が発表したものとのことであり,
[参]内田伏一「魔方陣にみる数のしくみ」日本評論社
にはk=1,2,3すなわちn=6次,10次,14次の魔方陣が紹介されている.
ちなみに,合同変換に対して移り合うものを同じものとみなすと3次の魔方陣は1個,4次の魔方陣は880個,5次の魔方陣は約2.75×10^8個,6次の魔方陣は約1.77×10^19個あることが知られている.それにしてもこんなに多くの組合せ方があるとは驚きである.
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【Q4】オイラーの36人の士官問題(グレコ・ラテン方陣の存在・非存在)
魔方陣に関連してもう1題.1779年,オイラーは行列の性質を研究するために36人の士官問題を考案した.n行n列の正方形の升目に文字を配列し,各行各列に文字の重複がないものをn次ラテン方陣という.
[a,b,c] [a,b,c]
[b,c,a] [c,a,b]
[c,a,b] [b,c,a]
は3次のラテン方陣であるが,縦も横も同じ文字が重複なく1回ずつしかでてこない.ラテン方陣を作るには,最初の行をa,b,cとして一行下がるごとに左に(あるいは右に)ひとつずつ巡回置換させればよい.
ラテン方陣では属性はひとつであったが,次に属性を1つ増やして2つの属性を有する対象を升目状に並べた配列を考える.同じ組が現れずすべて異なる配列が「グレコ・ラテン方陣」である.グレコ・ラテン方陣はオイラーにちなんで「オイラー方陣」とも呼ばれる.
[a,b,c] [α,β,γ] [aα,bβ,cγ]
[b,c,a]+[γ,α,β]=[bγ,cα,aβ]
[c,a,b] [β,γ,α] [cβ,aγ,bα]
は3次の左巡回ラテン方陣と右巡回ラテン方陣を組み合わせて,グレコ・ラテン方陣にしたものである.このように,合併してグレコ・ラテン方陣になる2つのラテン方陣を(比喩的に)直交するという.
[1,2,3] [1,2,3] [11,22,33]
[3,1,2]+[2,3,1]=[32,13,21]
[2,3,1] [3,1,2] [23,31,12]
は3次のラテン方陣を組み合わせて,グレコ・ラテン方陣にしたものである.
(問)すべてのnに対してグレコ・ラテン方陣は存在するのか? また,そうでないとしたらどのようなnに対してグレコ・ラテン方陣は存在するのだろうか?
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【A4】答えを先にいうと,グレコ・ラテン方陣はnが奇数のときと4の倍数のときに可能である.1782年,オイラーはnが2の奇数倍のときグレコ・ラテン方陣は不可能と予想したのだが,この予想は誤りであって,n=2と6の場合だけが不可能なのである.詳しく見ていくことにしよう.
p次のグレコ・ラテン方陣とq次のグレコ・ラテン方陣があれば,p×q次のグレコ・ラテン方陣を作ることができます.また,グレコ・ラテン方陣はnが奇数のときと4の倍数のときに可能であることがわかっていて,
n=2^q×l,lは奇数,q≧2
とすると,lは奇数ですからl次のグレコ・ラテン方陣は存在します.2^q個の元からなる体は存在し,したがって,2^q次のアフィン平面も存在するので,2^q次のグレコ・ラテン方陣は存在しますから,2^q×l次のグレコ・ラテン方陣も可能であることがわかります.
結局,q=1の場合,すなわち,
n=2×l=2(2k+1)=4k+2
の場合だけが残ります.
1782年,オイラーはn=4k+2(2の奇数倍)のときグレコ・ラテン方陣は不可能と予想し,そして1903年にタリーがk=1すなわちn=6の場合があることをしらみつぶしの方法によって証明しました.
その後,1959年になって,ボーズ,シュリカンデ,パーカーによって,nが22や14のときに可能なことがわかると,せきをきったように一般的な作り方がわかっていき,最も困難だったn=18の場合も攻略され,1年ほどでn≧10であるn=4k+2という形の数すべてについて,互いに直交するラテン方陣が存在することが判明しました.177年にわたる難問の解決は当時の世界に大きな衝撃を与え,New York Timesのトップ記事として報道されたのですが,数学に関する取り扱いとしては空前絶後のものでした.
たとえば,10次のグレコ・ラテン方陣
[00,47,18,76,29,93,85,34,61,52]
[86,11,57,28,70,39,94,45,02,63]
[95,80,22,67,38,71,49,56,13,04]
[59,96,81,33,07,48,72,60,24,15]
[73,69,90,82,44,17,58,01,35,26]
[68,74,09,91,83,55,27,12,46,30]
[37,08,75,19,92,84,66,23,50,41]
[14,25,36,40,51,62,02,77,88,99]
[21,32,43,54,65,06,10,89,97,78]
[42,53,64,05,16,20,31,98,79,87]
では,1≦(i,j)≦7の場合と8≦(i,j)≦10の場合で作り方が違っていて,10=3+7=3+(1+2×3)と分解することによって,2個の直交するラテン方陣を作り出しています.
