■2つのポアンカレ予想(その1)
3次元多様体に対して,リッチ流を考えてリーマン計量を変形することにより,3次元多様体を標準的なものに分解し,それぞれの部分が幾何構造をもつようにできるという研究が,ハミルトンやペレルマンによってなされた.
これが正しいことがわかり,サーストンの予想やポアンカレ予想が肯定的に解かれたのである.
[参]佐久間一浩「トポロジー集中講義」培風館
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【1】ポアンカレ
1895年,ポアンカレは論文の中で誤った定理「3次元球面(4次元球の表面)
a^2+b^2+c^2+d^2=1 (a,b,c,dは実数)
はホモロジー群の計算から特徴づけられる」を発表した.
1898年,ポアンカレはこの誤りに気づき,3次元球面と同じホモロジー群をもつが,それとは基本群の異なる3次元多様体
x^2+y^3+z^5=0,|x|^2+|y|^2+|z|^2=1 (x,y,zは複素数)
を構成してみせた.
そして,1904年,「任意の単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相か?」という問いを残した.これが有名な(3次元)ポアンカレ予想である.
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【2】ミルナー
ミルナーが7次元球面(8次元球の表面)の異種微分構造,いわゆる「エキゾチックな球面」を発見したことで,ポアンカレ予想は大きな分岐点を迎えることになった.
この研究を契機に4次元以上では
[1]微分可能ポアンカレ予想
[2]位相的ポアンカレ予想
の2つに分けて議論されるようになった.[1]が正しければ[2]も正しい.ただし逆は必ずしも真ならず.
さらに,ミルナーは7次元以上で微分可能ポアンカレ予想は一般に正しくないことを発表した.
また,スメールは5次元以上で位相的ポアンカレ予想は正しいことを発表した.これと前後してミルナーは5次元と6次元で微分可能ポアンカレ予想も正しいことを発表した.
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【3】他の研究者たち
3次元では微分可能ポアンカレ予想=位相的ポアンカレ予想は同じ問題であること([1]=[2]),4次元以上では一般に異なる問題であること([1]≠[2])を解明した.
したがって,1960年代には次の3つのポアンカレ予想が未解決であった.
[3]4次元位相的ポアンカレ予想(→1981年,フリードマンが解決)
[4]3次元微分可能・位相的ポアンカレ予想(→2002年,ペレルマンが解決)
[5]4次元微分可能ポアンカレ予想(→未解決であるが2010年になって部分的解決)
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