■特殊な形の行列式(その2)

 グラフの隣接行列では,結ぶ辺の有無を(0,1)で表したものが一般的である.すなわち,

  結ぶ辺があるとき・・・1

  結ぶ辺がないとき・・・0

  それ自身のとき・・・・0

であるが,この場合については次回のコラムで取り上げることにし,今回のコラムではディンキン図形の場合について話をしたい.

 ディンキン図形の場合は,隣接行列の要素bijを,

  それ自身のとき・・・・2

  結ぶ辺があるとき・・・1

  結ぶ辺がないとき・・・0

と定める.

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【1】隣接行列式とディンキン図形

 単純リー群には9つの型がある.それらはA,B,C,Dと名づけられた4つの古典群とE6,E7,E8,F4,G2と名づけられた5つの例外群である.

 リー型の単純群は,4つの古典群,5系列の例外群,さらにそのうちで対称性をもつA,D,E6,D4の4系列,疑似対称性をもつB2,G2,F4の3系列で16系列,素数位数の巡回群と交代群も含めて総計18系列に細分される.

  ・−・・・・・−・  (An:n≧2のとき位数2の自己同型がある)

         /

  ・−・・・・・    (Dn:n≧4のとき位数2の自己同型がある)

         \

          ・

      3

     /

  1−2    (D4:位数3の自己同型がある)

      4

      4

      |

  1−2−3−5−6  (E6:位数2の自己同型がある)

  1=2 (B2)  1≡2 (G2)  1−2=3−4 (F4)

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 例えば,A3型,D4型,E8型のディンキン図形は,

      3         1−2−3  (A3 )

     /                             

  1−2   (D4 )        4              

     \              |              

      4         1−2−3−5−6−7−8  (E8 )

となる.

 そして,ディンキン図形に基づいて,隣接行列の要素bijを,

  それ自身のとき・・・・2

  結ぶ辺があるとき・・・1

  結ぶ辺がないとき・・・0

と定める.

 極大格子の隣接行列B={bij}では,要素が内積bi↑・bj↑からなるグラミアンによって定義される.その際,n次元平行多面体(平行2n面体)の基底となるn個のベクトルbkはすべて長さ√2,biとbjが隣り合うときは2つのベクトルは角度60°で交わり(内積=1),隣り合わないときは直交すること(内積=0)を意味している.角度が60°のことを隣り合うといっているわけで,そのため,隣接行列は(0,1,2)で表されることになる(隣接行列の定義は文献によって異なる場合があるので注意を要する).

 そうすれば,A3型,D4型,E8型に対応する隣接行列式|B|は,それぞれ

  |2 1 0|   |2 1 0 0|

  |1 2 1|   |1 2 1 1|

  |0 1 2|   |0 1 2 0|

            |0 1 0 2|

  |2 1 0 0 0 0 0 0|

  |1 2 1 0 0 0 0 0|

  |0 1 2 1 1 0 0 0|

  |0 0 1 2 0 0 0 0|

  |0 0 1 0 2 1 0 0|

  |0 0 0 0 1 2 1 0|

  |0 0 0 0 0 1 2 1|

  |0 0 0 0 0 0 1 2|

で定義され,格子群の基本領域の体積Vと最短距離dは

  G=(d^2/2)^n|B|=1=V^2

より求められることになる.

 これらの隣接行列式を展開すると,

  |A2 |=3,|A3 |=4,|D4 |=4,|D5 |=4,

  |E6 |=3,|E7 |=2,|E8 |=1

が得られる.それでは,

  |An |=?,|Dn |=?,|En |=?

はどうだろうか.

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【2】An型ルート格子

  |A2 |=|2 1|=3

       |1 2|

       |2 1 0|

  |A3 |=|1 2 1|=4

       |0 1 2|

は容易に計算できる.

  ・−・・・・・−・

をAn のディンキン図形とすると,An+1は左から・−を作用させた

  ・−・−・・・・・−・

すなわち,

  ・−(An )

であるから,その隣接行列式は

        |2 1 ・・ 0| |2 1 ・・ 0|

  |An+1 |=|1 2 ・・ 0|=|1       |

        |0 1 ・・ 1| |0   An   |

        |0 0 ・・ 2| |0       |

で表される.

 右辺を第1行について展開すると

   |1 1 0 ・・ |

  |An+1 |=2|An | −|0   An-1   |

   |0        |

次に,第1列について展開して

  |An+1 |=2|An | −|An-1 |

 このことから,

  |An+1 |−|An |=|An | −|An-1 |

 =・・・=|A3 | −|A2 |=1

であり,したがって,数列{|An+1 |−|An |}は公差1の等差数列であることがわかり,

  |An |=1+n

が得られる.

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 次に,

  |2 1 ・・ 1| |2 1 ・・ 0|

  |1 2 ・・ 1| |1 2 ・・ 0|

  |1 1 ・・・1|=|0 1 ・・ 0|=1+n

  |1 1 ・・ 1| |0 0 ・・ 1|

  |1 1 ・・ 2| |0 0 ・・ 2|

を示してみよう.

