■かみあわない話(その6)

 いわまん。さんの結論は「女の勘は良く当たる」ですが,もうひとつU嬢の話を取り上げたいと思います.

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 「もうすぐ犯行記念日」(講談社,日本推理作家協会編)の序文である.

『記念日をめぐる不思議なクイズがある.何の記念日でも構わないけど,個人に関わる一番ポピュラーな記念日ということなら,誕生日だろう.

 もし,ここに30人の構成員からなる集団があって,この中に誕生日の一致するペアが一組以上いるかどうか? このギャンブルをやるとしたら,あなたはどちらに賭けるだろう.誕生日なんてめったに一致するものじゃないよなあ.まして構成員はたった30人である.一も二もなくペアは一組もいないほうに賭けるのではあるまいか?

 だが,お立ち会い.これがそうでもない.特定の人を選び,その人と誰かの誕生日が一致する確率は確かに小さい.そう,1/365である.30人の集団の中で一致する確率はすこぶる小さいけど,このことと「30人の中の誰かと誰かが一致する」こととはまるで違う.

 確率計算はややこしくて,文筆家に向かないから省略するけど,疑う人は数学に堪能な人に尋ねて下さい.構成員が23人と越えるあたりで一致する確率が50%を越える.30人もいようものなら70%位の確率になる.まして,40人,50人ならばさらに高い.構成員3〜40人の職場を想定したとき,誕生日の一致する確率はまずいるものと考えたほうが妥当である.』

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 このクイズは数多くの本で取り扱われた有名なものであるが,確かに,少なくとも2人同じ誕生日の人がいる確率の大きさには驚かされる.これを読んだU嬢が早速小生に疑問を投げかけてきた.ひとつには,この数字が女の直感に反するというものであり,もうひとつには,実際の計算方法を見るまではどうしても合点がいかないというものであった.

 この序文には,おしつけがましく結果だけを書いてあるが,実際問題として,確率計算になれていないと,式の誘導は難しいだろう.とりあえず,信じるものは救われる.ホレ信じなさい.というわけであるが,天下り式で我慢できないかたは,以下の説明を参照しながら誘導を試みられたい.

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 このクイズのトリックは,2人が同じ誕生日である確率は,1/365と小さいけれども,30人もいれば,30人の中から2人を選び出す組合せ数(30,2)は,30×29/2=435通りもあることである.これであれば,同じ誕生日に生まれたペア数の平均値は435/365となるから,一組以上のペアができると期待できるのである.一般に,1年はd日とし,構成員をn人とするとペア数の期待値はn(n−1)/2dになっていることに注意されたい.

 式を誘導するため,次のような定式化をおこなってみよう.1番目の人と2番目の人が異なる誕生日である確率は1−1/dである.また,3番目の人が1番と2番の人と誕生日が異なる確率は,2番目の人は1番目の人と異なる日に生まれたとして,1−2/dである.

 したがって,n人全員が異なる誕生日である確率pnは,

  pn=(1−1/d)×(1−2/d)×・・・×(1−(n−1)/d)

となる.求めたい確率pは少なくとも2人同じ誕生日の人がいる確率であるから,

  p=1−pn

 d=365について,n=23では求める確率は0.5073,n=30では0.71,n=40では0.89にもなる.したがって,n=30〜40だったら少なくとも2人は同じ誕生日であるほうに賭けるほうが賢明であることがわかる.

 また,nがdに比べて小さければ,テイラー展開より

  1−k/d〜exp(−k/d)

  Π(1−k/d)〜exp(−Σk/d)

Σk=n(n−1)/2であるから,

  p〜1−exp(−n(n−1)/2d)

となる.

 ここで,先ほど説明したペア数の期待値n(n−1)/2dが再登場しているが,ペア数の分布は複雑であっても,その平均は単純であり,この近似計算はペア数の分布を平均n(n−1)/2dのポアソン分布で近似したものと考えることができる.電卓計算にはポアソン近似のほうが向いていて,たとえば,n=23,d=365であれば,p〜0.5000が得られ,真の値0.5073のよい近似となっていることが理解される.

n    20  23  30  40  50

正確な値 0.4114 0.5073 0.7063 0.8912 0.9704

近似値  0.4058 0.5000 0.6963 0.8820 0.9651

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 医療関係者の中には数学の専門家も感心するほど数学に堪能な方もおられるが,そのような方は多くはないし,医療と研究に追われて,このような問題を吟味する暇もなく,よくわからないまま過ごすことのほうが普通であろう.残念ながら女の直感は外れてしまったが,ともあれ,瑣末な問題にも興味を示したU嬢の好奇心は見習いたいものである.

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