前回のコラムでは1次式,2次式の素因数について取り上げましたが,さらにある種の3次式,4次式,・・・も同じような法則に従うことがわかっています(3次剰余の相互法則,4次剰余の相互法則,・・・,高次剰余の相互法則).
これらについては
[参]平松豊一「数論を学ぶ人のための相互法則入門」牧野書店
に詳しく書かれています.今回のコラムではこの本ににしたがって保型形式との関連について眺めていくことにします.
保型形式が最初に現れたのは,1750年のオイラーによる五角数定理
Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2)) m(3m-1)/2は五角数
ですが,これを3乗した形の展開結果はかなり簡単になり,ヤコビの公式(1829年)
Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2) (m^2+m)/2は三角数
が得られます.
これらはヤコビの3重積公式
Σq^(m^2)z^m=Π(1−q^2n)(1+zq^(2n-1))(1−zq^(2n-1))
の特別な場合になっていて,オイラーの五角数定理はヤコビの三重積公式を使うと簡単に証明できます.(現在,五角数定理にはヤコビの三重積公式による証明やフランクリンによる組合せ的証明があります.)
ヤコビの公式を経て,数論はラマヌジャンの保型形式論の時代(24乗の場合)に突入します.これからの話を円滑に進めるためにも,まずは保型形式から始めることにしましょう.
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【1】重さ12の保型形式
数列
1,2,3,5,7,11,15,22,30,42,56,77,101,136,176,・・・
がどのような規則に基づいて作られているのか答えられる人はよほどの数学好きでしょう.これは「分割数」数列です.分割数とは与えられた整数にどれだけ多くの分割があるのか(4=1+1+1+1,4=3+1)という整数の分割理論のことです.整数の分割では,3=2+1と3=1+2のように足し算の順序が違うものは同じと見なすことにします.たとえば,4を分割するには非増加数列で構成した5通りの方法,4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1がありますから,p(4)=5.同様にして,5=4+1=3+2=3+1+1=2+2+1=2+1+1+1=1+1+1+1+1よりp(5)=7となります.
整数の分割問題は,現在では,統計力学(Maxwell-Boltzmann統計,Bose-Einstein統計,Fermi-Dirac統計)など様々な分野で実際的な問題を解決するのに用いられています.(分割を図形的に表す方法にヤング図形がある.ヤング図形は非増加な非負整数列を表現する印象的な方法である.)
p(0)=1,p(1)=1,p(2)=2,p(3)=3,p(4)=5,p(5)=7,p(6)=11,
p(7)=15,p(8)=22,p(9)=30,p(10)=41,p(11)=56,p(12)=77,・・・
ここで,p(n)はオイラーの分割関数とも呼ばれますが,定義が簡単そうにみえるにも関わらず,一般項を求める式を易しい式で表すことはできません.
p(n)を評価する問題は数論において研究されていて,1918年,ハーディーとラマヌジャンによって,円周法による漸近近似式:
p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))
が与えられています.
q(n)=1/4n√(3)exp(π√(2n/3))
とおいて最も近い整数を求めてみると,
q(1)=2,q(2)=3,q(3)=4,q(4)=6,q(5)=9,q(6)=13,
q(7)=18,q(8)=26,q(9)=35,q(10)=48,q(11)=65,q(12)=87,・・・
となってそれほどよい評価式には思えませんが,漸近近似式はnがどんどん大きくなるとき0に近づくような誤差項を含んだ公式であって,p(n)は整数なので,この公式を使えばp(n)の値を正確に計算できるようになります.
その後,分割関数はラーデマッハーによって修正され,完全な明示公式
p(n)=1/π√(2)Σk^(1/2)Ak(n)d/dn{sinh(πλn√(2/3))/λn}
λn=√(n-1/24),Ak(n)には1の24乗根が関係する
が与えられました(1937年).πや√2,微分や虚数が登場するこの公式を見た所で,一体どこからこんなものが出てきたのか想像だにできません.
分割関数の母関数は本質的に保型形式を与えるというわけで,ラーデマッハーはその保型性から明示公式にたどりついたのですが,ハーディーとラマヌジャンはその第一近似式を得たことになります.このことに関して,セルバーグは,ハーディーとラマヌジャンが明示公式までたどりつけなかった原因はハーディーがラマヌジャンを十分に理解できなかったことによると興味深いコメントを述べています.
