(その2)においてβ−14面体の最良平面近似が得られなかった原因は,設定した評価関数の振る舞いが良くないためだと考えられました.そこで(その3)ではβ−14面体を1段ごとにその長軸方向を直交させながら積み上げたときにできる隙間の割合を最小にすることを考えてみます.計算は複雑になるのですが,無駄な空間の割合を最小にするというのは空間充填問題の正攻法でしょう.
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【1】隙間の割合の最小化
β−14面体の五角形面には太ったδ面とやせたε面がありますが,頂点から底辺に下ろした垂線の長さはどちらも同じです.したがって,両者が接合するときには両者の差の分だけ隙間が生じます.ひとつながりの隙間の形状は4個の三角錐からできていて,4枚羽根の風車型(十字手裏剣型)になります.また,β−14面体の体積はいくつかの三角錐,三角柱,直方体,六角柱に切り分けて求めることができます.
こうして求めた隙間の体積をV0,β−14面体の体積をV1,最小化する評価関数を
s=V0/V1
として最小2乗法にかけて計算したところ,Lは大きくなり,2W×2L面の切稜角は19.8801°,2×2L面と2×2W面の切稜角はほとんど0°(0.849444°)に収束しました.
L=3.03681,W=2.06746,d=0.969346
δ面 ε面
辺長 2.37169 1.78339
1.78339 .75703
1.93869 1.93869
頂角 140.236 89.9938
底角 134.997 109.878
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
この極限形はほぼ六角柱ですが,これでは目的とする解にはなりませんから評価関数を変更することにしました.
β−14面体は六角柱(胴)の上下の面に五角形面でできた蓋と底をつけることで構成することができます.胴の体積をV11,蓋+底の体積をV12とします.胴の部分はピッタリと噛み合っていますので,評価関数から除外することにしました.胴の部分は面を正方形にするために必要ですが,β−14面体による空間充填にとっては正方形である必要はないわけですから,除外するのは合理的といえます.
そこで,評価関数を
s=V0/(V1−V11)=V0/V12
とします.この評価関数で二面角の上限を120°に制限して計算すると,2W×2L面の切稜角は30°,2×2L面と2×2W面の切稜角は22.8787°に,
L=1.8378,W=1.44943,d=0.388373
δ面,ε面はそれぞれ
δ面 ε面
辺長 1.37498 1.14634
1.14634 .284309
.776747 .776747
頂角 115.853 85.3107
底角 132.655 118.01
に収束しました.このとき,蓋+底に対する隙間の割合は0.3%と計算され,1%にも満たないことがわかりました.
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【2】雑感
以下に,中川宏さん製作の木工模型を掲げますが,β−14面体の平面近似問題と解こうとして一歩一歩たどってきた道は,最終的に隙間の割合を最小化するという正攻法に行き着いて,その最良近似解を与えられたという手応えを感じています.
α-14面体を積み上げて空間を充填するときにはすべての多面体の長軸を平行にとる平行移動するだけで3次元空間を埋めつくす充填です.β-14面体を積み上げて空間を充填するときには1段ごとにその長軸方向を直交させることになります.
[1]α-14面体
[2]β−14面体
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【3】科学者の目と詩人の心
ザクロ,ハチの巣,石鹸の泡などのように,空間がある立体(多面体)によって分割される空間分割は,生物と無生物を問わず,自然界に広く見られる現象であるが,多面体の面数は14面,面の形は五角形がもっとも多いことなどが知られている.
α−14面体にせよβ−14面体にせよ単一14面体による空間分割という点は同じであって,これらが基本単位(細胞)となった多細胞体の構築模型を考えることができる.
構築模型の例として,雪がなぜ六角形をしているのだろうかという問題を考えてみよう.この原理を初めて見知ったひとはその形の美しさにまず驚くとともに,やがてナゼ?という疑問をもつに違いない.不思議さに魅せられたならばすでに「形の物理学」の問題領域である.
六花という異名をもつ雪では,水分子の結晶構造が六角を基本とするからこれがひとつの内因になっていることは間違いない.しかし,この六角形の基本単位を次々につけ足していったときに全体として六角形になるとは限らない.四角形にも不定形にもなり得るので他に理由を求めなければならない.雪が六角形をとるという「形の物理学」の答えは完全には与えられていないのである.
多細胞からなる生体の構築の原理も然りである.生体の構築が遺伝情報とはまったく別の原理に基づいてどうしてこのような形にならざるを得ないか,ある原理からどの程度理論的に誘導できるかという点に対しては,これまでほとんど手のつけようがなかった問題領域である.
[参]諏訪紀夫「病理形態学原論」岩波書店
はそのような問題領域に対して,独自の視点から企画された著書である.あまり知られていない一冊ではあるが,科学者の目で自然を洞察し,詩人の心をもってペンを走らせたと思われる良書である.α−14面体・β−14面体の木工製作ではこの本が大いに参考になったことを申し添えておきたい.
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【4】プログラム
1390 '
1400 ' ** PENTAGON **
1410 '
1420 *PENTAGON:
1430 L=P(1)
1440 T=P(2)
1450 'T=1/SQR(3)
1460 '
1470 W=(1+T)/2*L
1480 D=(1-T)/2*L
1490 X=L/(1+T)
1500 Y=(1+T*T)/(1+T)/2*L
1510 Z=(1+T*T)*(1-T)/(1+T)^2/2*L+T/(1+T)^2*2
1750 '
1760 A2=(X-L)^2+(Y-L+W)^2+(Z-D)^2
1770 B2=(L/2)^2+(L/2-W)^2+((1-D)/2)^2
1780 C2=-(X-L)*L/2-(Y-L+W)*(L/2-W)+(Z-D)*(1-D)/2
1790 H2=(X-L/2)^2+(Y-L/2)^2
1800 A=SQR(A2)
1810 B=SQR(B2)
1820 H=SQR(H2)
1830 C=C2/A/B:IF ABS(1-C)<.00001 THEN T2=PI/2:GOTO 1850
1840 T2=ATN(SQR(1-C*C)/C):IF C<0 THEN T2=PI+T2
1850 V0=A*B*SIN(T2)*H/6*4
1860 V1=L*L*D*4
1870 V2=Y*(1-Z)*D*4
1880 V3=Y*(1-Z)*(X-D)*8/3
1890 V4=X*(Z-D)*Y*8
1900 V5=X*(Z-D)*(W-Y)*8/3
1910 V6=(L-X)*(Z-D)*D*4
1920 V7=(L-X)*(Z-D)*(Y-D)*8/3
1930 V8=V1+V2+V3+V4+V5+V6+V7
1940 RETURN
2140 '
2150 ' ** SUM of RESIDUALS **
2160 '
2170 *RESIDUAL:
2180 GOSUB *PENTAGON
2210 'SS=V0/V8
2220 SS=V0/(V8-V1)
2230 RETURN
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