ゼータ関数は,オイラーの積表示
ζ(s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
を通して素数分布=#{n|素数p≦x}の問題に関係してきます.
オイラーはオイラー積表示の関係式を用いて,素数が無限個あること,しかも自然数の中で相当な割合で現れるという事実を証明をしたのですが,これはギリシャ数学の単なる別証ではなく,その後の数学の発展に繋がるものだったのです.
そして,有名な素数定理(PT)は,漸近分布の形で
π(x)〜x/logx
と表すことができます.素数は無限個存在し,そして等差数列{a+kn}にも素数は無限に含まれるのですが,素数pでa+knの形のものの分布問題がディリクレの算術級数定理です.
π(x;a,n)〜C・x/logx C=1/φ(n)
算術級数定理は素数定理を精密化したもので,初項aの取り方にはよらないのですが,ここで,オイラーの関数φ(n)は1からn−1までの整数のうち,nと互いに素になるものの個数
φ(n)=#(Z/nZ)
として定義されます.たとえば,n=7の場合,1,2,3,4,5,6なのでφ(7)=6,n=10の場合1,3,7,9がそうなのでφ(10)=4となります.
1760年頃,オイラーは,数nが素因数p,q,r,・・・をもつときに,それらの重複度にかかわらず,
φ(n)=n(1−1/p)(1−1/q)(1−1/r)・・・
であることを示しました.この原理は「エラトステネスのふるい」によっているのですが,たとえば,10=2・5,44=2^2・11,100=2^2・5^2より,
φ(10)=10(1−1/2)(1−1/5)=4
φ(44)=44(1−1/2)(1−1/11)=20
φ(100)=100(1−1/2)(1−1/5)=40
また,任意の素数pに対して,
φ(p^n)=p^n(1−1/p)
したがって,
φ(p)=p(1−1/p)=p−1
となります.
なお,算術級数定理の証明にはディリクレのL関数
L(s,χ)=Π(1−χ(p)p^(-s))^(-1)
χは乗法群(Z/nZ)の1次元表現
が用いられます.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ところで,連続する合成数を与える1次式として,いま長さ100のものが欲しいとすると101!を考えます.nを2から101までのどれかだとすると,101!+nはnで割り切れることになります.したがって,
101!+2,101!+3,・・・,101!+101
は2,3,・・・,101を因数にもつので素数を含まない連続した100個の数列になります.すなわち,
f(x)=101!+x
は合成数生成式となります.
それとは逆に,前回のコラムでは1次式:ax+pや2次式:x^2+x+qが連続した素数値をとる場合についてみてまいりましたが,とくに2次式の場合,2次体の類数との関係が注目されました.
また,1次式ax+bは,aとbが互いに素であるとき,無限に多くの素数を含むことが知られています(ディリクレの算術級数定理).しかし,2次以上では,たとえばx^2+1のような簡単な2次式ですらその中に素数が無限にあるかどうかわかってはいません.今回のコラムでは
[参]清水健一「詩で語る数論の世界」プレアデス出版
にしたがって,1次の世界と2次の世界の違いをみていくことにします.
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【1】1次の世界
1次式f(x)=ax+b(aとbは互いに素)を素因数分解してみることにしましょう.a=4,b=1の場合について調べてみますが
f(1)=5,f(2)=3^2,f(3)=13,f(4)=17,
f(5)=3・7,f(6)=5^2,f(7)=29,
f(8)=3・11,f(9)=37,f(10)=41,
f(11)=3^2・5,f(12)=7^2,f(13)=53,
f(14)=3・19,f(15)=61
ここに現れている最大の素因数は61ですが,
2,23,31,43,47,59
は素因数として現れていません.しかし,xを大きくしていくと2以外の素数はやがて現れることになります.いつまでたっても2が現れないのは4x+1が奇数だからです.
f(x)=6x+1では2や3は現れません.一般的にいうと,1次式f(x)=ax+b(aとbは互いに素)を素因数分解すると,素因数としてaの約数以外の素数はすべて現れます.
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【2】2次の世界
2次式f(x)=x^2+1について同様に素因数分解してみます.
f(1)=2,f(2)=5,f(3)=2・5,f(4)=17,
f(5)=2・13,f(6)=37,f(7)=2・5^2,
f(8)=5・13,f(9)=2・41,f(10)=101,
f(11)=2・61,f(12)=5・29,
f(13)=2・5・17,f(14)=197,
f(15)=2・113
100以下の素数で現れていないのは,3,7,11,19,23,31,43,47,53,67,71,73,79,83,89,97ですが,53,73,89,97はやがて現れます.しかし,
3,7,11,19,23,31,43,47,67,71,79,83はxを大きくしていっても永久に現れてきません.