 なぜ,このようなことをするのかというと,例えば,3次元の平行六面体の体積は

  V^2=|a↑・a↑  a↑・b↑  a↑・c↑|

     |b↑・a↑  b↑・b↑  b↑・c↑|

     |c↑・a↑  c↑・b↑  c↑・c↑|

で与えられ,点の配置が立方格子の格子線の交角を60°になるようにゆがめたとき,グラミアンは

    |d^2  d^2/2  d^2/2|        |2 1 1|

  G=|d^2/2  d^2  d^2/2|=(d^2/2)^3|1 2 1|

    |d^2/2  d^2/2  d^2|        |1 1 2|

として得ることができるというのがその理由である.

 3次の行列式であれば,行列式を展開して

  |2 1 1|   |2 1 0|

  |1 2 1|=4,|1 2 1|=4

  |1 1 2|   |0 1 2|

であることを確認することができる.しかし,直接

  |2 1 1|

  |1 2 1|

  |1 1 2|

  |2 1 0|

  |1 2 1|

  |0 1 2|

に変形することは難しいだろう.

  |2 1 ・・ 0|

  |1 2 ・・ 0|

  |0 1 ・・ 0|=1+n

  |0 0 ・・ 1|

  |0 0 ・・ 2|

は既に証明済みであるから,

  |2 1 ・・ 1|

  |1 2 ・・ 1|

  |1 1 ・・・1|=1+n

  |1 1 ・・ 1|

  |1 1 ・・ 2|

を示すことによって,両辺が一致することを確認してみよう.それでも立派な証明だろう.

 まず,第1行を他の行から引いて

  |2 1 ・・ 1| |2  1 ・・ 1|

  |1 2 ・・ 1| |−1 1 ・・ 0|

  |1 1 ・・ 1|=|−1 0 ・・ 0|

  |1 1 ・・ 1| |−1 0 ・・ 0|

  |1 1 ・・ 2| |−1 0 ・・ 1|

さらに第2列〜第n列を第1列に加えれば

  |2  1 ・・ 1| |1+n 1 ・・ 1|

  |−1 1 ・・ 1|=| 0  1 ・・ 0|

  |−1 0 ・・ 0|=| 0  0 ・・ 0|

  |−1 0 ・・ 1| | 0  0 ・・ 0|

  |−1 0 ・・ 2| | 0  0 ・・ 1|

のように上三角行列式となる.

 三角行列の行列式の値は対角要素の積になるから,

  |2 1 ・・ 1|

  |1 2 ・・ 1|

  |1 1 ・・ 1|=1+n

  |1 1 ・・ 1|

  |1 1 ・・ 2|

となることが証明されたことになる.

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【3】Dn型ルート格子

       |2 1 0 0| |      0|

  |D4 |=|1 2 1 1|=|  A3   1|

       |0 1 2 0| |      0|

       |0 1 0 2| |0 1 0 2|

となるから,第4行について展開すると

             |2 0 0|

  |D4 |=2|A3 |+|1 1 1|=4

             |0 2 0|

 |D5 |は|D4 | 

      ・

     /

  ・−・

      ・

に,左から・−をさせればよいので,

       |2 1 0 0 0| |2 1 0 0 0|

       |1 2 1 0 0| |1        |

  |D5 |=|0 1 2 1 1|=|0   D4    |

       |0 0 1 2 0| |0        |

       |0 0 1 0 2| |0        |

(第1行について展開)       (第1列について展開)

        |1 1 0 0|       |2 1 1|

 =2|D4 |−|0 2 1 1|=2|D5 |−|1 2 0|=4

  |0 1 2 0| |1 0 2|

  |0 1 0 2|

 D6以上の一般のnについても,前項同様に展開すると,漸化式

  |Dn+1 |−|Dn |=|Dn | −|Dn-1 |

 =・・・=|D5 | −|D4 |=0

 したがって,

  |Dn |=4

となる.

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 Dn型格子では

  G=(d^2/2)^n|Dn |=1=V^2

より,

  d^2n=2^n/4=2^(n-2)

と表されることがわかったが,これより,球充填密度は

  Δ(n)=vn(d/2)^n=(π/2)^(n/2)/Γ(1+n/2)/2

となる.

n   ルート  格子点間距離  球充填密度  log2Δ(n)/n

4   D4     1.189  0.619  −.174

5   D5     1.231  0.465  −.220

6   D6     1.259  0.322  −.271

7   D7     1.280  0.208  −.322

8   D8     1.296  0.126  −.372

9   D9     1.309  0.072  −.419

10   D10    1.319  0.039  −.464

 また,

  (log2Δ(n))/n→−∞

であるから,高次元ではランダム格子と密度が逆転する(n=28).

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【4】En型ルート格子

 E6では,まず,

    ・

    |

  ・−・−・−・  (D5 )

を求め,左から・−を作用させたものがE6,さらに・−を作用させるとE7,・−を作用させるとE8と続く.

 計算は省略するが,実際に計算すると,

  |E6 |=3,|E7 |=2

また,ラプラス展開によって,漸化式

  |En+1 |−|En |=|En | −|En-1 |

 =・・・=|E7 | −|E6 |=−1

が得られる.

 したがって,

  |E8 |=1

となるが,9次以上は正ではなくなるので,ここで打ち切りである.

n   ルート  格子点間距離  球充填密度  log2Δ(n)/n

6   E6     1.290  0.373  −.237

7   E7     1.346  0.295  −.251

8   E8     1.414  0.254  −.247

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