■直交多項式とセルバーグ積分(その2)
ベータ関数の多重積分版として,セルバーグは次の積分公式を得ました.
∫(0,1)・・・∫(0,1)Πti^(x-1)(1−ti)^(y-1)Π|ti−tj|^(2z)dt1・・・dtn
=ΠΓ(x+(j-1)z)Γ(y+(j-1)z)Γ(jz+1)/Γ(x+y+(n+j-2)z)Γ(z+1)
左辺にある
Δn(t)=Π(ti−tj)
は差積ですから,電子の励起状態や原子核のエネルギー準位に関連していることが想像されます.
差積はファンデルモンド行列式に等しく,
Δn(t)^(2k)=Π|ti−tj|^(2k)=Σc(α1,・・・,αn)t1^α1・・・tn^αn
のようにtについての対称式に展開することができます.ここで,c(α)=c(α1,・・・,αn)は整数です.
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【1】ウィグナー分布(エネルギー準位の固有値分布)
対称なランダム行列Hを,ユニタリー変換
H’=WHW~
して,Hの固有値:E1,E2,・・・,Enを確率変数とする同時確率分布関数
P{Ei}=Cexp{-(E1^2+・・・+En^2)/4a^2}Π(Ej−Ek)^β
を導出する.
Π(Ej−Ek)は差積を表すのだが,簡単のため,n=2の場合を考えてみると,
P{E1,E2}=Cexp{-(E1^2+E2^2)/4a^2}(E2−E1)^β
2変数E1,E2(>E1)を
E=E1+E2,S=E2−E1
で置き換えると,ヤコビアンは
J=d(E1,E2)/d(E,S)=1/2
したがって,
P{E,S}=Cexp{-(E^2+S^2)/8a^2}S^βJ
P{E,S}dEdS=CJexp{-(E^2)/8a^2}dE*S^βexp{-(S^2)/8a^2}dS
よって,準位間隔がSとS+dSの間に落ちる確率は
P{S}=(定数)S^βexp{-S^2)/8a^2} (0<S<∞)
これがウィグナー分布と呼ばれる最隣接間隔分布であり,Sが0でないところにピークをもち,隣接する準位の反発を表す関数である.
最隣接間隔分布は,尺度母数aや形状母数βの値によって,
p(s)=π/2sexp(-π/4s^2)
p(s)=32/π^2s^2exp(-4/πs^2)
などとなるが,指数関数の引き数は前者も後者も2乗の形s^2であることに注意されたい.
前者はレイリー分布,後者はマクスウェル分布と呼ばれる分布に一致するものである.レイリー分布は英国のレイリー卿が音響工学との関連でこの分布を発見したことに由来し,マクスウェル分布は気体分子の速度分布と関係した物理学上の重要な分布関数になっているのだが,これらは,一般にはχ分布と呼ばれるクラスに属し,n次元正規分布おける原点からのユークリッド距離の確率分布として導きだされるものである.その意味で,レイリー分布・マクスウェル分布は,いわゆる2次元・3次元標的問題の解となる分布である.
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量子系のエネルギー準位間に強い反発が生じると,エネルギー準位の最近接間隔分布はウィグナー分布に一致する.一方,可積分系では準位間の反発がなく,ポアソン分布
p(s)=exp(-s)
にしたがう.近可積分系のときには,ウィグナー分布とポアソン分布の中間をとるのだが,実際,最隣接間隔分布は中間の分布になることが多いという.
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ここではエネルギー準位の最隣接間隔分布について述べたが,ウィグナー分布は,対称行列の固有値分布に登場する分布である.
n次の対称行列Hの固有値はすべて実数であり,それらを並べて,
λ1≦λ2≦・・・≦λn
とするとき,n→∞のときの挙動,すなわち,固有値の漸近分布を調べたいのであるが,1958年,ウィグナーは,n→∞のとき
a√n≦λ≦b√nなる固有値の数/n → ∫(a,b)φ(t)dt
ここで,φ(t)=1/2πm^2√(4m^2-t^2)
が成り立つことを証明した.
分布関数φをもつ分布を「ウィグナー分布」といい,そのグラフは半円で与えられるからこの定理を「半円則」ともいうのだが,ウィグナーの半円則は近年大いに発展したランダム行列の原型となっている.
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