■因数分解の算法(その11)

 (その9)(その10)では,算術平均A(a^n)と幾何平均G(a^n)についてのフルヴィッツ・ムーアヘッドの等式

  n{A(a^n)−G(a^n)}

 =1/2(n−1)!{Σ(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)+Σ(a1^(n-2)−a2^(n-2))(a1−a2)a3+Σ(a1^(n-3)−a2^(n-3))(a1−a2)a3a4+・・・}

を紹介した.右辺はa1,a2,・・・,anを置換して得られる値の総和である.

 また,このことから算術平均と幾何平均の大小関係についての有名な不等式

  A(a^n)≧G(a^n)

の別証明が得られる.

  Σ(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)+Σ(a1^(n-2)−a2^(n-2))(a1−a2)a3+Σ(a1^(n-3)−a2^(n-3))(a1−a2)a3a4+・・・

 =ΣP1(a1−a2)^2+ΣP2(a1−a2)^2+ΣP3(a1−a2)^2+・・・

 =Σ(P1+P2+P3+・・・)(a1−a2)^2

 =ΣP0(a1−a2)^2≧0

 このように2次式の和の形ΣkP^2が出現するのだが,さらに,

  a1=x1^2,a2=x2^2,・・・

とおくと,

  (a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)

 =(x1^2(n-1)−x2^2(n-1))(x1^2−x2^2)

 =(x1^2−x2^2)^2(x1^2(n-2)+x1^2(n-3)x2^2+・・・+x2^2(n-2))

となり,各項が(x1^2−x2^2)x1^(n-2)の平方の形の多項式となっていることがわかる.このことから,多項式P1,P2,・・・それ自体も平方の和となることが理解される.

 (その9)(その10)では,有名な不等式(←無名な等式)

  (1)算術平均と幾何平均の不等式(←フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式)

を紹介したが,今回のコラムではそれと同等に有名な不等式(←無名な等式)

  (2)コーシー・シュワルツの不等式(←ラグランジュの等式)

について紹介する.そこにも2次式の和の形ΣkP^2が出現するのである.さらに

  (3)オイラーの分数式恒等式

も取り上げてみたい.

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【1】ヒルベルトの定理

 フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式により,

  a1^n+a2^n+・・・+an^n−na1a2・・・an

を各項が非負値の和として表すことができることがわかっているが,特に2n次のとき,

  F=x1^2n+x2^2n+・・・+x2n^2n−2nx1x2・・・x2n

   =x1^2n+・・・+xn^2n−nx1^2・・・xn^2

   +xn+1^2n+・・・+x2n^2n−nxn+1^2・・・x2n^2

   +n(x1・・・xn−xn+1・・・x2n)^2

より,

  F=ΣPi^2

を示すことができる.

 この定理は,

  a^4+b^4+c^4+d^4-4abcd

  a^6+b^6+c^6+d^6+e^6+f^6-6abcdef

が多項式の平方の和となることを保証するものである.たとえば,

  x^4+y^4+z^4+w^4−4xyzw

 =(x^2−y^2)^2+(z^2−w^2)^2+2(xy−zw)^2

は3個の多項式の平方の和である.

 また,

  x^6+y^6+z^6+u^6+v^6+w^6−6xyzuvw

 =1/2(x^2+y^2+z^2){(y^2−z^2)^2+(z^2−x^2)^2+(x^2−y^2)^2}+1/2(u^2+v^2+w^2){(v^2−w^2)^2+(w^2−u^2)^2+(u^2−v^2)^2}+3(xyz−uvw)^2

は19個の多項式の平方の和である.

  a^4+b^4+c^4+d^4-4abcd

 =P1(a-b)^2+P2(a-c)^2+P3(a-d)^2+P4(b-c)^2+P5(b-d)^2+P6(c-d)^2

であることは保証してないのであるが,abcdの項が出現するためには(ab-cd)または(ac-bd)の平方の項が出現しなければないのだろうか?

