■エアリー関数の漸近挙動
パンルヴェはある種の2階常微分方程式が50の型の分類できっることを示した.このうち44型は初等関数および特殊関数によりその解を表現することができるが,残りの6型は新種の超越関数(パンルヴェ超越関数)であった.
たとえば,交差項xyをもつ微分方程式:
y”=xy
は複素平面上の無限遠点に不確定特異点をもつ常微分方程式であるが,線形化され,エアリー関数(過剰虹の計算に現れる特殊関数)Ai(x),Bi(x)が解となる.
Ai(x)=1/π∫(0,∞)cos(1/3t^3+xt)dt
であるが,この積分は虹の理論において導入されたため虹積分と呼ばれることもある.
===================================
エアリーが,物理光学の面から虹の説明を論ずるために導入したエアリー関数
Ai(x)=∫(0,∞)cos{π/2(t^3−xt)}dt
は収束が悪いために,数値計算は困難である.エアリー自身はいろいろなxに対する値を区分求積法で数値積分したのだが,大変な手間であった.
13年後の1849年にエアリーは,ド・モルガンが発見したエアリー関数のテイラー展開
∫(0,∞)cos(t^3−xt)dt=π/3[Σ(−x)^3k/k!Γ(k+2/3)−Σ(−x)^(3k+1)/k!Γ(k+4/3)]
を用いて,自分の計算をより精密にしているが,物理的には特に新しいことはない.
その後,ストークスは,エアリー関数が解となる微分方程式
y”=xy
を利用して,実数のパラメータxを複素平面全体に拡げ,エアリー関数の零点その他の詳しい性質を調べた.その結果,エアリー関数は,
∫(0,∞)cos(t^3−xt)dt=π/3√(π/x)[J1/3(2x^3/2/3^3/2)−J-1/3(2x^3/2/3^3/2)]
のように,±1/3次のベッセル関数で表現できることがわかった.このことによって,数値計算の手間が大幅に削減されたことが容易に想像できよう.
ストークスの研究は,xが大きいときのエアリー積分の漸近挙動を調べるといった今日の漸近解析のはしりであって,現代の解析学に直結し,常微分方程式論の中に「複素平面上の無限遠点に不確定特異点をもつ常微分方程式」という分野を生み出した.
今日では,エアリー関数は,
∫(0,∞)cos(t^3−xt)dt=π/3√(π/x)[J1/3(2x^3/2/3^3/2)−J-1/3(2x^3/2/3^3/2)]
のように,±1/3次のベッセル関数で表現できることがわかっている.
ベッセル関数は三角関数に似た増減関数で,とくに,半整数次のベッセル関数は三角関数で表現できるわかりやすい関数である.
J1/2=√(2/πx)sinx
J-1/2=√(2/πx)cosx
しかし,三角関数の零点が一定の幅で規則正しく並ぶのに対して,任意の次数のベッセル関数の零点は単純にある値の整数倍とはいかない.
===================================
この式からその振る舞いを知ることは難しいので,(得られている解ではなく)微分方程式じたいのx→∞における漸近解のx→∞における振る舞いを初等関数で表現してみよう.
x→∞におけるエアリー関数
Ai(x)=1/π∫(0,∞)cos(1/3t^3+xt)dt
Ai(x)〜exp(−3/2x^(3/2)/3)/2π^(1/2)x^(1/4)
Bi(x)〜exp(3/2x^(3/2)/3)/π^(1/2)x^(1/4)
Ai(−x)の極限形は
Ai(−x)〜cos(2x^(3/2)/3−π/4)/π^(1/2)x^(1/4)
===================================
同様に,
y”+ax^2y=0
の一般解は1/4次のベッセル関数
y=√x(AJ1/4(√a/2・x^2)+BY1/4(√a/2・x^2))
ですが,この式からその振る舞いを知ることは難しいので,(得られている解ではなく)微分方程式じたいのx→∞における漸近解のx→∞における振る舞いを初等関数で表現してみると,三角関数
y=1/√x(Asin(√a/2・x^2)+Bcos(√a/2・x^2))
を得ることができる.
なお,ベッセル関数Ja(x)の極限形は
Ja(x)〜(2/πx)^(1/2)cos(x−πa/2−π/4)
===================================
フランスの数学者ポール・パンルヴェはパンルヴェ方程式と呼ばれる微分方程式に名を残す偉大な数学者であったのですが,それと同時に著名な政治家でもありました.数学から政治に転じ,そのために多くの時間を奪われるようになったことは惜しまれるところですが,衆議院議長の要職にあっても,週に2回はソルボンヌで流体力学の講義をしていたというから驚かされます.
このような偉大な業績を残した数学者が,3度フランスの首相の就任したのですが,数学者の首相就任は他に例を見ない珍奇な歴史的事実です.
大統領候補に立って落選しましたが,彼は初めは物理学者として後には航空相として航空界の発展にも偉大な貢献をしていて,ライト兄弟がパリの空を飛行したときの最初の乗客であったり,大西洋横断をはたしたリンドバーグと一緒に写った写真も残されているそうです.
===================================