たとえば,x=3n,3n+1,3n+2と分けて考えれば,x^2+1が3で割り切れないことを簡単に示すことができます.
x^2+1=(3n+k)^2+1=3(3n^2+2kn)+k^2+1
k=0,1,2→k^2+1=1,2,5は3で割り切れない
他の素数7,11,・・・,83についても同様に証明することができます.しかし,これをすべての素数について確かめるのは大変です.
素数pが素因数となり得るかどうかを見分ける強力な判定法として,
「f(1),f(2),・・・,f(p)の素因数として現れなければ,f(x)の素因数になり得ない」
というものがあります.3はf(1),f(2),f(3)に素因数として現れないし,7はf(1),f(2),・・・,f(7)に現れないことから素因数とはなり得ないのです.
この原理は平方剰余の相互法則のよっていて,すなわち,
x^2=a (modp)
であって,x^2+1の場合,素因数になる素数は(2を除いて)4n+1型素数のみであり,4n+3型素数は素因数とはなり得ない(第1補充法則)ことも理解されます.一般に,素数pがx^2+c^2を割り切るには2cの素因数を例外として,p=1 (mod4)であることが必要かつ十分で,その場合,pは2つの平方の和p=a^2+b^2として表されます.
ともあれ,2次式の世界では素因数として現れない素数はたくさんあります.1次式の世界では(自明な素数を除いて)すべて素数が現れるわけですから,両者はまったく事情の異なる世界であることがわかりました.
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【3】平方剰余の相互法則
(a/p)=+1 ←→ aがpを法とする平方剰余
(x^2=a modpなる整数xが存在するとき)
(a/p)=−1 ←→ 平方非剰余(そうでないとき)
と定義します.
たとえば,整数aに対して,
x^2=a modp
となる整数xが存在するかどうかを考えると
Z/pZ=Fp={0,1,・・・,p−1}
について代入してみればいいわけで,p=5の場合,
0^2=0,1^2=1,2^2=4,3^2=9=4,4^2=16=1
ですから,a=1,4(mod5)のときは平方剰余,a=2,3(mod5)のときは平方非剰余,すなわち,
(1/5)=(4/5)=1,(2/5)=(3/5)=−1
となります.
(a/p)=a^{(p-1)/2} (mod p) (オイラー規準)
(−1/p)=(−1)^{(p-1)/2},p≠2 (第1補充法則)
(2/p)=(−1)^{(p^2-1)/8},p≠2 (第2補充法則)
すなわち,オイラー規準において,(−1/p)に関するものが第1補充法則,(2/p)に関するものが第2補充法則と呼ばれます.
クロネッカーの指標やディリクレの指標はルジャンドル記号の計算に還元されるのですが,オイラー規準は法pに関するa^{(p-1)/2}の剰余を求めなければならないため,pが大きいとき(a/p)を決定するのはかなり大変です.
それに対して,
(q/p)(p/q)=(−1)^{(p-1)/2}{(q-1)/2}
が有名なガウスの平方剰余の相互法則です.
前述のように(p/5)は簡単に計算されますが,その際,(5/p)すなわちx^2=5(modp)なる整数xがあるかどうかについてもわかるというのが平方剰余の相互法則なのです.(a/p)はガウスの相互法則を用いてすばやく計算することができます.
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【4】2次式と楕円曲線
楕円曲線:y^2=x^3+xと2次式x^2+1の素因数の関係をみてみましょう.
ap=Σ((x^3+x)/p)
(・)はルジャンドル記号,x=0〜p−1
と定義してapを計算すると
a3=0,a5=2,a7=0,a11=0,a13=−6,a17=2,a19=0,
a23=0,a29=10,a31=0,a37=2,a41=10,a43=0,
a47=0,a53=−14,a59=0,a61=10,a67=0,a71=0,
a73=−6,a79=0,a83=0,a89=10,a97=18
ap=0となる奇の素数
p=3,7,11,19,23,31,43,47,67,71,79,83
はx^2+1の素因数にはならない,逆に,ap≠0となる
p=5,13,17,29,37,41,53,61,73,89,97
はいずれ素因数として現れてきます.
また,もうひとつの特徴としてx^2+1自身が奇の素数となる
p=5,17,37
では,すべてap=2となっていることも見てとれます.このような素数が楕円曲線:y^2=x^3+xと関係するのは本当に不思議に感じられます.
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【5】2次体の整数
有理数体Qに,x^2−d=0の根√dを添加して得られる体Q(√d)を考えます.すると0,1以外の平方因数をもたない整数d,すなわち,
−1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・
によって,Q(√d)は体になり,2次体Q(√d)の元は一意的に
Q(√d)={a+b√d|a,bは有理数}
の形で表されます.
d>0のとき実2次体,d<0のとき虚2次体と呼ばれますが,とくにd=−1のとき
Q(√−1)=Q(i)
はガウスの数体となります.ガウスの数体Q(i)の場合でいうと,a,bを整数として
a+bi
で表される複素数が「ガウスの整数」です.