 ところで,この定理では,2n変数の2n次正定値形式

  F=n{A(a^2n)−G(a^2n)}

がいくつかの多項式Piを用いて

  F=ΣPi^2

と表されることをみたが,それでは2n変数の2n次正定値形式Fはすべてこのように表されるのだろうか?

 すなわち,次なる問題はどのようなFがいくつかの多項式Piを用いて

  F=ΣPi^2

と表されるかという問題である.

 この問題はヒルベルトによって完全に解決されていて,Fの次数を2nとし,変数の数をmとした場合,

  (1)m=2,nは任意

  (2)mは任意,2n=2

  (3)m=3,2n=4

は実数係数2次形式の和で表されるが,これ以外のものについては表されないものが存在するという結論である.

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【2】ラグランジュの恒等式

 (2)は任意の2次形式は2次形式であるという当たり前のことをいっているに過ぎないと思われるかもしれないが,この節ではmは任意,2n=4の具体的な例として「ラグランジュの恒等式」を挙げてみたい.

  F=(a1^2+a2^2+・・・+an^2)(b1^2+b2^2+・・・+bn^2)−(a1b1+a2b2+・・・+anbn)^2

   =(a1b2−a2b1)^2+(a1b3−a3b1)^2+・・・+(a1bn−anb1)^2

   +(a2b3−a3b2)^2+・・・+(a2bn−anb2)^2

   +・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   +(an-1bn−anbn-1)^2

すなわち

  (Σai^2)(Σbi^2)−(Σaibi)^2=1/2Σ(aibj−ajbi)^2 あるいは(i<j)として

  (Σai^2)(Σbi^2)−(Σaibi)^2=Σ(aibj−ajbi)^2

右辺はn^2個あるいはn(n−1)/2個の多項式の平方の和である.

 コーシー・シュワルツの不等式

  (Σai^2)(Σbi^2)≧(Σaibi)^2

はラグランジュの恒等式から自明であろう.この有名な不等式は角の余弦値は1以下であることの幾何学的表現と解釈することができる.したがって,等号はベクトルが(同じ向きか反対向きで)平行であるとき,すなわち

  a1/b1=a2/b2=・・・=an/bn

のときに限られる.

 なお,各々の和に対応する平均値に置き換えてもコーシー・シュワルツの不等式は成り立つ.

  (1/nΣai^2)(1/nΣbi^2)≧(1/nΣaibi)^2

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【3】オイラーの恒等式

 高校数学では,分数式の計算

  F=1/(a−b)(c−a)+1/(b−c)(a−b)+1/(c−a)(b−c)

とか

  F=a^2/(a−b)(c−a)+b^2/(b−c)(a−b)+c^2/(c−a)(b−c)

を簡単にせよという演習問題に出会ったことがあるはずである.

  F={a^k(b−c)+b^k(c−a)+c^k(a−b)}/(a−b)(b−c)(c−a)

として,分子をFkとおくと

  F0=(b−c)+(c−a)+(a−b)=0

  F1=a(b−c)+b(c−a)+c(a−b)=0

  F2=a^2(c−b)+b^2(a−c)+c^2(b−a)=−(a−b)(b−c)(c−a)

  F3=a^3(b−c)+b^3(c−a)+c^3(a−b)=−(a−b)(b−c)(c−a)(a+b+c)

よって,k=0,1,2,3の場合,順に

  F=0,0,−1,−(a+b+c)

となる.

 Fkは交代式で,交代式は差積と対称式Aの積で表されるという性質があるから

  Fk=A(a−b)(b−c)(c−a)

ここで,分母(a−b)(b−c)(c−a)は3次交代式,分子Fkはk+1次交代式であるから,Fはk−2次対称式となる.このことからk=0,1のときF=0,k=2のときFは定数となることがわかる.

k=2の場合,F=−1

k=3の場合,F=−(a+b+c)

k=4の場合,F=−(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)

k=5の場合,F=−(a^3+b^3+c^3+a^2b+ab^2+a^2c+ac^2+b^2c+bc^2+abc)

