■トーラスもどき上の円(その1)

 形の科学会で取り扱うテーマは渾然一体である.玉石混淆でもある.混沌としている点においてユニークな学会である.今後どのようになっていくのだろうという不安も頭の中をよぎったが,現場では松浦執先生(学芸大)が実直かつ親切に実務を担当しておられる様子が随所に感じられ,素直に感謝申し上げたい.

 2010年の学会の展示コーナーでは,円の向きを水平に保ったまま鉛直面内で円運動させたときの軌跡(観覧車の床の運動)として現れる4次曲面を,手嶋吉法先生(産総研)が3Dプリンタで製作した模型の断面に2本の線分が見てとれた.4次曲線には直線は一本も載らないはずであるが,線分であれば載るのであろうか?

 サイクライド曲面で知られる竹内伸子先生(学芸大)もその模型を熱心に見入っておられた.彼女が大声で感嘆しているので可笑しかったが,数学者は何でもおもしろがる人種なのだ.かくいう私もこの技術が放散虫や有孔虫の骨格模型のみならず,視覚障害者のための椎骨模型作製などに利用されていることを知りうれしくなった.また,実際にそれを活用している寺口さやかさん(広島の盲学校)の発表には頭が下がる思いがした.

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 円の向きを水平に保ったまま鉛直面内で円運動させたときの軌跡(観覧車の床の運動)として現れる4次曲面を「トーラスもどき」と呼ぶことにする.

 トーラス面

  {(x^2+y^2)^1/2−r1}^2+z^2=r0^2

は環状に並べられた円と考えることができ,経線と緯線は円である.

  r0:パイプの半径,r1:輪の半径

 トーラスもどきは

  {(x−(r1^2−y^2)^1/2}^2+z^2=r0^2

で表される(はずである).

 r1/r0比が大きいとトーラスもどきはフラフープのようになるが,比が1に近づくと孔は狭まり,r1/r0<1になると互いに自分自身の中に食い込んだ形(ヘソの付いたアンパンのような形)になる.これらは自己交差していて正則でない曲面の例である.

 y=c平面での切断面は2つに分かれたペアの円(y=r0平面での切断面は1つの円),z=c平面での切断面(経線)は2つの交わる円,x=0平面での切断面は双曲線と線分であるが,x=c平面での切断面は4次曲線

  (x^2−y^2+z^2+r1^2−r0^2)^2=4x^2(r1^2−y^2)

となる.

 トーラス面におけるヴィラソーの円のように,その他にも円は存在しないのだろうか?

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