■テニスボール定理

【1】4頂点定理

 曲線全体が常に接線の片側にあるとき,その曲線を凸閉曲線あるいは卵形線と呼びます.このことは曲率κ(s)が符号を変えないことと同値です.平面上の閉じた曲線が凸曲線であるかどうかといった大域的な形状に関する性質も,曲率という局所的に計算できる量を用いて確かめることができるというわけです.

 そして,曲率κ(s)が極大値あるいは極小値をとる点,すなわち,κ’(s)=0となる点を頂点といいます.別の言い方をすると,通常のなめらかな曲線上では曲率円は曲線の2次近似となるのですが,頂点とは曲率円が3階微分以上に過剰に近似されてしまう特別な点のことと解釈されます.

 「単純閉曲線上には頂点が少なくとも4個存在する」というのが4頂点定理です.円の場合はκ(s)は定数ですから,すべての点が頂点ということになります.また,楕円の場合は

  κ(t)=ab/(a^2sin^2t+b^2cos^2t)^(3/2)

ですから,x軸,y軸との交点だけが頂点となります.ちょうど4つある例が楕円であり,楕円の場合が頂点数が最小になるというわけです.

 4頂点定理は「単純閉曲線上に曲率円が曲線の内側にある点が少なくとも2つ,曲線の外側にある点が少なくとも2つ存在する」とさらに精密化することができます.また,球面単純閉曲線についても4頂点定理は成り立ち,その応用としてテニスボール定理「球面単純閉曲線が球面を同じ面積の領域に2分するならばその曲線は少なくとも4個の変曲点をもつ」が知られています.

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【2】ガウス・ボンネの定理(球面上の平行移動)

 テニスボールは表面に閉曲線が刻み込まれている.この閉曲線上の点が常に床に接触するようにテニスボールを転がすとボールは垂直軸に沿って回転する.このとき回転角はどれだけになるだろうか?

 ガウス・ボンネの定理により,曲線に囲まれた全曲率がその答えである.テニスボールの場合,この曲線は対称で,全曲率4πのちょうど半分2πを囲んでいるので,回転角は2π−2π=0となる.

 フーコーの振り子の運動面は北極では1日あたり360°,赤道上では0°である(回転しない).緯度をφとすると,球帽の全曲率は2π(1−sinφ)であるから,この軌跡の全曲率は

  2π−2π(1−sinφ)=2πsinφ

で,これが振り子の運動面の全回転になる.パリ(φ=48°)では振り子は1時間当たり11°回転することになる.

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【3】特異点定理(毛の生えたボールの定理)

 北極と南極は緯線が集中する特異点である.地球の表面は球面であり,もし南極から北極に向かって経線に沿って風が流れているとすると,北極はいつでも嵐である.

 どのように風が吹こうが地球上のどこかで嵐が起こっているというのが「特異点定理」である.毛の生えたボールをクシでとかしてもかならずどこかにツムジができるのである.

 特異点は必ずひとつはあることになる.政治的には北朝鮮が地球の特異点になっているが,たとえ北朝鮮がなくなったとしても,次は別の国が特異点になるはずである.たとえはよくないかもしれないが,数学の定理を理解するためには良い例かもしれない.

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