 また,対称式の基本定理より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができる.3変数の場合の基本対称式

  σ1=a+b+c

  σ2=ab+bc+ca

  σ3=abc

を用いて対称式Pを表してみることにしよう.

k=3の場合,F=−(a+b+c)=−σ1

k=4の場合,F=−(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)=−σ1^2+σ2

k=5の場合,F=−(a^3+b^3+c^3+a^2b+ab^2+a^2c+ac^2+b^2c+bc^2+abc)=−σ1^3+2σ1σ2−σ3

しかし,対称式の基本定理など代数学の知識を駆使してもあまり面白い結果になりそうもない.

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  1/(a−b)(c−a)+1/(b−c)(a−b)+1/(c−a)(b−c)=0

  (b+c)/(a−b)(c−a)+(c+a)/(a−b)(b−c)+(a+b)/(b−c)(c−a)=0

  bc/(a−b)(c−a)+ca/(a−b)(b−c)+ab/(b−c)(c−a)=−1

などの一連の式は「オイラーの恒等式」と呼ばれるものだそうである.単なる分数式の練習問題ではなく,由緒ある式なのである.

 しかし,オイラーの恒等式は算術平均と幾何平均の不等式(←フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式)や巡回行列式のように2次式の和の形

  F=ΣkP^2

にも表せそうもない.これでは面白味に欠けるが「オイラーの恒等式」に何か面白い性質は隠れていないのだろうか? オイラーの恒等式は巡回行列式でなく,ファンデルモンドの行列式と近い関係にあることは推測できるのだが,もう一度じっくりみてみることにしよう.

k=3のとき,F=−(a+b+c)

k=4のとき,F=−(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)

k=5のとき,F=−(a^3+b^3+c^3+a^2b+ab^2+a^2c+ac^2+b^2c+bc^2+abc)

はk−2次の同次項(係数1)がすべて出現している組合せであることに気づかれたであろう.

 その項数は

  3Hk-2=kCk-2=k(k−1)/2

すなわち,k=3(項数3),k=4(項数6),k=5(項数10)と計算される.そして,k=6の場合は

  F=−(a^4+a^3b+a^3c+a^2b^2+a^2bc+a^2c^2+ab^3+ab^2c+abc^2+ac^3+b^4+b^3c+b^2c^2+bc^3+c^4)

(項数15)になるものと推測されるのである.

 この推測の信頼率は95%以下と思われたので,阪本ひろむ氏(最近出版された

  志賀浩二監訳・阪本ひろむ訳「バナッハとポーランド数学」シュプリンガー・フェアラーク東京

の訳者)にお願いして,Mathematicaを用いて確認してもらっている.

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 オイラーの恒等式では3変数の場合が取り上げられているが,4変数ではどうだろうか? その前に3変数の場合について,都合上

  F={a^k(b−c)−b^k(a−c)+c^k(a−b)}/(a−b)(a−c)(b−c)

と書き直しておく.

 2変数の場合,差積は1次交代式(b−a)であるから

  F=a^k/(a−b)−b^k/(a−b)=(a^k−b^k)/(a−b)

Fk=A(a−b)とすると

  A=a^(k-1)+a^(k-2)b+・・・+ab^(k-1)+b^k

すなわち,k−1次の同次項が重複なくちょうど1回ずつ現れ,その項数は

  2Hk-1=kCk-1=k

となる.

k=1のとき,F=1   (項数1)

k=2のとき,F=a+b   (項数2)

k=3のとき,F=a^2+ab+b^2   (項数3)

k=4のとき,F=a^3+a^2b+ab^2+b^3   (項数4)

 4変数の場合,差積は6次交代式

  (a−b)(a−c)(a−d)(b−c)(b−d)(c−d)

また,

  Fk=a^k(b−c)(b−d)(c−d)−b^k(a−c)(a−d)(c−d)+c^k(a−b)(a−d)(b−d)−d^k(a−b)(a−c)(b−c)

とかなり厳めしくなるが,Fkは差積と対称式Aの積

  Fk=A(a−b)(a−c)(a−d)(b−c)(b−d)(c−d)

で表されるはずであるから,k=0,1,2のときF=0,k=3のときFは定数となることがわかる.