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オイラー数(オイラーの分割数)
f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)
=Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・
すなわち,Π(1-x^n)^(-1)は分割数p(n)の母関数なのですが,それと同様にして,ラマヌジャン数が定義できます.
f(x)=xΠ(1-x^n)^24=x{(1-x)(1-x^2)(1-x^3)・・・}^24
=Στ(n)x^n=τ(1)x+τ(2)x^2+τ(3)x^3+・・・
ラマヌジャンは,デデキントのイータ関数(重さ1/2をもつモジュラー関数),
η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n),q=exp(2πiz)
とおくと
Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n
zは虚部が正の複素数で,q=exp(2πiz)
を考え,そのフーリエ係数τ(n)を計算しました.
τ(1)=1,τ(2)=-24,τ(3)=252,τ(4)=-1472,τ(5)=4830,τ(6)=-6048,
τ(7)=-16744,τ(8)=84480,τ(9)=-113643,τ(10)=-115920,
τ(11)=534612,τ(12)=-370944,・・・
無限積をベキ級数に展開した式(フーリエ展開)が登場しましたが,このΔ(z)は,重さ12の保型形式
Δ(az+b/cz+d)=(cz+d)^12Δ(z)
と呼ばれるものになっていて,オイラーの五角数公式を拡張した24乗版と考えられます.
ラマヌジャン数は,オイラーの分割数のアナローグであり,
(1)mとnが素ならば,τ(m)τ(n)=τ(mn)
τ(2)*τ(3)=-6048=τ(6),τ(2)*τ(5)=-115920=τ(10)
τ(3)*τ(4)=-370944=τ(12),τ(2)*τ(9)=2727432=τ(18)
τ(4)*τ(5)=-7109760=τ(20),τ(3)*τ(7)=-4219488=τ(21)
(2)τ(p^(n+1))-τ(p^n)τ(p)=-p^11τ(p^(n-1))
(3)τ(n)=σ11(n)(nの約数の11乗の総和) (mod 691)
など驚くような性質をもっています.
このようにフーリエ係数がnに関して乗法的性質をもつ保型形式は,ヘッケ固有形式と呼ばれるものです.また,ラマヌジャンは保型形式を用いて,
Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240
Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)
を証明しています.ここで,πとωはそれぞれ,
π=2∫(0,1)1/√(1-x^2)dx=3.14159・・・(円周率)
ω=2∫(0,1)1/√(1-x^4)dx=2.62205・・・(レムニスケート周率)
です.
これらの等式は,積分表示
ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx
の離散化ともみることができますが,この式はコラム「プランク分布と量子化の概念」で紹介したプランク分布(Bose-Einstein統計)そのものです.
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また,ラマヌジャンはラマヌジャン数のゼータについて考え,ある予想をたてました.ラマヌジャン数のゼータ,すなわち,
L(s)=Στ(n)n^(-s) (タウ・ディリクレ級数)
とおくと(オイラー積のアナローグ)
L(s)=Π{1-τ(p)p^(-s)+p^(11-2s)}^(-1)
が成り立つことを予想したのです(1916年).
ラマヌジャン数のゼータは,歴史上最初の2次のゼータといえるのですが,新種のゼータに関するこの予想は,翌年,モーデルによって証明されました(1917年).
また,τ(p)はpが増加するとき,急激に増加するのですが,1974年,ドリーニュによって,ラマヌジャン予想(ハッセの定理のアナローグ),
|τ(p)|<2p^(11/2)
が証明されています.ラマヌジャン予想はギリギリの予想であって,たとえばpの指数を11/2=5.5からちょっと小さくして5.499としたとすると,|τ(p)|<2p^5.499とはならない素数pが存在するのです.
なお,佐藤予想のもとで
τ(p)=2p^(11/2)cosθp
とおくと,任意に固定された0≦a≦b≦πに対して,偏角θpが[a,b]となる素数密度は
2/π∫(a,b)sin^2θdθ
で与えられるだろうという予想がたてられています(セール,1968年).
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【2】重さ2の保型形式とラマヌジャン予想
デデキントのイータ関数,
η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n),q=exp(2πiz)
において,関数
F(z)=η(z)^2η(11z)^2
=qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2=q-2q^2-q^3+2q^4+q^5+2q^6-2q^7+・・・
=b(n)q^n,q=exp(2πiz)
を考えます.b(n)はF(z)のフーリエ係数です.
F(z)は,
ad-bc=1,c=0(mod 11)
なる任意の整数a,b,c,dに対して
F(az+b/cz+d)=(cz+d)^2F(z)
を満たします.このとき,F(z)は重さ2の保型形式をもつといいます.
また,F(z)のフーリエ係数b(n)を使って,ディリクレ級数
φ(s)=Σb(n)/n^s
を定義します.ディリクレ級数はリーマンのゼータ関数
ζ(s)=Σ1/n^s
を一般化したものです.