2次体の整数の定義は,dの値によって異なり
[1]d=2,3(mod4)のとき
a+b√d (a,bは半整数)
[2]d=1(mod4)のとき
a+b(1+√d)/2
で定義されます.
Q(√−3)における整数がアイゼンスタインの整数です.アイゼンスタインの整数はωを1の虚立方根
ω=(−1+√−3)/2
とし
a+bω
と書くことができます.ガウス整数にはx^2+1=0が対応しているわけですが,それに対して,アイゼンスタインの整数にはx^2+x+1=0の根です.
2次体Q(√d)において,
d=2,3(mod4) → ω=√d
d=1(mod4) → ω=(1+√d)/2
とすると,代数的整数の集合
Z(ω)={a+bω|a,b,は整数}
は,加法および乗法に関して閉じて環になります.このZ(ω)を2次体Q(√d)の整数環と呼びます.たとえば,ガウスの整数は和と積の演算に関して閉じています→「ガウスの整数環」.
Q(√−1) → Z(i)
Q(√−3) → Z(ω)
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【6】2次体の素数
Q(√−1)=Q(i)の世界では
2=(1+i)(1−i)=i(1−i)^2
5=(1+2i)(1−2i)
29=(5+2i)(5−2i)
のように分解されるので,これらはもはや「素数」ではなくなります.
2および4k+1型素数はガウス素数の積に分解されます.4k+1型の素数は
p=a^2+b^2=(a+bi)(a−bi)
と分解されるので素数ではなくなるというわけです.
また,1+2iや1−2iはガウス素数です.たとえば,1+2iが
1+2i=(a+bi)(c+di)
と素数の積に分解できたとすると,両辺に共役複素数
1−2i=(a−bi)(c−di)
をかけると
5=(a^2+b^2)(c^2+d^2)
となり,
(a^2+b^2,c^2+d^2)=(1,5),(5,1)
が成り立たなければなりませんが,このうち一方は単数になってしまいます.
このとき,
5=(2+i)(2−i)
のような素因数分解ができるので,素因数分解が一意ではないという疑問を生じますが,実は
2+i=i(1−2i),2−i=i(1+2i)
のように単数だけの違いになってしまいます.このような理由から1+2iや1−2iはガウス素数といえるのです.
素数は複素数体でも定義されますが,数論の教えるところによると,複素数体においても,単数を除いて,素因数分解の一意性が成立します.すべてのガウス整数を約す整数が「単数」で,
±1,±i
の4個の単数があります.
それに対して,4k+3型素数はやはりガウス素数です.たとえば3が
3=(a+bi)(c+di)
と素数の積に分解できたとすると,両辺に共役複素数
3=(a−bi)(c−di)
をかけると
9=(a^2+b^2)(c^2+d^2)
となり,
(a^2+b^2,c^2+d^2)=(3,3),(1,9),(9,1)
が成り立たなければなりません.しかし,(3,3)を満たす整数は存在しませんし,(1,9),(9,1)では一方が単数となってしまいますから,3は素数といえるわけです.
アイゼンスタインの整数の場合にもやはり素因数分解の一意性が成立します.2および6k+5型素数はアイゼンスタイン素数ですが,3および6k+1型素数はアイゼンスタイン素数の積に分解されます.
3=(1−ω)(1−ω^2)=(1+ω)(1−ω)^2=(1−ω)(2+ω)
37=(4−3ω)(4−3ω^2)=(4−3ω)(7+3ω)
アイゼンスタインの整数には,6つの単数
±1,±ω,±ω^2
があり,正六角形の対称性をもちます.
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【7】2次体の類数
Q(√−1)やQ(√−3)では,(単数を除いて)素因数分解は一意ですが,どんな2次体でも素因数分解の一意性が成立するわけではありません.
たとえば,Q(√−5)では
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
のように,素数の積に2通りに表されるような状況を生じてしまうのです.
(2,3は素数であるし,1+√−5,1−√−5はいずれも
a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」である.)
2=(a+b√−5)(c+d√−5)
1+√−5=(a+b√−5)(c+d√−5)
いずれの場合も両辺に共役複素数をかけると
4=(a^2+5b^2)(c^2+5d^2)
(a^2+5b^2,c^2+5d^2)=(2,2),(1,4),(4,1)
それでは,どういう負の数−dを使った数体系Q(√−d)で,素因数分解は一意となるのでしょうか? この答えは既に知られていて,次の9つの虚2次体Q(√d)
−d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
に限られるというものです(ベイカー・スタークの定理).最初の2つ以外では半整数a,bを使って,a+b√−dを作る必要があることはおわかりでしょう(=1(mod4)).
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