こうして,オイラーの予想は覆され,n=2と6の場合だけグレコ・ラテン方陣が不可能であることが判明したのでした.
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6次の魔方陣は存在し,
[00,01,02,33,34,35]
[30,31,14,03,22,05]
[29,28,27,08,07,06]
[11,10,09,26,25,24]
[23,19,21,20,04,18]
[12,16,32,15,13,17]
は和算家・久留島義太の手作りとされるものである.
この6進数版は
[00,01,02,53,54,55]
[50,51,22,03,34,05]
[45,44,43,12,11,10]
[15,14,13,42,41,40]
[35,31,33,32,04,30]
[20,24,54,23,21,25]
であるが,グレコ・ラテン方陣にならないことはすぐにみてとれる.
このように,6次のラテン方陣は存在するのに対して,6次のグレコ・ラテン方陣は不可能であることが証明されている.その証明はタリー(1903年)によってなされたが,全数を列挙して調べつくすというものであった.
端的にいって「あらゆる可能性を調べて不可能であることを示す」のはとても厄介な話である.「やってみてできなかった」という証明は組織的に完全に実行すれば立派な証明になるのであるが,オイラーの士官36人の問題は実際にそういう証明しかない数学の問題となっている.いまだ一般的・理論的な証明はなく,不可能性の証明は根気のいるしらみつぶしによる方法しかないのである.奇妙なことに,3つの属性についての3次元オイラー立方体は可能なことがわかっている(1977年).
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【Q5】リュカの「ハノイの塔」
19世紀の数学者リュカの考案したゲームに「ハノイの塔」があります.ハノイの塔とは3本の柱A,B,Cがあり,柱Aにある何枚かの円盤を1枚ずつ柱Bを中継点にして柱Cに移動させるものです.ただし,どの柱でも上の円盤の方が小さくなければなりません.
(問)64枚の円盤があるとき,移し替えが完了するには何回移動しなければならないのか?
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【A5】円盤が3枚であるとします.Aにある3枚をBに移すにはCを中継点にしてBに移動させる.このためには上の2枚をCに移し,3枚目をBにもってきた後,Cの2枚をBに移動させる.次に円盤が4枚であるとします.上の三枚がくっついているとして,この3枚をBに移し,一番下の円盤をCにもってきて,Bの3枚をCに移せばよい.
このような再帰的な方法を用いれば円盤が何枚あってもAからCに移動させることができるのですが,n枚の円盤を移動させるのに必要な最小回数をanと書くことにすれば,漸化式
an=2an-1+1
で表せることがわかります.いま述べたn−1枚がくっついているとして・・・という考え方を小学5年生の息子に説明したところ,彼にも意味が理解できた様子でありました.
anの具体的な値は
an+1=2(an-1+1)
an-1+1=2(an-2+1)
・・・・・・・・・・・・・
a2+1=2(a1+1)
より,容易に
an=2^n−1
で与えられることがわかりますが,こうして円盤が3枚のとき→4枚のとき→n枚のときに一般化することができます.(形は似ていますが,柱が3本のとき→4本のとき→n本のときに一般化するのはもっと難しい問題になります.)
(答)64枚の円盤があるとき,2^64−1回の移動をしなければならない.1秒に1回移動をさせるにしても完了までには5820億年かかることになる.
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【補】リュカとフィボナッチ数列
初項1,第2項1から始まり,隣り合う2項の和が次の項となる数列
1,1,2,3,5,8,・・・
をフィボナッチ数列とよびます.その一般項Fn は
Fn=Fn-1+Fn-2
です.この数列にフィボナッチ(13世紀のイタリアの数学者でピサのレオナルドとしても知られる)の名を冠したのはフランスの数学者リュカで,ハノイの塔の名で知られる2進法のパズルも1883年にリュカによって考案されたものです.
初項2,第2項1のフィボナッチ数列
2,1,3,4,7,11,18,・・・
は彼にちなんでリュカ数列と呼ばれています(1877年).
Ln=Ln-1+Ln-2
リュカはフィボナッチ数列,リュカ数列を用いてメルセンヌ数(2^n−1)が素数であるかどうかを判定し,(2^127−1)が素数であることを示しています(1876年).この数は12番目のメルセンヌ素数で,1952年の13番目(2^521−1)からはコンピュータによる発見ですから,コンピュータを使わずに見つけられた最大のメルセンヌ素数になっていて,わかっている最大の素数として最長不倒記録を保ち続けました.