ラマヌジャンは,このとき,
L(s;E)=φ(s)
を予想しています.この予想は,1954年,アイヒラーが導手11の楕円曲線:y^2−y=x^3−x^2のゼータ関数と保型形式:F(z)=qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2のゼータ関数が,すべての素数に対して一致することを示すことによって解決されました(アイヒラー・井草).
アイヒラーが示したラマヌジャン予想「解析的ゼータ=代数的ゼータ」は,ゼータの統一の先駆けであったのですが,これは谷山予想(谷山・志村・ヴェイユ予想)の特別な場合であって,「Q上の任意の楕円曲線のL級数は重さ2の保型形式のヘッケL級数に等しい」という谷山予想は最近ワイルズらによって解かれました.
すなわち,ラマヌジャン予想・谷山予想は,ワイルズのフェルマー予想の証明(1995年)に至る大きなステップであって,20世紀の数論の原動力として重要な役割を果たしたといえるのです.また,オイラーの五角数定理は,左辺がイータ関数,右辺がテータ関数と呼ばれる保型形式の原型を与えていたので,19世紀には,
デデキントのイータ関数=ヤコビのテータ関数
すなわち,保型形式の間の等式と捉えられるようになりました.
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【3】重さ0の保型形式とムーンシャイン予想
SL(2,Z)群上,最も単純な(基本的・古典的)保型形式は重さkのアイゼンシュタイン級数
Ek=1/2Σ1/(mz+n)^k
m,nは互いに素,kは整数4,6,8,・・・(4以上の偶数)
です.すなわち,アイゼンシュタイン級数は変換公式
Ek(az+b/cz+d)=(cz+d)^kEk(z)
c,dは互いに素
を満たすというわけです.
保型性の定義から
Ek(z+1)=Ek(z)
Ek(-1/z)=z^kEk(z)
はすぐわかりますが,前者は周期性,後者は双対性と理解することができます.
Ek(z+1)=Ek(z) (周期性)
Ek(-1/z)=z^kEk(z) (双対性)
この保型性の定義は周期性f(x+1)=f(x)を含むので,任意の保型形式はq=exp(2πiz)とするフーリエ展開のもち,
E4(z)=1+240Σσ3(n)q^n
E6(z)=1−504Σσ5(n)q^n
E8(z)=1+480Σσ7(n)q^n
・・・・・・・・・・・・・・・・
σk(n)はnの正の約数のk乗和
ベルヌーイ数を用いると
Ek(z)=1−2k/BkΣσk-1(n)q^n
また,ζ(1-k)=−Bk/kにより
Ek(z)=1−2/ζ(1-k)Σσk-1(n)q^n
とも表されます.これらはすべてのσk(n)を教えてくれる母関数であり,それが保型性を示しているという事実が,モジュラー関数は深淵といわれる所以です.
アイゼンシュタイン級数を用いると
Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24
=q-24q^2+252q^3-1472q^4+5483q^5+・・・
は
Δ(z)=1/1732(E4(z)^3-E6(z)^2)
と表されます.
19世紀の後半,デデキントとクラインは独立に重さ0の保型関数
j(az+b/cz+d)=j(z)
を構成しました.j(z)は最も簡単でよく知られているSL(2,Z)不変な保型関数で,q=exp(2πiz)とおくと,
j(z)=E4(z)^3/Δ(z)
=1/q+744+196884q+21493760q^2+864299970q^3+・・・
と展開されます.
ところで,1973年,イギリスのケンブリッジ大学で誕生し,コンウェイによりモンスターと命名・愛称された散在型有限単純群モンスターを線形群の中に埋め込むとすると,最低でも196883次の行列GL(196883,R)が必要になります.
このモンスターの既約表現の次数dnと係数cnを小さい方から数個あげると
d0=1
d1=196883 c1=196884
d2=21296876 c2=21493760
d3=842609326 c3=864299970
となるのですが,j関数のq展開に現れる係数196884とモンスター群の既約表現の最小次数196883がほとんど等しいことに注目すると,q,q^2,q^3等の係数は
c1=d0+d1
c2=d0+d1+d2
c3=2d0+2d1+d2+d3
のようにモンスターの既約表現の簡単な線形結合となっていることを見いだされました.これは単なる偶然の一致なのでしょうか?
ムーンシャイン予想の出発点の出発点であるマッカイ・トンプソン予想,コンウェイ・ノートン予想には,このような不思議な事実がたくさん収集されています.しかし,後にボーチャーズが,現代物理学の弦理論にその原点をもつヴィラソロ代数(頂点作用素代数)を用いることによって,これは単なる偶然の一致ではなく,そこに何か真実が隠されていることをつきとめます.