 項数は

  4Hk-3=kCk-3=k(k−1)(k−2)/6

k=3のとき,F=1   (項数1)

k=4のとき,F=a+b+c+d   (項数4)

k=5のとき,F=a^2+a(b+c+d)+b^2+b(c+d)+c^2+cd+d^2   (項数10)

k=6のとき,F=a^3+a^2(b+c+d)+a(b^2+c^2+d^2+bc+cd+da)+b^3+b^2(c+d)+b(c^2+cd+d^2)+c^3+c^2d+cd^2+d^3    (項数20)

 次にk=−1,−2,−3,・・・としてみたらどうだろうか? k=−1の場合だけを記すが,

  2変数の場合,F=−1/ab

  3変数の場合,F= 1/abc

  4変数の場合,F=−1/abcd

 この分数式に数学的背景があるとは思いもしなかったが,すべての同時項(係数1)が出現するなど意外な事実があることを知った.オイラーの恒等式と関係していることを知って少しは楽しくなっただろうか.

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【補】巡回行列式

 3次の巡回行列式

  |a b c|

  |c a b|=a^3+b^3+c^3−3abc

  |b c a|

 =(a+b+c)(a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca)

 =(a+b+c)(a+bω+cω^2)(a+bω^2+cω)

もきれいな恒等式です.

  a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca

 ={(a−b)^2+(b−c)^2+(c−a)^2}/2≧0

は高校数学でよく出てきますから,憶えておられる方も多いでしょう.

 2次の巡回行列式

  |a b|=a^2−b^2=(a+b)(a−b)

  |b a|

では物足りないし,かといって4次の巡回行列式

  |a b c d|

  |d a b c|

  |c d a b|

  |b c d a|

 =a^4+b^4+c^4+d^4−2(a^2b^2+a^2c^2+a^2d^2+b^2c^2+b^2d^2+c^2d^2)+8abcd

 =(a+b+c+d)(a−b+c−d)(a^2+b^2+c^2+d^2−2ac−2bd)

 ={(a+c)^2−(b+d)^2}{(a−c)^2+(b−d)^2}

 =(a+b+c+d)(a+bi−c−di)(a−b+c−d)(a−bi−c+di)

では厳めしく感じられます.

 巡回行列式には2次式の和の形ΣkP^2が出現するのですが,一般に,ζを1の原始n乗根(すなわちn乗してはじめて1になる複素数)とすると

  |x0 x1・・・xn-1|

  |xn-1 x0・・・xn-2|=Π(x0+ζ^ix1+・・・+ζ^(n-1)ixn-1)

  |・・・・・・・・・・|  (i=0~n-1)

  |x1 x2・・・x0 |

で表されます.(i=0~n-1)ですから右辺はn個の整式の積となります.

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【補】ファンデルモンドの行列式

  |1  1  1 |

  |a  b  c |=(a−b)(b−c)(c−a)

  |a^2 b^2 c^2|

は有名な公式です.

  |1  1|=b−a

  |a  b|

  |1  1  1  1 |

  |a  b  c  d |=(a−b)(a−c)(a−d)

  |a^2 b^2 c^2 d^2|     ×(b−c)(b−d)

  |a^3 b^3 c^3 d^3|          ×(c−d)

 いずれも右辺は特別な形(差積)になっていますが,これを一般化した公式が「ファンデルモンドの行列式」です.

  |1    1    1・・・・1   |

  |x1   x2   x3   ・xn   |

  |x1^2  x2^2  x3^2  ・xn^2  |=RΠ(xi−xj)

  |・・・・・・・・・・・・・・・・・・|  R=(-1)^{n(n-1)/2}

  |x1^n-1 x2^n-1 x3^n-1 ・xn^n-1 |  (i>j)

 ファンデルモンドの行列式は符号を除いて差積Π(xi−xj)に等しく,整級数の理論や分割の理論に使われます.(i>j)ですから右辺はnC2=n(n−1)/2項の積となります.

