多面体の木工製作法の基本は「切頂法」と「切稜法」です.しっかりした足場を確保しつつ切頂と切稜の順番をうまく組み合わせること,そして切頂と切稜で削る深さをうまく調節することによってこれらを多面体を作り出します.そこに木工の難しさと面白さがあります.
[参]一松信「正多面体を解く」東海大学出版会
に書かれてある準正多面体の分類を木工的な視点からリアレンジして掲げると,準正多面体は
1.切頂型
a)非中点切頂型・・・切頂四面体,切頂立方体,切頂八面体,切頂十二面体,切頂二十面体
b)中点切頂型・・・立方八面体,12・20面体
2.切頂・切稜型
a)切頂優位型・・・大菱形立方八面体,大菱形12・20面体
b)切稜優位型・・・小菱形立方八面体,小菱形12・20面体
3.ねじれ型・・・ねじれ立方体,ねじれ12面体
に分類されます.
「切頂型」では切頂の深さが正多面体の頂点と辺の中点との間にあるもの(あるいは同じことですが双対正多面体の辺の中点を越えたもの)が非中点型,辺の中点にあるものが中点型です.「切頂・切稜型」は切稜多面体に切頂を加えたもので,相対的に頂点と辺のどちらを深く削るかによって切頂優位型と切稜優位型に細分されます.「ねじれ型」とは奇妙な名前ですが,ある頂点を取り囲む3つの面の対角線の長さが等しい切頂・切稜型立体を中間的に作り,最終的にはそれをさらに削って仕上げます.
これで13種類ということになりますが,いささか注釈が必要です.小菱形立方八面体には八角鉢状の上蓋を45°ねじった形(ミラーの多面体)も考えられます.また,2つのねじれ型には3次元空間で鏡像をなすものが考えられます.これらを含めることにすれば16種類になるのです.
すでに中川宏さんの手によってすべての正多面体・準正多面体の木工模型が完成しています.今回のコラムではこれらのなかから切頂・切稜型の計量について考えてみることにします.
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【1】切稜型および切頂型多面体の(F,E,V)
p角形面およびq稜頂点をもつ正多面体をシュレーフリにしたがって(p,q)で表すことにしましょう.また,凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとします.
多面体の切稜によって,辺は六角形面に,q本の辺の会する頂点はq角錐になります.一般に正多面体は(p,q),(v,e,f)で表されるわけですが,このことから,正多面体の切稜多面体(V,E,F)は
F=f+e
E=2e+qv
V=v+qv
で表されることがわかります.ただし,切稜の深さは正多面体の頂点と辺の中点との間にあり辺の中点を越えないものとします.
たとえば,立方体では(p,q)=(4,3),(v,e,f)=(8,12,6)ですから,その切稜多面体は
F=18,E=48,V=32
となります.もちろん切稜後もオイラーの多面体公式
V−E+F=v−e+f=2
は成り立ちます.
それに対して,正多面体(p,q),(v,e,f)の切頂正多面体の(V,E,F)は,頂点が正q角形,面が2p角形の[q,2p,2p]型となり
F=f+v
E=e+qv
V=qv
で表されることがわかります.切頂立方体の場合は
F=18,E=36,V=24
切頂の深さが辺の中点にある場合は頂点が正q角形,面が正p角形の[p,q,p,q]型,また,切頂の深さが辺の中点を越える場合は頂点が2q角形,面が正p角形の[p,2q,2q]型となりますが,
F=f+v
E=e+qv
V=qv
という関係はそのまま保たれます.辺の中点を越える場合は,双対正多面体(q,p)の辺の中点を越えない切頂型を考えれば同じことになります.
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【2】切頂・切稜型多面体の(F,E,V)
切稜優位型とは,切稜多面体のq角錐を根本のところで切り落としたものを指します.切り落としによってそこには正q角形ができますから[4,p,4,q]型の多面体となります.
F=f+e+v
E=2e+qv=2e+qv
V=v+qv−v=qv
立方体の場合は(p,q)=(4,3),(v,e,f)=(8,12,6)ですから,この多面体(小菱形立方八面体)は
F=26,E=48,V=24
正12面体の場合は(p,q)=(5,3),(v,e,f)=(20,30,12)ですから,小菱形12・20面体では
F=62,E=120,V=60
切頂優位型,すなわち,さらに深く切頂すると[4,2p,2q]型の多面体になります.
