シリコンフラーレンの木工模型の作製を試みたところ,副産物として正n角柱を正n角形の中心を結ぶ軸に対してπ/nだけねじってできる反角柱に対する公式を導出することができた.しかし,(その1)では肝心の主産物(ねじれ重角錐に対する公式)を導くことはできなかった.
ねじれ重角錐は面の形が凧型であり,その両端の角錐を切り落とすことによってできる多面体は側面に2n枚の五角形が互い違いに噛み合って配置することになる.すなわち,この多面体は平行する天地面に正n角形があり,側面に2n枚の五角形が互い違いに噛み合っているものであり,いわば反角柱の五角形版と考えることができる.
私がこの多面体を重要と考えている理由は,シリコンフラーレンが正方形2枚と5角形8枚からできていること(4^25^8),コラム「4次元正120胞体の3次元投影」で紹介したα体とγ体は正五角形面が両極にあり,その間にそれぞれδ面10枚(5^2δ^10),ε面10枚(5^2ε^10)が挟まれた形であること,さらに正6角形2枚と5角形12枚からなる14面体(6^25^12)など,いずれの場合も正n角形面が天地面にあり側面が五角形2n枚の構造(n^25^2n)になっているからである.
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【1】閉じた形に組まれた(n^25^2n)構造
五角形ABCDEの頂点の対辺をそれぞれabcdeで表し,a=1とすると,δ面とε面の辺の長さと角の大きさは
δ ε δ ε
a 1 1 A 116.565 138.1898
b 0.866025 0.587785 B 100.8124 79.1876
c 0.951056 0.866025 C 110.9051 121.7175
d 0.951056 0.866025 D 110.9051 121.7175
e 0.866025 0.587785 E 100.8124 79.1876
となるのですが,このように閉じた形に組めるのはかなり限定された形のみです.
δ面とε面はいずれも閉じた形に組まれた正十二面体の投影図形ですから,正五角形とそれらを用いて閉じた形に組むことができたのですが,反角柱とは違って,任意の五角形ではねじれ重角錐は組めません.ここでは閉じた形に組めるための条件を求めてみることにしましょう.
ねじれ重角錐(n^25^2n)の五角形の頂点をAとすると,辺CDが正n角形と組み合わさる辺でその長さをa,辺BC=辺DE=b,辺AB=辺EA=c,底角∠C=∠D=θ,頂角∠A=φで表します.θは90°<θ<(90+180/n)°の値をとるものとします.
そして,頂点Cの空間座標を(0,0,0),B(0,y,z),D(acos(π/n),−asin(π/n),0)にとると,
E((y+a/(2sin(π/n))sin(2π/n),(y+a/(2sin(π/n))cos(2π/n)-a/(2sin(π/n),z))
また,頂点Aの空間座標(ξ,η,ζ)は
ξ=(y+a/(2sin(π/n))sin(π/n)
η=(y+a/(2sin(π/n))cos(π/n)-a/(2sin(π/n)
ζ=z/y{(y+a/(2sin(π/n))(tan(π/n)sin(π/n)+cos(π/n)-1)}+z
で与えられます.
ただし,
b^2=y^2+z^2
c^2=ξ^2+(η−y)^2+(ζ−z)^2
c^2cosφ=−ξ^2+(η−y)^2+(ζ−z)^2=c^2−2ξ^2
=c^2−2(y+a/(2sin(π/n))^2(sin(π/n))^2
ξ,η,ζをc^2=ξ^2+(η−y)^2+(ζ−z)^2に代入すると,yに関する4次方程式
y^2(y+a/(2sin(π/n))^2{(sin(π/n))^2+(cos(π/n)-1)^2-(1/cos(π/n)-1)^2}+b^2(y+a/(2sin(π/n))^2(1/cos(π/n)-1)^2=c^2y^2
に帰着されます.
係数だけ抜き出すと
y^4の係数:{(sin(π/n))^2+(cos(π/n)-1)^2-(1/cos(π/n)-1)^2}
y^3の係数:a/sin(π/n){(sin(π/n))^2+(cos(π/n)-1)^2-(1/cos(π/n)-1)^2}
y^2の係数:a^2/(2sin(π/n))^2{(sin(π/n))^2+(cos(π/n)-1)^2-(1/cos(π/n)-1)^2}+b^2(1/cos(π/n)-1)^2-c^2
y^1の係数:ab^2/sin(π/n)(1/cos(π/n)-1)^2
y^0の係数:a^2b^2/(2sin(π/n))^2(1/cos(π/n)-1)^2
δ面(a=1,b=.866025,c=.951056,θ=110.9051,φ=116.565)
ε面(a=1,b=.587785,c=.866025,θ=121.7175,φ=138.1898)
は正五角形と一緒にすると閉じた形に組むことができるので,n=5とおくともちろんこれらの関係式を満たすことになります.
