■ハンケル行列式(その4)

 ベータ関数の多重積分版として,セルバーグは次の積分公式を得ました.

  ∫(0,1)・・・∫(0,1)Πti^(x-1)(1−ti)^(y-1)Π|ti−tj|^(2z)dt1・・・dtn

  =ΠΓ(x+(j-1)z)Γ(y+(j-1)z)Γ(jz+1)/Γ(x+y+(n+j-2)z)Γ(z+1)

 左辺にある

  Δn(t)=Π(ti−tj)

は差積ですから,電子の励起状態や原子核のエネルギー準位に関連していることが想像されます.

 差積はファンデルモンド行列式に等しく,

  Δn(t)^(2k)=Π|ti−tj|^(2k)=Σc(α1,・・・,αn)t1^α1・・・tn^αn

のようにtについての対称式に展開することができます.ここで,c(α)=c(α1,・・・,αn)は整数です.

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【1】ファンデルモンドの行列式

  |1  1  1 |

  |a  b  c |=(a−b)(b−c)(c−a)

  |a^2 b^2 c^2|

は有名な公式です.

  |1  1|=b−a

  |a  b|

  |1  1  1  1 |

  |a  b  c  d |=(a−b)(a−c)(a−d)

  |a^2 b^2 c^2 d^2|     ×(b−c)(b−d)

  |a^3 b^3 c^3 d^3|          ×(c−d)

 いずれも右辺は特別な形(差積)になっていますが,これを一般化した公式が「ファンデルモンドの行列式」です.

  |1    1    1・・・・1   |

  |x1   x2   x3   ・xn   |

  |x1^2  x2^2  x3^2  ・xn^2  |=RΠ(xi−xj)

  |・・・・・・・・・・・・・・・・・・|  R=(-1)^{n(n-1)/2}

  |x1^n-1 x2^n-1 x3^n-1 ・xn^n-1 |  (i>j)

 ファンデルモンドの行列式は符号を除いて差積Π(xi−xj)に等しく,整級数の理論や分割の理論に使われます.(i>j)ですから右辺はnC2=n(n−1)/2項の積となります.

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【2】シルベスターの終結式

  f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an-1x+an

  g(x)=b0x^m+b1x^(m-1)+・・・+bm-1x+bm

が共通因子をもつための必要十分条件は,n+m次の行列式:Res(f,g)

  |a0 a1・・・an・・・・・・0|

  |0  a0 a1・・・an・・・0 |

  |・・・・・・・・・・・・・・・ |

  |0・・・・・・a0 a1・・・an|=0

  |b0 b1・・・bm・・・・・・0|

  |0  b0 b1・・・bm・・・0 |

  |・・・・・・・・・・・・・・・ |

  |0・・・・・・b0 b1・・・bm|

 よく知られているようにf(x)=0が重根をもつためにはf(x)=0,f’(x)=0が共通根をもつことである.したがって,

  Res(f,f’)=0

は,f(x)=0が重根をもつための必要十分条件条件である.たとえば,

  f(x)=ax^2+bx+c,f’(x)=2ax+b

のとき,

  Res(f,f’)=−a(b^2−4ac)

このように,Res(f,f’)に方程式の判別式が出現するのは当然のことである.

 ちなみに,楕円曲線

  y^2=f(x)=x^3+px+q

はワイエルシュトラスの標準形と呼ばれるものであるが,このとき

  f’(x)=3x^2+p

  Res(f,f’)=4p^3+27q^2

となる.4p^3 +27q^2 ≠0はこの代数曲線が特異点をもたないための条件である.

 また,5次方程式

  f(x)=x^5+px+q=0

はジラールの標準形と呼ばれるものであるが,一般に

  f(x)=x^n+px+q

のとき

  Res(f,f’)=(-1)^(n-1)(n−1)^(n-1)p^n+n^nq^(n-1)

と計算される.

  n=3のとき2^2p^3+3^3q^2,

  n=5のとき4^4p^5+5^5q^4

というわけである.

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