フィボナッチ数列やリュカ数列の一般項は,3項漸化式:
Fn=Fn-1+Fn-2
Ln=Ln-1+Ln-2
の特性方程式
x^2−x−1=0
の2つの解より,連続する2項の比は黄金比
φ=(1+√5)/2=1.618034・・・
に次第に近づくことになります.
黄金長方形から正方形を取り除くと一回り小さな黄金長方形が現れてきます.このことを繰り返し行えば対数らせんが現れますが,この曲線は自然界ではオーム貝などの形にみられ,自己相似的な成長過程を表す理想的な曲線とされています.サイクロイドの伸開線はそれと合同なサイクロイドですが,対数らせんの伸開線もそれと合同な対数らせんになります.
今度は逆に1辺の長さがフィボナッチ数列の正方形をらせん状に加えていきます.最初の2つの正方形は1辺の長さが1で,そこに1辺の長さが2の正方形,引き続いて1辺の長さが3,5,8,13,21,・・・.すると,優美な対数らせんが現れてきますが,このらせんはほぼ黄金比で外に広がることになります.
さらに,1つの項の和がその前の3つの項の和になっている
Tn=Tn-1+Tn-2+Tn-3
で定義される数列
1,1,1,3,5,9,17,・・・
は,フィボナッチ数列の拡張とみなせるので,フィボナッチ(Fibonacci)をもじってトリボナッチ(Tribonacci)数列と呼ばれます.
トリボナッチ数列でも連続する2項の比はある決まった値
1/3{3√(19+3√33)+3√(19−3√33)+1}=1.839・・・
に収束します.これは
x^3−x^2−x−1=0
の実根です.
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フィボナッチ数列では正方形をらせん状に並べましたが,次に正三角形をらせん状に並べてみましょう.最初の3つの正三角形は1辺の長さを1,次の2つは1辺の長さが2で,そのあとは3,4,5,7,9,12,16,21,・・・.このようにしてもおおよそ対数らせんを描きます.
数列
1,1,1,2,2,3,4,5,7,9,12,16,21,・・・
は直前の1項を除いたその前の2項を加えたものです.パドヴァンの数列と呼ぶことにしますが,漸化式は
Pn=Pn-2+Pn-3 (P0=P1=P2=1)
で表されます.
その特性方程式
x^3−x−1=0
の唯一の実数解より,パドヴァン数列の連続する2項の比は
p=1/3{3√(27/2−3√69/2)+3√(1/2+√69/18)}=1.324718・・・
に次第に近づくことになります.pがφよりも小さいことより,パドヴァン数列はフィボナッチ数列に較べてゆっくりと増加することになります.
p^5−p^3−p^2=0
p^4−p^2−p^1=0
より
p^5−p^4−p^3−p^1=p^5−p^4−1
ですから,3次方程式p^3−p−1=0の解はこの5次方程式も満たすことがわかります.あるいは,因数分解
p^5−p^4−1=(p^3−p−1)(p^2−p+1)
でもよいのですが,このことから
Pn=Pn-1+Pn-5
の関係が成り立つこともわかります.
リュカはパドヴァン数列と同じ生成規則に従い,最初の項の値が異なるものを考案しました(1876年).
An=An-2+An-3 (A0=3,A1=0,A2=2)
3,0,2,3,2,5,5,7,10,12,17,22,29,・・・
この数列は現在ではペラン数列と呼ばれるものです.この数列の項比もpに近づきますが,さらに深遠な性質「nが素数のときAnはnで割り切れる」をもっています.しかし,逆命題「Anがnで割り切れるときnは素数である」は必ずしも成り立たないことが知られています.
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1^2+2^2+3^2+・・・+24^2=24(24+1)(2・24+1)/6=70^2
級数の公式:Σk^2=n(n+1)(2n+1)/6をご存じの方も多いでしょうが,1からnまでの平方の和が平方数となるのはnが1か24の場合しかありません.
25平方の等式ともいうべきこの等式はリュカの問題(1873年)として知られています.y^2=x(x+1)(2x+1)/6の唯一自明でない整数解は(24,70)で,それ以外の自明な解がないことは楕円関数やペル方程式を使って証明されています.
この等式は辺の長さが相続く整数列1,2,・・・,24の正方形を1辺の長さ70の正方形の中に詰め込める可能性があることを示唆しています.それでは,実際に,70×70の正方形を辺が1から24の相続く正方形によって埋めつくすことができるでしょうか.この問題の答えは否定的(不可能)です.1辺の長さ7の正方形を除くすべての正方形は詰め込めるのですが・・・.
それならば,無駄な空間の割合を最小にして,辺の長さが1,2,・・・,nの正方形を全て詰め込むことができる最小の正方形の辺の長さはいくつでしょうか.また,相続く整数辺の正方形を使って長方形を充填できるでしょうか.
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