■無限のパラドックス(その2)

 私は特別な医学的知識を持っているわけではないが,血液中のコレステロール値が高いと心臓病になる,逆に心臓病にかかっている人々はコレステロール値が高いこと(相関があること)は証明された事実である.

 だから,医者は心臓病にかかりにくくするためにはダイエットすべきであるというが,心臓病患者に見られる高コレステロール血症は,病気の結果の症状であって,原因ではないかもしれない.

 そう考えると,低脂肪食のダイエットが,実際に心臓病にかかる確率を減らすという論理は,数学的には保証されないひとつの仮説に過ぎないことがわかるだろう.どちらが原因でどちらが結果なのか,あるいはその両方とも未知の原因の結果かもしれないのである.

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【1】n次元超球

 球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をVnとすると,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)はご存知でしょう.n次元単位球はどんなに次元が高くても,長さが2より大きな線分を含むことはできません.

 したがって,n=2,3,4では単位立方体(対角線の長さ√n)は単位球体の中に含まれますが,n≧5でははみ出る部分があり,次元とともにはみ出る部分が増えていきます.単位球体の直径は次元によらず2なのです.

 n次元単位超球の体積Vn,その表面積を表面積Sn-1とすると,単位超球の表面積Sn-1はnVn,半径rのn次元球の体積はVnr^n,表面積はnVnr^(n-1)となります.n次元単位超球の体積Vnを求めてみると,

  Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)

を得ることができます.また,Γ(m+1)=m!より,この結果は,形式的に

  Vn=π^(n/2)/(n/2)!

と書くことができます.

 Vn-1がわかれば,Vnは漸化式:

  Vn/Vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)=B(1/2,(n+1)/2)

によって求めることができますが,この計算は面倒ですから,Vn-2との漸化式

  Vn/Vn-2=2π/n

を用いると任意のnに対して

  nが奇数であれば,Vn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!

  nが偶数であれば,Vn=(2π)^(n/2)/n!!

とも書けることも理解されます.1次元から6次元までを具体的に書けば,

  Vn=2,π,4π/3,π^2/2,8π^2/15,π^3/6

という具合に,πのべき乗は偶数次元になるたびに1つあがります.

 そして,n→∞のとき,

  Vn/Vn-2=2π/n→0

  Sn-1/Sn-3=nVn/(n-2)Vn-2=2π/(n-2)→0

ですから,不思議なことに,単位球面の体積や表面積はn→∞のとき0に収束するのです.

 nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,1次元から14次元までの具体的数字は次の通りです.

n Vn n Vn n Vn

1 2 6 5.168 11 1.884

2 3.142 7 4.725 12 1.335

3 4.189 8 4.059 13 0.911

4 4.934 9 3.299 14 0.599

5 5.264 10 2.550

 このように,超球の体積はn=5のとき最大8π^2/15=5.2637・・・となり,以後は次元とともに急激に減少します.(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり,そのときの体積は5.277・・・である.)幾何学では5,6次元を境にして本質的に様子が変わっていることが少なくないのですが,このことはその原因の一端をほのめかしていると考えられます.

 超球の体積はn=5のとき最大(8π^2/15)であり,それに対して表面積nvnが最大(16π^3/15)になるのはn=7のときです.どちらもnが大きくなると急激に0に近づきます.

 Sn-1球面上で一様に分布する点の配置は一様に分布しているといっても,大きなnに対してはほとんどが赤道のかなり近くに位置していること,また,(直観に反して)超球の体積Vnの大部分はその球殻付近に集中しています.いわゆる薄皮まんじゅう状態なのですが,n=2,3などの場合から類推すると非常に奇妙に感じられます.

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【2】n次元超球の体積和

  [参]ハヴィル「反直観の数学パズル」白揚社

におもしろい問題が取り上げてあったので紹介したい.n→∞のとき,

  Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)→0

より,n次元単位超球の体積和ΣVnの値が存在する可能性がある.

 具体的な表示式を求めてみるために,偶数次元和と奇数次元和に分けて考える.偶数次元和は

  Σπ^m/m!=exp(π)−1

奇数次元和は複雑になるが,

  Σπ^(m-1/2)/Γ(m+1/2)!=exp(π)Erf(√π)

したがって,

  ΣVn=exp(π)(1+Erf(√π))−1=44.999・・・

 また,表面積和ΣnVnは,偶数次元和では

  2(√2π)exp(π)

奇数次元和では

  2(1+πexp(π)Erf(√π))

したがって,

  ΣnVn=2(√2π)exp(π)+2(1+πexp(π)Erf(√π))=261.635・・・

[補]

  e^π=23.14069・・・≒π+20

  π^e=22.45915・・・

  0<(e^π−π^e)<1

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