F=f+e+v
E=2e+qv+qv=2e+2qv
V=qv+qv=2qv
立方体の場合,この多面体は大菱形立方八面体であって
F=26,E=72,V=48
正12面体の場合,この多面体は大菱形12・20面体であって
F=62,E=180,V=120
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【3】切頂・切稜型多面体の計量
切頂・切稜型多面体の(F,E,V)がわかったところでとりたてて面白味はありませんから,もっと計量的な取り扱いをしてみましょう.
まず,切頂優位型(切稜多面体のq角錐の根本よりも深く切頂する場合)について説明しますが,
[参]一松信「正多面体を解く」東海大学出版会
にしたがって,もとになる立体の1辺の長さをa,切稜パラメータをx,切頂パラメータをyとおくと,
(1)2p角形面と4角形面に挟まれる辺の長さは
b=a+2xcos(2π/p)−2x−2y
(2)2p角形面と2q角形面に挟まれる辺の長さは
c=2ycos(π/p)
(3)4角形面と2q角形面に挟まれる辺の長さは
d=2xcos(π/p)
で与えられます.
また,正多面体のある頂点から隣接する頂点までの距離のどのくらいを切稜,切頂するのか,その切稜率をs,切頂率をtとおくと
sa=x,ta=2x+y (0≦s≦0.5,0≦t≦1)
ですから
x=sa,y=(t−2s)a
準正多面体になるための条件は,b=c=dですから
1+2scos(2π/p)−2s−2t+4s
=2(t−2s)cos(π/p)
=2scos(π/p)
より
t−2s=s → t=3s
これを代入すると
1+2scos(2π/p)−4s=2scos(π/p)
となり,
s=1/(4−2cos(2π/p)+2cos(π/p))
したがって,p=4(立方体)では
s=1/(4+√2),t=3s
p=5(正12面体)では
s=1/5,t=3s
となることがわかります.
もし,四角形面が黄金長方形になるようにしたいならば
b/d=τまたは1/τ
を解けばよいことも理解されます.
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切稜優位型(根本で切頂する場合)では,y=0ですから
b=a+2xcos(2π/p)−2x
d=2xcos(π/p)
準正多面体では,b=dより
1+2scos(2π/p)−2s=2scos(π/p)
s=1/(2−2cos(2π/p)+2cos(π/p))
したがって,p=4(立方体)では
s=1/(2+√2),t=2s
p=5(正12面体)では
s=1/3,t=2s
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さらに,切頂型多面体では,x=0(s=0)とおいて
b=a−2y
c=2ycos(π/p)
準正多面体では,b=cより
1−2t=2tcos(π/p)
t=1/(2+2cos(π/p))
したがって,p=4(立方体)では
t=1/(2+√2)
p=5(正12面体)では
t=2/(5+√5)
となることもわかります.
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【4】雑感
正多面体は(p,q)でパラメトライズできますから,準正多面体に関する諸計量値は(p,q)で表すことによって一般化できます.
コラム「正多面体の木工製作(その5)」では,式(1)(2)(3)を使ってねじれ型の木工製作法を検討しましたが,実際,式(1)(2)(3)はパラメータを変えることで切頂型にも切頂・切稜型にも,そしていろいろな場面で使えて非常に便利な式となっています.
x,yではなく,切稜率をs,切頂率をtとおいた理由は正多面体の面にあらかじめ切稜線,切頂線を描くことを考えたからなのですが,それで本当に作りやすくなっているのかどうかはわかりません.しかし,たとえば切頂優位型では元になる正多面体の如何によらずt=3sが成り立つなどの性質が明らかになるという利点があります.
なお,(その5)で行った[3,3,3,3,p]のねじれ型のための計算をx,yからs,tにリパラメトライズしてやり直すならば,
(4)2p角形面の対角線の長さの2乗
b^2+c^2-2bccos(π(p-1)/p))
=a^2{(1+2scos(2π/p)+2s-2t)^2+(2(t-2s)cos(π/p))^2-2(1+2scos(2π/p)(2(t-2s)cos(π/p))cos(π(p-1)/p))}
(5)4角形面の対角線の長さの2乗
b^2+d^2=a^2{(1+2scos(2π/p)+2s-2t)^2+(2scos(π/p))^2}
(6)6角形面の対角線の長さの2乗
c^2+d^2+cd
=a^2{(2(t-2s)cos(π/p))^2+(2scos(π/p))^2+2(t-2s)cos(π/p)2scos(π/p)}
より(4)=(5)=(6)となるs,tを求めます.
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