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【2】等辺(n^25^2n)構造
もし五角形面を等辺にしたいのなら,a=b=c=1とおいて0<y<1を満たすyを求めます.実際に方程式を解くと
n=3:解なし
n=4:解なし
n=5:重解
n=6:解2個
n≧7:解1個
となり,シリコンフラーレン型(4^25^8)では等辺のものはあり得ないことがわかりました.
n 二面角 θ φ
5 116.565 108 108 (正十二面体)
6 153.076 117.238 146.546 (横長五角形)
6 102.288 97.005 76.9186 (縦長五角形)
7 99.2919 94.4461 70.5531 (縦長五角形)
8 97.6236 93.1453 67.4036 (縦長五角形)
9 96.5175 92.3657 65.5416 (縦長五角形)
10 95.7161 91.8535 64.3282 (縦長五角形)
n→∞のとき,
y^4の係数→1
y^3の係数→1
y^2の係数→1
y^1の係数→0
y^0の係数→0
ですから,解はy→0となって五角形面はθ=90°,φ=60°のホームベース型に近づくことがわかります.この計算は畏友・阪本ひろむ氏に確かめてもらいました.以下に,中川宏さん作によるn=6の2種類の木工模型を掲げます.
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【3】直角(n^25^2n)構造
噛み合わせ角度をφ=90°とし,たとえばa=b=1なる直角五角形にしたい場合は,
c^2=2(y+a/(2sin(π/n))^2(sin(π/n))^2
ですから,この4次方程式は2次方程式
y^2{-(sin(π/n))^2+(cos(π/n)-1)^2-(1/cos(π/n)-1)^2}+(1/cos(π/n)-1)^2=0
まで還元されます.この方程式はy^2の項と定数項だけなので実質的には1次方程式と同じです.
n 二面角 θ c
3 125.264 135 1.70711
4 114.47 112.5 1.2483
5 108.961 103.282 1.03203
6 105.542 98.7939 .923314
7 103.194 96.2725 .861621
8 101.473 94.71 .823233
9 100.156 93.672 .797681
10 99.1131 92.9459 .779789
n→∞のとき
y^2の係数→−1
y^0の係数→0
よりy→0となって,五角形面はθ=90°,φ=90°のホームベース型に近づくことがわかります.その木工模型(n=3,4,5,6)を掲げますが,n=3では底角θ=135°,頂角φ=90°なので切頂立方体となります.
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【4】正五角形面(n^25^2n)構造
正五角形を辺同士で環状に連結していくと,10枚でちょうどひとつの輪になります.このとき,この連結図形の外縁の噛み合わせ角度は144°となります.ここでは,正五角形10枚で一周するリングから1枚ずつ減らしていって,平行する天地面を正n角形にした場合の噛み合わせ角度を計算してみました.
一般には閉じた形には組めないわけですから,正五角形の頂点の空間座標は(ξ,η,ζ)にはなりません.そこで頂点を(α,β,γ)として求めてみると
β=-{tan(π/n)/cos(π/n)-(6+√5)y/2z^2}/{(tan(π/n))^2+1+y^2/z^2}
α={1/2+βsin(π/n)}/cos(π/n)
γ={(6+√5)/8-βy}/z
ただし
y=-cos(3π/5)/sin(π/n),z=-(1-y^2)^(1/2)
このとき,噛み合わせ部分の角度φは
cosφ=−α^2+(β−y)^2+(γ−z)^2
より求めることができて,実際に計算すると
n φ n φ
3 60 7 128.571
4 90 8 135
5 108 9 140
6 120 10 144
予想通り,n=5以外では側面の噛み合わせ角度が正五角形の頂角108°になりません.すなわち,天地面が正五角形の場合は側面が正五角形10枚が互い違いに噛み合う立体(正十二面体)になりますが,このように側面の五角形が正五角形になる得るのはn=5のときだけです.
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