ボーチャーズはその功績によりフィールズ賞を受賞するのですが,さらに,ボーチャーズは一般化されたカッツ・ムーディー・リー代数を導入して,マクドナルド恒等式を導いた論法を適用することにより,分母公式は
J(p)−J(q)=p^(ー1)Π(1−p^mq^n)^c(mn)
となることを示しました.この等式は19世紀のデデキントのイータ関数の変形のようでもあり,ヤコビの3重積公式
Σq^(m^2)y^m=Π(1−q^2n)(1+yq^(2n-1))(1−yq^(2n-1))
にも結びついています.
これにより,ムーンシャイン予想の一応の解決となったわけですが,ムーンシャイン予想は保型関数論のように古典的なものでもあり,また,物理学の弦理論のように新しいものでもあったというわけです.
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【4】3次の世界(重さ1の保型形式)
唐突ですが,3次式x^3−2の素因数分解
f(2)=2・3,f(3)=5^2,f(4)=2・31,
f(5)=3・41,f(6)=2・107,f(7)=11・31,
f(8)=2・3・5・17,f(9)=727,
f(10)=2・499,f(11)=3・443,
f(12)=2・863,f(13)=5・439,
f(14)=2・3・457,f(15)=3373,
f(16)=2・23・89
とデデキントのイータ関数(重さ1/2をもつモジュラー関数)を
η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n),q=exp(2πiz)
とおいたときの無限積
F(z)=η(6z)η(18z)
=qΠ(1-q^6n)^2(1-q^18n)^2=q-q^7-q^13+q^25+2q^31-q^37+2q^43-q^61-q^67-q^73-q^79+q^81-q^97-q^103-2q^109+q^121+2q^127+q^133-q^139-q^151+2q^157-q^163-q^175-q^181-q^193-q^199-q^211+・・・
=Σa(n)q^n,q=exp(2πiz)
の関係についてみてみましょう.a(n)はF(z)のフーリエ係数です.
F(z)=η(6z)η(18z)=Σa(n)q^n,q=exp(2πiz)
は重さ1の保型形式の1つになっていて,オイラーの五角数定理を使うと
η(6z)η(18z)=Σ(-1)^(m+n)q^{(6m+1)^2+3(6n+1)^2}/4=Σa(n)q^n
これより,
a(p)=0 ・・・p=2(mod3)
a(p)=2 ・・・p=1(mod3),p=x^2+27y^2
a(p)=-1・・・p=1(mod3),p≠x^2+27y^2
が得られます.このことから,p=3を除いてフーリエ係数が0になるのはp=3n+2型素数,フーリエ係数が2になるのはp=3n+1型素数に限られることがわかります.
ここで(すべてのフーリエ係数a(n)を眺めるのではなく)0と2の項だけを注目します.するとq^pの指数pで100以下のものだけをあげますが,
2,3,5,11,17,23,29,31,41,43,47,53,59,71,83,89
となっています.これらはすべてx^3−2の素因数になっているのですが,実際,両者は完全に一致するのです.
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【5】有限体上の楕円曲線とL関数
まず,整数を法pで考えた有限体Fpの上の3次方程式の群の位数について考察します.係数をFpにもつ3次方程式
y^2=x^3+ax+b=f(x)
を考えて,非特異であるための必要十分条件は,p≠2,かつ,Fpの元として(mod pで)
2^2a^3+3^3b^2≠0
です.
一般論に進む前に,具体例を掲げておきましょう.たとえば,整数aに対して,
x^2=a modp
となる整数xが存在するかどうかを考えると
Z/pZ=Fp={0,1,・・・,p−1}
について代入してみればいいわけで,p=5の場合,
0^2=0,1^2=1,2^2=4,3^2=9=4,4^2=16=1
ですから,a=1,4(mod5)のときは平方剰余,a=2,3(mod5)のときは平方非剰余,すなわち,
(1/5)=(4/5)=1,(2/5)=(3/5)=−1
となります.
したがって,有限体F5上の非特異3次曲線
y^2=x^3+x+1=f(x)
について,
f(0)=1(平方剰余) → y=±1
f(1)=3(平方非剰余)
f(2)=11=1(平方剰余) → y=±1
f(3)=31=1(平方剰余) → y=±1
f(4)=69=4(平方剰余) → y=±2
ですから,無限遠点を含めて9つの点が見つかります.可換群の構造が入るのは,有限体Fpにおいても同様で,この場合,位数9の可換群となります.