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【補】ベクトルの外積と3次元の特殊性

 昔なつかしい「ベクトル」を思い出して頂き,「ベクトルの外積」の大きさ,すなわち,2つの2次元ベクトル

  a↑=(x1,y1)

  b↑=(x2,y2)

が作る平行四辺形の面積について考えてみることにしましょう.

  |a↑|=a,|b↑|=b

とすれば,平行四辺形の面積は,

  S=absinθ

ですから,

  S^2=a^2b^2(1−cos^2θ)

    =|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|a↑・a↑  a↑・b↑|

     |b↑・a↑  b↑・b↑|

で与えられます.内積の行列式で定義される行列式をグラムの行列式(グラミアン)といいます.平行四辺形の面積はグラミアンの平方根に等しくなるというわけです.これを座標を使って表せば,

  S^2=|x1 x2|^2

     |y1 y2|

のように展開されます.

 3次元ベクトル

  a↑=(x1,y1,z1)

  b↑=(x2,y2,z2)

のときは,

  S^2=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|y1 y2|^2+|z1 z2|^2+|x1 x2|^2

     |z1 z2|  |x1 x2| |y1 y2|

これは3次元ベクトル

  (y1z2−z1y2,z1x2−z2y1,x1y2−y1x2)

の長さの形をしています.

 これは平行六面体の体積

   |a↑・a↑  a↑・b↑  a↑・c↑| |x1 y1 z1|^2

V^2=|b↑・a↑  b↑・b↑  b↑・c↑|=|x2 y2 z2|

   |c↑・a↑  c↑・b↑  c↑・c↑| |x3 y3 z3|

ではなく,平行四辺形の面積であることを注意しておきます.

  a↑=(x1,y1,z1)

  b↑=(x2,y2,z2)

の外積は,3次元ベクトル

  (y1z2−z1y2,z1x2−z2y1,x1y2−y1x2)

で与えられます.すなわち,外積の大きさ=平行四辺形の面積なのです.

 少し見ただけではわかりにくい表示で,憶えるのも大変そうですが,行列式を使うと

           |e1↑ e2↑ e3↑|

  c↑=a↑×b↑=|x1  y1  z1 |

           |x2  y2  z2 |

上の行から,単位ベクトル,a↑の成分,b↑の成分の順に並ぶというわかりやすい形に整理できます.

 同様に,4次元のときは

  a↑=(x1,y1,z1,w1)

  b↑=(x2,y2,z2,w2)

  S^2=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|y1 y2|^2+|z1 z2|^2+|x1 x2|^2

     |z1 z2|  |x1 x2| |y1 y2|

    +|x1 x2|^2+|y1 y2|^2+|z1 z2|^2

     |w1 w2|  |w1 w2| |w1 w2|

これは6次元ベクトルの長さの形をしていることがわかります.

 一般のn次元の空間では

  a↑=(u1,・・・,un)

  b↑=(v1,・・・,vn)

に対し,

  S^2=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =Σ(ujvk−ukvj)^2

ただし,Σはj<kとなるnC2=n(n−1)/2組に対して和をとるものとします.

 これは,n(n−1)/2次元ベクトルの長さの形をしているのですが,空間の次元が3のときだけ,運よく3次元ベクトルが得られていることがおわかり頂けたしょうか? この事実は,外積が3次元ベクトルでしか定義できないことを示しています.

 ベクトルの外積は3次元特有のもので,2次元でも4次元でもだめなのですが,ほとんどの物理現象は3次元空間で生じますから,これでも汎用性は高いというわけです.

 また,このことは,ベクトルの内積が一般のn次元空間でも

  a↑・b↑=Σukvk

と表されるのと対照的です.もっとも4次元以上では2つのベクトルa↑,b↑の張る平面に直交する方向は一義ではなくなるので,話がおかしくなってしまうのですが・・・.

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