一般のFpについて,Fp={0,1,・・・,p−1}を方程式:y^2=f(x)に代入してみましょう.すると
(1)f(x)=0なら1つだけの解y=0がある.
(2)f(x)≠0ならf(x)のとり得る0でない値の半分に対して,yとして2つの解がある.したがって,
C:y^2=x^3+ax+b=f(x)
の有限体Fpにおける群の位数(元の個数)#E(Fp)は,f(x)の値が平方と非平方に均等に分布していれば,およそp+1個の点が期待できます.
よって,解の個数は,
#E(Fp)=p+1+(誤差項)=p+1+Mp
の形になることがわかります.
c(p)=−Mp
で定義することにしますが,次の関数
L(s;E)=Π(1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s))^(-1)
を楕円曲線EのL関数といいます.
この積Πは11以外のすべての素数をわたるのですが,素数をまとめあげたものを「ゼータ」と呼ぶことにすると,2次のゼータになっていることがわかります.すなわち,歴史上最初のゼータであるオイラー積
ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
は積の中身がp^(-s)の1次式であり,本質的には1次のゼータでしたが,L関数では,p^(-1)の1次式から2次式に進化しているのです.
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【6】3次の世界(重さ2の保型形式)
ここでは,4x^3−4x^2+1の場合についてみてみます.前述の導手11の楕円曲線:y^2−y=x^3−x^2を変形すると
(2y−1)^2=4x^3−4x^2+1
より,楕円曲線:y^2=4x^3−4x^2+1が得られます.
また,前述したように
F(z)=η(z)^2η(11z)^2=Σb(n)q^n,q=exp(2πiz)
とおくと
η(z)^2η(11z)^2=qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2
=qΠ(1-q^2n)(1-q^22n) (mod2)
は重さ2の保型形式になっています.
オイラーの五角数定理より
η(z)^2η(11z)^2=Σ(-1)^(u+v)q^{(6u+1)^2+11(6v+1)^2}/12
=Σq{(6u+1)^2+11(6v+1)^2}/12
=q-2q^2-q^3+2q^4+q^5+2q^6-2q^7+・・・=Σb(n)q^n
これより
b(p)=0(mod2)・・・(−11/p)=−1
b(p)=0(mod2)・・・(−11/p)=1かつp=x^2+11y^2
b(p)=1(mod2)・・・(−11/p)=1かつ3p=x^2+11y^2
が得られます.ここで11は導手と関係しています.
ここで,導手11の楕円曲線:y^2=4x^3−4x^2+1を2次元射影平面P^2(Fp)内で考えます.そして,F(z)のフーリエ係数b(n)を使って,ディリクレ級数
φ(s)=Σb(n)/n^s
を定義します.
ラマヌジャンは,このとき,オイラー積のアナローグであるL関数について
L(s;E)=Π(1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s))^(-1)=φ(s)
を予想しています.ここで積は11以外のすべての素数をわたるものとします.この予想は,1954年,アイヒラーが楕円曲線のゼータ関数と保型形式:F(z)=qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2のゼータ関数が,すべての素数に対して一致することを示すことによって解決されました(アイヒラー・井草).これは谷山予想の特別な場合になっています.
なお,
(1)mとnが素ならば,b(m)b(n)=b(mn)
(2)b(p)=p+1 (mod5),p≠5
(3)b(n)=τ(n) (mod11)
1-q^11n=(1-q^n)^11 (mod11)
(4)|b(p)|<2p^(1/2) (ハッセの定理)
また,同じ問題を
F(z)=η(2z)η(22z)=qΠ(1-q^2n)(1-q^22n)
=Σ(-1)^(u+v)q^{(3u^2+u)^2+11(3v^2+v)}=Σc(n)q^n
から眺めることもできるようです.その場合,
c(p)=0 ・・・(−11/p)=−1
c(p)=2 ・・・(−11/p)=1かつp=x^2+11y^2
c(p)=-1・・・(−11/p)=1かつ3p=x^2+11y^2
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【7】4次の世界
x^4−2x^2+2の場合は複雑なので結果だけを示しておきます.
F(z)=η(8z)η(16z)
=Σ(-1)^(u+v)q^{(4u+1)^2+16v^2
=Σd(n)q^n,q=exp(2πiz)
とおくと
d(p^n)=e^n・(-1)^(p^n-1)/2・(n+1),e=2^(n-1)/2 (mod2)・・・p=1 (mod8)
d(p^2n)=(-1)^n・・・p=3 (mod8)
d(p^2n)=1・・・p=5,7 (mod8)
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